【クリスマス特別編・終編】聖夜にベルが鳴り響く ~魔法使いは一人で蹲っていたんだけど、盗賊は愛する人を見過ごさないし勇者はけがない~
ブックマーク1000件感謝の特別編、最終話です☆
実は全4話だったというサプライズ。合計した文章量は短めの1章分くらいあります!
クリスマス終わってるけど、まあ気にすんな!(2回目)
ついに特別編の真打が登場する時が来ました!
いやユティナさん、あなたじゃないです。ステイ。
ベルの行方に、オスティンとエルマの結末。そして盗賊の運命やあれこれと。
全てに、決着の時です!
最後に笑うのは誰なのか?
そして、最後に怒るのは、いったい誰なのか!?
その結末は、どうぞ皆さま自身の目でお確かめくださいませ。
それでは最終話、ごゆるりとお楽しみください。
「それならば、ロックに探してもらうのはいかがでしょうか?」
ベルが見つからない旨を皆に相談したところ。
セーナから、こんな提案が飛び出した。
ロックとは、教会で飼われている大型犬の名前だ。
クリスマスの今日は、教会でイベントがあって多くの人が詰めかけてくる。
だから、安全のために今日一日だけうちの中庭にセーナが連れてきているのだ。
ターシャが午後はずっと一緒に遊んでたらしい。なごむ。
「できるのか?」
「ロックは賢い子ですから、多分大丈夫だと思いますよ」
セーナがそう言うんなら、大丈夫そうだな?
その言葉を信じて、ロックの力を借りることにする。
「じゃあ、ベルの持ち物を嗅いでもらおうかな」
「ハイ、ヨゲンシャさん」
オレが立ち上がると同時に、ターシャがどこからか取り出した布切れを渡してくれた。
「べるさんのヤツ」
「お、ありがとなターシャ」
片手でターシャの頭を撫で、もう片手で受け取った布を広げ
「これ、ベルのパンツじゃねーか!」
「!?
ハルトさんの変態っ!」
「ふかこうりょくっ!?」
ぱりぃぃん
セーナにメイスで殴られた尻をさすりつつ、教会の大型犬、ロックのリードを握って夜の街を歩く。
時々鼻を鳴らしつつ、しっかりとした足取りで進むロック。
吠えたりマーキングをすることもなく、行儀よく歩く姿にちょっと感心である。
これだけ大人しくてしっかりした犬なら、散歩とかも楽だろうなぁ。
ベルがどこに居るか分からないが、今日出かけてまだ帰っていないというだけだし、こちらも特別急いでいるわけではない。
夕食前の軽い散歩気分でロックと一緒に歩いていると、教会にたどりついた。
「って、家に帰ってきただけなんかい!」
思わずロックに突っ込むが、こちらを振り向いて「わふ?」と言うだけだった。
くっ、可愛いなおい!
仕方ないから教会の中を覗いて見るが、ほとんど人がおらず、もちろんベルも居ない。
中から出てきた若いシスター(もちろんセーナと別の人。モブ可愛い女性)に質問されたので、ロックを預かっていて、散歩していた途中で寄ったと適当に誤魔化した。
「ではやはり、あなたがハルト様で合ってましたの!
武闘大会の雄姿、見てましたの!」
それゾンビのやつぅ……
「セーナ先輩から伺うお話と、武闘大会でのお姿が全然違っていて、いつも気になってましたの。
うふふ、やっぱりセーナ先輩の言う通り──いえ、言わない通りでしたの」
「え、それどういうこと?」
「あ、何でもありませんの!
私が言ってたと知られたらセーナ先輩に怒られてしまいますの、ですから内緒になさって下さいなの!」
「は、はぁ……」
よく分からないが、セーナが教会でオレの話をなんかしてたんだな?
気になる……けど、怒られると言われたら聞きづらいなぁ。
まあ、教会の中にベルは居ないし。とりあえず帰るとするか。
テンション高めの若いシスターに別れを告げ(握手せがまれた。ちょっと嬉しい)ロックを連れて来た道を戻る。
教会来たのに帰っちゃ駄目なの? あそこがぼくのおうちなのに?
という感じで何度か振り返るロックを撫でてやりつつ、少し足早に屋敷へと帰った。
出迎えてくれたセーナに、ロックは教会に帰っただけで、ベルは発見できなかったことを報告。
首を傾げつつセーナが報告してくれた所によると、ジュネさんの夕食はできたが、いまだにベルは帰ってきていないとのことだった。
かなり前、ベルが家出した時のことが頭をよぎる。
あの時も、最初はどうせすぐ帰ってくるだろうと思っていたけど、全然戻らなくて。本当、困ったもんだったよなぁ。
いや、家出の手紙があったし、あの時と今日とでは状況が違うんだけどさ。
うーん、クリスマスでごちそうって話は知ってるはずなのに、まだ帰って来ないとはなぁ。どうしたものか。
全員揃ってないが、もう料理も終わってみんな待ってるし、夕食にするかなぁ。
そんなことを考えながらひとまず自室に戻ると、なぜかテーブルの上に本が積まれ――
「って、ユティナさんのエロ本じゃねーか!」
ユティナさんのエロ本と言っても、ユティナさんが描かれた本という意味ではない。
家探しで発見したと称して、ユティナさんが持ってきて持って帰って行った本のことである。
あと一番上の本の表紙は、ミリリア似の子ではなくユティナさん似の女性だった。
ただし胸は本人より大きうおおおおナイフ降ってきた!?
「本人が居ないのにデストラップ!?」
こええ!
罠解除スキル発動!
思わず罠解除スキルを使ったが、他に罠は発見されず。
一瞬レベル不足で見抜けなかったのではという恐怖を感じつつ、辺りを注意深く観察する。
と、天井から降ってきたナイフが、まるで果たし状のように手紙を貫いて床に縫い付けていることに気づいた。
なんとなく怖いものを感じつつ、見ないわけにもいかないので開く──
『いとしのはると・まいだーりんへ
くりすますぷれぜんとありがとう♪
こんなすてきなさぷらいず、びっくりしちゃった☆
おれいに、わたしのほんをあげるから、さびしいときはいっぱいつかってね。きゃは★』
……なんなんだこの手紙は?
嫌がらせの手法が新しくなったな、おい……
目を閉じて、思わず目頭を揉む。
ふう……見なかったことにしよう。
そう思って畳もうとしたときに、紙の一番下に小さく書かれた一文が目に入った。
『聖夜のベルは、教会の裏庭で鳴る』
「教会、裏庭……
――そうだ!」
- - -
王都の噴水広場がカップルのスタート地点ならば。
カップルのゴール地点は、どこになるのだろうか?
ある人は言うだろう。ホテルです、と。
うむ、確かにゴールである。
翌朝、したり顔で『昨夜はお楽しみでしたね』と言われてしまえばいい。
また、ある人は言うだろう。自宅です、と。
これも意味合いは同じだ。
ロマンチックの欠片はないが、非常に現実的な回答であると言わざるを得ない。
じゃあ、ロマンチック溢れた人にとって、聖夜のゴール地点はどこになるのか?
見るべき場所、カップルで訪れるべき場所は多々あれど。
おそらく、その中でわりと多くの票を集めるべき場所が、ここ。
教会の、裏庭である。
クリスマスの日。
この一日限定で、教会の裏庭が解放され、誰でも訪れることが可能となる。
元々は老若男女問わず開かれた催しであったが、最初の起こりがどうであれ、いつしかクリスマスの教会の裏庭ではこんな話が囁かれるようになった。
クリスマスの鐘をカップルで鳴らせば、一年間仲良く幸せに過ごすことができる、と。
『一年間』という辺りに、来年もまた来てねという作為的なものを感じなくもないが。
ともあれ、クリスマスにデートをするカップルにとって、教会の鐘を二人で鳴らすという行為は定番となっていた。
「はあ……何やってるんだろ、あたし」
そんな、次から次へと訪れては賽銭を投げて鐘を鳴らすカップルの姿を、裏庭の一角にしゃがみこんで眺めつつ。
ベルルーエは、小さな呟きをこぼした。
自分の力ない言葉に、弱々しい返事を返すかの如く。
お昼前から何も食べていないお腹が、小さく鳴った。
「バカみたいだなぁ。
分かってるもん、ほんとはあたしだって……」
ハルトが、誰よりもミリリアを好きなことを。
ハルトが、一番セーナを信頼していることを。
ハルトが、胸の大きい女性を好きだということを。
ハルトが、自分達を、オスティンとくっつけようとしていることを。
「それでも──」
それでも。
それでも、自分に嘘はつけないのだ。
ベルルーエは。
初めて会ったあの日から。
一目見た、あの瞬間から。
ハルトしか、居ないのだ。
ハルトでなければ、ならないのだ。
「……ハルトの、ばーか」
そして、それ以上に、自分の、ばーか。
胸中で呟いて。
滲む涙が周りに見えないよう、膝を抱えて俯いた。
「……ベルはバカだなぁ」
だから、そんな声が聞こえた時、寒さと空腹で朦朧とした意識が聞かせた幻聴だと思って。
そう思いながら勢いよく上げた頭が、何かにぶつかりゴンっと大きな音を立てた。
「いっ、たぁぁ……」
「ぐ、おぉ……おまえ、なぁ……」
前の前に膝をついていたハルトが。
ベルルーエの頭で痛打された鼻を押さえつつ、呆れとも笑いともつかぬ顔を見せた。
「は、はると……?」
「ああ。
探したぞ、ベル。何も言わずにこんなとこで待たれても、分かるわけないだろうが」
ちょっと困った顔をしつつ、それでも。
自分を見つけてくれたハルトの手が、ゆっくりと自分の髪を撫でるのを感じて。
「おーおー、こんなに冷えちゃ――」
「はるとぉぉっ!!」
ベルルーエはハルトに飛びつくと、大声をあげて泣きじゃくった。
ハルトはベルルーエの冷えた身体を受け止めると、仕方ないなぁとばかりに苦笑してゆっくりと頭を撫でていた。
もうだいぶ前の事だが。
家出したベルルーエを見つけて連れて帰る時に、ベルルーエが言っていたのだ。
教会の裏庭に鐘が出されたら見に行きたい、と。
たった、それだけ。
それだけの話だった。
いつ出されるとも、一緒に行こうとも、話は一切なく。
ぽつぽつと、取り留めない会話の中で漏れ出た、言葉の中の一欠けら。
たったそれだけの話を、自分の中で大切に抱きかかえて。
ベルルーエは、一人、朝からここでハルトを待っていたのだ。
「本当……バカで、不器用な奴だよ」
「……でも、来てくれたもん」
ユティナがもたらした情報と、ロックが教会に来たこと。
この2つがなければ、ハルトも思い出すことはなかっただろう。
だが、そんな過程をベルルーエが知ることはないし、気にすることもないだろう。
今ここで、二人は並んで立ち。
「それじゃ」
「せーの」
「「メリークリスマス!」」
二人仲良く、教会の裏庭に設置された鐘を鳴らしている。
それだけがベルルーエにとって全てであり、胸中に満ちる幸福感と共に、ハルトへの想いを強く強く再認識するばかりであった──
ベルルーエにとって。
いつか夢見た、ハルトと二人で教会の鐘を鳴らすこと。
それだけでクリスマスは幸せで満ち足りたものとなり、それが為されただけで他の事は全て些事となった。
――だが、他の事を些事と切り捨てられないものもいる。
具体的に誰とは言わないが、とある世界で『盗賊A』と呼ばれる男のことだ。
自室に引き上げたと思ったら、突然走って屋敷を飛び出して行った盗賊を心配し、共に暮らす仲間達は彼の自室を訪れた。
そこで彼女らが見たのは、山と積まれたいかがわしい本の数々。
それと、クリスマスプレゼントのお礼とおぼしき、女性からの可愛らしいラブレターであった。
僧侶は、身代わりの指輪の残数を数え始めた。
異国幼女は、教育に悪いからと連れ出された。
母娘は、こういうのが神の趣味嗜好なのかと、熱心に分析を始めた。
その頃王城では、メイドがこんな結果になるだろうなと予想して、楽しそうに笑っていて。
王女はそんなメイドの嬉しそうな様子を見て、自分の予想が当たっていることを確信した。
そして、錬金術師は。
盗賊に渡した薬の結果がどうなったかを知りたくて、うずうずしていた。
……ところで、盗賊の住まう屋敷の住人とは別に。
もう一人、いや二人。
ベルルーエが行方不明になった後の騒動を、些事と片付けられぬ者達が居た。
夢にまで見た最高級のレストランで、二人きりで食事をした後。
夢見心地のまま、王都最高のホテルに、当然二人きりで宿泊。
順番に、シャワーを浴びて。
互いに期待と緊張の中、ついに昔日の想いが結ばれる時を迎えた二人――
「綺麗だよ、エルマ。
ずっと、ずーっと、君とこうなりたいと思っていたんだ」
「あ、あたしも……
あたしも、オスティンが、オスティンの事が、ずっと」
ベッドの上で、一糸纏わぬ姿で触れ合ったところで。
突然、男性の髪が、かつらがずり落ちるように全て抜け落ちたのだ……!!
「きゃっ、きゃあっ!?
おおおオスティン、かみっ、髪の毛がっ!?」
「え?
あ、え、ええええええ!?」
最高のホテルで、愛しい相手と、遂に結ばれる時がきた、その瞬間。
ここにきて、突然のハゲである。
ハゲスティン、爆誕である……!!
この日からしばらくの間、ハルトの屋敷に対して赤髪の暗殺者が出没することになるが、この時点ではまだ誰も理由も原因も解決方法も、何もかも分かっていなかった。
だが、一つだけ分かったことがある。
(これは、エルマと結ばれるのはまだお預けだなぁ……)
オスティンにとっては同じでも、エルマから見たオスティンの姿はハゲスティン。
この状態で、何事もなかったように初体験を迎えるというのは、並大抵のメンタルでは無理であろう。
それこそ、大剣に胸を貫かれても平気で歩き回るような盗賊並の──
(あ、この抜け毛もハルトの仕業かぁ。それ以外ありえないよねぇ、命に危険があるわけじゃないし。
うーん、流石にこれは、本気で怒っていいよね?)
――事実の一端に気づいてしまったため、出没する暗殺者が二人に増えた瞬間であった。
この世界の全ての者達が、幸せで楽しいクリスマスを、平和で明るい未来を過ごせますように。
そんな綺麗ごとを考えながら。
クリスマスに幸せどころか、酷いトラウマを受け付けられた二人の暗殺者が繰り出す刃を、盗賊は今日も必死で避けるのでした──
□―――――――――――――――□
【 勇者によるプレゼント配達作戦 】
~ クエストクリア ~
●Result
・ 好感度 セーナ→ハルト +
・ 好感度 ターシャ→ハルト +
・ 好感度 クォミーエ→ハルト ++
・ 好感度 ジュネ→ハルト ++
・ 好感度 アズサ→ハルト +
・ 好感度 カナミエ→ハルト +
・ 好感度 カナミエ→オスティン +
・ 好感度 ミリリア→ハルト +++
・ 好感度 ユティナ→ハルト ++
・ 好感度 エルマ→オスティン +++
・ 好感度 オスティン→エルマ +++
・ 好感度 オスティン→ハルト ++
・ 好感度 エルマ→ハルト +
□―――――――――――――――□
【 聖夜にベルが鳴り響く 】
~ クエストクリア ~
●Result
・ 好感度 ベルルーエ→ハルト ++++
□―――――――――――――――□
──すべての人に、幸せな聖夜が訪れますように。
メリークリスマス☆
「いやー、そうかそうかよー!
あの薬を染み込ませた計画書を素手で触っただけで、ちゃぁんと勇者くんが24時間後にハゲになったんだねーっ!
いやぁ素晴らしい実験だったよハルトくぅん。流石はうちの旦那様だねーっと。
しかも毛生え薬の方を渡し忘れるなんて、ぶふーっ、最高に笑えるじゃぁないかぁ。面白過ぎるねーっとぉ!
じゃあそんな素敵な旦那様に、うちからのクリスマスプレゼントだよーっとぉ。
ふふふ。今夜は性夜なんだもの。うちの身体、好きにしちゃお……?」
□―――――――――――――――□
【 実験・ハゲ薬 】
~ クエストクリア ~
●Result
・ 好感度 ディーア→ハルト ++
・ ハゲ薬 入手!
・ 毛生え薬 入手!
・ 好感度 オスティン→ハルト -
・ 好感度 エルマ→ハルト 絶対にぶっ殺す!
□―――――――――――――――□
□―――――――――――――――□
オスティン は 毛生え薬 を使った!
オスティン の髪型が、元に戻った!
・ 好感度 オスティン→ハルト +
・ 好感度 エルマ→ハルト 絶対にぶっ殺す
□―――――――――――――――□
- - -
大・団・円!!
オスティンとエルマ以外は幸せになったところで、これにて聖夜の特別編は閉幕でございます。
四日間に渡る特別な物語、いかがでしたでしょうか?
作者自身、ノリと勢いだけで突き進んだら思いもよらぬ部分が生えてきたりしましたが……
ハゲスティン!
彼については、むしろ生えずに抜けてしまいましたね(酷い)
本編は、まだまだ熱い決勝戦の真っただ中。
しばらくシリアスなバトル進行が続きますが、これもまた本作の一面ということでお楽しみいただけますと幸いです。
でも所詮は盗賊とその仲間達。このままシリアスなストーリーにクラスチェンジ、なんてことはありません(断言)
必ずまた、ひどいやりとりで笑える有様をお届けすることをお約束しましょう。
具体的には、6話後くらいに(ネタバレ)
そういうわけで、最後にお願いです!
作者からのクリスマスプレゼントということで、特別編を中心に今週は五日間連続更新でお送りしました!
楽しかった、よく頑張った、ハゲスティン吹いたなどなど、少しでも笑いや心の中に何かを残せたならば!
作者へのクリスマスプレゼントと思って、まだの方は是非ともブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)などなど、ご褒美ください!(直接的)
ブクマや評価(★★★★★)済みの方々も、気軽にイイネや感想、レビューなど大・々・歓迎いたします!
作者の喜びは作品へのエネルギー。今後も楽しい物語をお届けできるよう、是非ともご声援よろしくお願いします☆
それでは、長々とお付き合い下さりありがとうございました!
次回から、引き続き決勝戦をお楽しみくださいませ。
――待たせたな、ガンゼイオー。
それじゃぁ決勝の続きだ、オレの木刀でぶちのめしてやるからなぁっ!