【クリスマス特別編・裏編】聖夜にベルが鳴り響く ~勇者はプレゼントを配ってたんだけど、盗賊は姫とメイドの相手でプレゼント配りはしていない~
ブックマーク1000件感謝の特別編、三話目です☆
本日は裏編、なんと前後編ではなかったというサプライズプレゼントでした!
メリー☆クリスマス終わってるけど、まあ気にすんな!
プレゼント配りを終えたオスティン、そしてエルマに何が起きたのか?
冒頭以来全然出て来ない盗賊は、今何をしているのか?
答えは、タイトルにありま(以下略)
特別なイベント日、クリスマス。
朝から王城を訪れたオレは、ミリリアが自ら淹れてくれた紅茶を飲みながら、幸せな時間を過ごしていた。
「それでユティナがね――」
「オスティンが匂いだけで酔っ払ってさ──」
ミリリアと過ごす時間は、珍しいわけではない。月に一度以上は、王城で二人で過ごす時間を作っている。
だけど、この時間は、オレにとって何よりも大切で、かけがえのないもので。
この世界で、一番オレが守りたいものだ。
でも今は、そんな気持ちは置いておいて。
ミリリアとクリスマスを過ごせる、その幸せをかみしめていた。
ゲームにおいては、ミリリアは心に傷を負い、深くふさぎ込んでいる。
そのため、ミリリアとのクリスマスイベントでは、特に大きな会話や特別な出来事は起こらない。
クリスマスプレゼントを贈り、お返しにプレゼントをもらうだけで、あっさりと一日が終わってしまうのだ。
でも、この世界なら。
ミリリアが笑顔を浮かべられる、この世界でなら。
特別な一日を、大切なミリリアと、二人で過ごせるのだ。
「うふふ。
今日のハルト様は、いつもよりも、もっと優しい目をされてますね?」
「えっ?
いや、そんなこと、ないと思うけど」
「わたくしの目は、誤魔化せませんよー?
なんせ、いつだってハルト様を見つめているんですから。ね?」
小首をかしげるミリリアの可愛さに撃たれて、床にくずおれる。
「うっ、ミリリア光線が突き刺さって、もう駄目だ……」
「まあ大変!
ではハルト様、肩をお貸ししますのでベッドにいらして下さいな?」
「べべべべっと!?
だっ、だめですギャンブルはまだ早いです賭け事は禁止です!」
オレの発言に、意味が分からなかったのか一瞬きょとんとした後。
「あら、ハルト様お元気でございますわね?
もう駄目なんておっしゃるから、わたくし、とっても心配しましたのに……」
今度は、笑いながら泣き真似をするミリリア。
「ご、ごめん!
でも、ミリリアが、その、可愛すぎて…苦しい、です……はい、とっても……はい」
ちょっと言葉につまりつつ、身を起して椅子に座りなおす。
「ふふっ、嬉しい」
そんなオレの言葉にも、ミリリアは本当に嬉しそうに微笑んでくれて。
「わたくしに、幸せを下さって、ありがとうございますわ。ハルト様」
「……オレの方こそだよ。
ミリリアが、笑顔で居てくれる。それだけで、オレは世界で一番幸せだし、そのためならいくらでも頑張れるんだよ」
「まあ、それは聞き捨てなりませんわ!
ハルト様が居て下さるわたくしの方が、ハルト様よりも幸せなんですからね!
世界で一番はわたくしですわ!」
「いやいやいや、そんなことないって!
オレはミリリアが笑顔で過ごしている、それだけでちょー幸せだからね!
その上、その笑顔をオレに向けてくれているから、もうミリリアの二倍は幸せだもんね!」
「ずっ、ずるいです、そんなのずるいです!
わたくしの方が幸せなんです!
いえ、わたくしを世界一幸せにして下さい!」
駄々をこねるように叫び、ミリリアは席を立ってこちらに来ると。
「ハルト様。
わたくしを、世界で一番、幸せにして下さいまし……」
オレの首を抱き、体重を預けて寄りかかりながら。
甘い声でもう一度言葉を繰り返すと、真正面から顔を覗き込むようにこちらを向いて、ゆっくりと目を閉じた――
ミリリアは夜のパーティに出席しなければならないということで、夕方には一度王城を辞して屋敷へ戻った。
自室に戻ると、そこにはミリリア命令でうちの屋敷に待機させられていたユティナさんが。
どこから持ち込んだのか、大量のエロ本をテーブルに積み上げて、紅茶を飲んでいた。
「ハルトさんの部屋から押収された、いかがわしい本の数々。証拠品として、姫様に献上いたしますね」
「全力で濡れ衣過ぎるだろ、一冊も見たことないわ!」
あ、一番上の本の表紙の子、ミリリアに似ててちょっとかわい──
「──今、この本の女性が姫様に似ているからこの本が欲しいと思いましたね?」
「お、思ってないです、思ってないです!」
似ているとは思ったけど!
まだ、欲しいと思ってないです! まだ!
「ちっ。
それでは、髪型と髪の色と胸のサイズだけが姫様に似た女性の書かれたこの本は差し上げましょう。
姫様にはそれ以外の、私そっくりの女性が掛かれた本を献上し、これがハルト様のご趣味ですとお伝えしておきます。
――誰が貧乳ですか、死ね盗賊!」
「オレ一言もしゃべってないんだけど!」
このメイド、活きが良すぎる……!!
「そういうわけで、オスティン様はベルルーエ様以外にプレゼントを渡し、カナミエ女王を追い払って夜の街へ消えていきました。
きっと今頃は、エルマ様としっぽりしていることでしょう」
「早すぎるわ、まだ夕食中だろ」
オスティンが置いていった、ベルの分のプレゼントを受け取る。
他の人の分は、全員に渡してくれたらしいので。1つだけ残った形だ。
「長年こじらせ続けた二人ですから、切っ掛けさえあれば、それはもう。
レストランの食事の前に、前菜としてぺろりと完食するぐらい造作もないかと」
「何もかもが酷いな」
まあ、ちょびっとだけ言ってる意味は分かるんだけども。
「ベルルーエ様だけは、朝からこちらの屋敷に戻っておりませんので、依頼失敗と見なすこともできますが。
今からファンブルグの予約をキャンセル致しますか?」
「しねーよ、そんなこと。
オスティンにも、しっかりと幸せなクリスマスを楽しんでもらいたいからな」
勇者として魔王を倒すという、過酷な戦いを世界から求められているんだ。
せめて今日くらい、オスティンにも幸せで素敵な一晩を過ごして欲しい。
せっかくのクリスマスなんだから、それくらい世界だって許してくれるだろ。少なくとも女神は許してくれる。
「そもそも今回予約を取れたのは、王族としてミリリアが特別室を押さえてくれたからじゃないか。
オスティンに与えることはミリリアも許可してるんだし、オレがどうこういうものでもないさ。
──まあ、万が一ミリリアがキャンセルするって言いだしたら、それは止めてあげてくれってお願いするけどね」
そう。
今回、本来取れるはずのない予約が何とかなったのは、ミリリアによる国家権力パワーである。
本当はオレと二人で来たかったけど、それは叶わないので好きに利用してくれとミリリアに予約権を(利用料金支払い済で)渡されたのだ。
でもオレだって、ミリリアが予約してくれた場所へ、ミリリア以外の女性と行く気にはならない。
少なくとも、初めて行く時はミリリアと一緒に行きたい。
だからオレは、良い機会なのでオスティンへのプレゼントにしたのだ。
しかし、ただのプレゼントとして贈るには、この2店はものすごいお値段&レアリティ。
いくらクリスマスとは言え、突然こんな権利を渡されたら、根は貧乏なオスティンがものすごーく気にすることは分かり切っていた。
なので、せっかくだからオスティンにはメイデンからの好感度を稼いでもらい、その報酬として渡すことにしたっていう筋書きなわけだ。
――オスティンには、内緒だよ?
「ハルト様が、たまに善人に見えてしまいます。
どうやら私も精神汚染が進んでいるようですね。お城の医務室に帰りたいと思います」
「ああ、そりゃ大変だな。さっさと帰ってくれ」
紅茶を飲み終えて立ち上がり、優雅な礼をするのを見届けて。
お城に帰るユティナさんを、玄関まで送っていく。
「いつもは勝手に帰れと言わんばかりですのに、今日はサービスがいいですね。
まさか、この期に及んで私まで手籠めにしようと……?」
「一人も手籠めにしてねーよ、知ってるだろうに」
「はい、知っております。
ジュネ様の勤めていた娼館の前で土下座していたことも、裂けちゃうからもういれないでと叫ぶ妹に無理やり身代わりの指輪を填めるところも、全て見ておりましたから」
「見てたのかよ!?」
本当にこのアサシンメイド、油断も隙もならんな!
ミリリアの命令がない限り、いつでも近くに潜んでると思った方がいいかもしれん……こわ。
「それではこれにて。
紅茶、ご馳走様でした」
玄関のドアを後ろ手に閉め、二人で外に出る。
だいぶ暗くなった冬の空の下、ユティナさんがこちらを向いて綺麗に頭を下げた。
「ああ、うん。自分で持ってきたものを自分で淹れたんだから、本当にお構いしてないわ」
「そうでした。
茶くらい振る舞え、でございます」
「申し訳ない、ユティナさんの主の命令でお城に呼ばれてたもんでね!
ユティナさんが、主の命令でうちの屋敷に待機していたようにね!」
「くっ……いいでしょう、今日のところは恨みポイント+1しておいてやりましょう」
「恨んでるじゃねーか!」
ツッコミが止まらない……!
「では」
「ああ、ちょっと待って」
ツッコミばかりで忘れるところだったが。
「まだ何か? はっ、まさかこの期に及んで」
「いつもありがとう。
ささやかだが、感謝の気持ちだよ」
同じネタを繰り返すユティナさんを遮り。
意外と小さなその手に、ユティナさんのために用意したプレゼントを、無理やり握らせて。
「じゃ、ミリリアによろしく言っておいてな。
おやすみ、ユティナさん」
いつも言い合ってばかりの相手だと思うと、なんとなく気恥ずかしくて。
口早にそう告げて、オレは玄関から室内に戻った。
「……ふう。
ちょっと緊張した」
一息ついて。
「で、オスティンも会えなかったようだが、ベルはどこにいるんだろうな?」
オレはベルを探して、とりあえず屋敷の皆に聞き込みをすることにした。
「……これは、何ともしてやられましたね。
まさかこのような不意打ちをしてくるとは──流石盗賊、油断なりません」
小さく、口角が上がるのを止められず。
己自身に対して、己の笑みを誤魔化し、上ずった感情を吐き出すためにメイドは独り言を続けた。
「内容が何であれ、プレゼントを受け取った以上はメイドとして返礼をせぬわけに参りません。
しかし今手元にあるのは、家探しの結果発見された(ことになっている、いかがわしい書店で仕入れた)書籍の数々のみ。
本来姫様に献上すべき代物ではございますが――今日のところは私の負けにして差し上げましょう。
仕方ないから、コレをどこぞの変態盗賊への返礼品にしておきましょうかね。ささやかなサービスを添えて」
──続く!!!