【クリスマス特別編・後編】聖夜にベルが鳴り響く ~勇者は盗賊の指示でプレゼントを配るんだけど、盗賊の計画通りに物事を進める気はない~
めりぃぃぃ(二度目) くりすまーーっす!!
ブックマーク1000件達成、大感謝の特別編です☆
本日は後編、オスティンのプレゼント配りをお届けします。
果たして、盗賊の計画通りに物事は進むのか?
答えは、タイトルにあります!!(恒例の酷いネタバレ)
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午前6時。
屋敷で朝食の準備をするセーナの下へ、早朝からオスティンが訪ねてきた。
「おはようございます、オスティン様。
こんな朝早くに、ハルトさんへの火急の要件でしょうか?」
「おはようございます、セーナさん。
朝早くにすみません、ハルトではなくセーナさんに用が会って伺いました」
「私に、ですか?」
セーナとオスティンの接点は、あまり多くはない。
初めてオスティンが教会を訪れた際に話をして、共にスケルトン騒動を解決し。
その後は、オスティンの頼みもあり、セーナはずっとハルトに同行している。
おはようからおやすみまでハルトを監視――見守る生活はすでにセーナのライフサイクルとなっており、オスティンはあくまでハルトの友人という立ち位置でしかなかった。
それは、オスティンにとっても同じ事である。
お互いに、ハルトからの評価や話はよく聞くが、あくまでハルトを経由しての関わりとなっていた。
「まだ朝食の準備中だよね?
手伝うから、準備しながら話しをさせてもらえるかな。ハルトに関することでね」
その言葉だけでピンときたのか、小さくためいきを吐くと。
「わかりました。では、こちらへどうぞ」
セーナはオスティンを連れて、台所へと向かった。
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セーナへの『プレゼントを渡し』終わり、ハルトの家で皆と朝食を共にして。
午前8時。
ターシャから精霊魔法について教えてもらうという名目で、オスティンはターシャと共に中庭にいた。
「セイレイさん、ミえなくても、いつもイッショ、たーしゃのナカにハイる。
おすてぃんさんも、きっと、いつかセイレイさんにイれられてイける!」
「うん、ありがとうターシャちゃん」
便宜上、ハルト一家と呼ぶが。
ハルト一家の中で、特にターシャはオスティンと接点が少ない。
なぜなら、慣れない人にはターシャの発言の突拍子もなさがヤバいということで、オスティン(というか一緒にいるエルマ)とはあまり話さないようにされていたからだ。
確かに発言だけ聞くとギョっとする時はあるが。
ターシャ自身には他意は無く、心根は優しく素直な良い子だ。
「ターシャちゃんは、ハルトが好きだよね?」
「ウン! たーしゃ、ヨゲンシャさん、スき!
いつもイッショ、ずっとヨゲンシャさんとツナガってイキたい!」
発言だけ聞くと、ギョっとする時はあるのだが!
素直な良い子で、他意は無い、はずだ。そうであってくれ。
「そんなターシャちゃんに、プレゼントがあるんだよ」
「んえ?」
セーナが一日だけ連れてきた、大型犬を撫でつつ。
驚いた顔をしたターシャに、オスティンは笑いかけた。
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午前10時。
ハルトからの依頼通り、ターシャの『好感度を稼いで』『プレゼントを渡し』終わったオスティン。
次なるターゲット、ベルルーエを探すが彼女は家の中に居なかった。
「これは困った。
相手が居ないんじゃどうしようもないし、ハルトに相談してみるかなぁ」
屋敷の中のハルトの自室を訪ねると、なぜかそこにはハルトではなく──
「オスティン様、どうなさいましたか?」
「あれ、ユティナ……さん?
どうしてここに居るんですか?」
ミリリア付きのメイド、ユティナがハルトの部屋に待機していた。
「……あの劣悪な盗賊──失礼、ハルト様に何か御用でしょうか?」
「あっ、はい」
これは突っ込んだらいけないやつだ。
短い王城生活ながら、王族メイドの機微というやつを学んでいたオスティンは、疑問を棚上げして本来の目的だけを果たすことにした。
「ハルトから、ベルルーエさんに会うように言われたんですけど。
この屋敷に居ないから、どうしようかと思って相談に来たんです」
「実は相談内容も、存じておりました。
今朝がた、行先を告げずに家を出ておりますね。今探していますので、しばらくお待ちください」
なぜ質問する前から相談内容を知っていたのか?
というか、知ってたんならオスティンに用向きを尋ねる必要はなかったのでは?
「メイドとして、様式美は必要な事なのです。
主人やお客様の手を煩わせることなく、全てを完璧にこなしてこそのメイド」
「あっ、はい」
疑問が顔に出てしまっていたらしい。
「ならばこそ、品性愚劣なる盗賊など一刻も早く消し去るべき、しかし姫様の御心を悲しみに染めるなど言語道断。
つまりオスティン様には、一刻も早く相手の記憶を選択して消し去る都合の良いアイテムの獲得を果たしていただきたく――」
あ、これここに居るとまずいやつだ。
冒険の旅の中で培われた第六感が警鐘を鳴らすや否や、オスティンは空気の淀んだハルトの部屋から退室していた。
「……ちっ、逃げられましたか。
まあいいです、今日のところはオスティン様にも役目があるのですから大目に見ましょう」
ドアを閉めたはずなのに、ユティナの声は首筋のすぐ後ろから聞こえた気がして、オスティンは身震いしつつ走って逃げた。
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午後0時。
まだ18歳ながらに、母であるジュネさん譲りの色気をまとったクミちゃんことクォミーエと、これまたハルトが予約していたカフェで昼食。
底知れぬ……と言うほどではないが、母親とはまた違った意味で情熱的な様子に、ちょっと笑顔を引きつらせつつ。
指示通り、しっかりと『好感度を稼ぎ』『プレゼントを渡した』
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午後2時。
ハルトがあらかじめ声を掛けてあったということで、屋敷の中庭でアズサと対峙する。
この時だけは、指示とか計画とかお礼とか仕返しとか忘れて、真剣にアズサと斬り結ぶ。
心地よい疲労感の中、非常に充実した時間を過ごしたことに感謝して、しっかりと『好感度を稼ぎ』『プレゼントを渡した』
……ちょっとだけ、予定外に『好感度を稼いで』しまったかもしれないが、友人ということでそのくらいは良いだろう。
アズサ曰く、東方では兄と妹が結婚するのは当然の事らしいので、少しくらい友人と仲良くしても問題はないはずだ。
引き続き、アズサにはハルトの刀として頑張って欲しいものだ。
なお、アズサがハルトの刀で、セーナはハルトの首輪だとオスティンは思っている。
特に深い意味はないが。
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午後4時。
最大の難問が、オスティンの前に立ちふさがった。
おばちゃ――ごほんごほん、カナミエ女王陛下である。
なぜかハルトは、いつもいつもおばちゃんと呼んでばかりいるが、女王陛下相手に大変恐れ多いことだ。
もしもハルトが感染して、オスティンがうっかり女王陛下の事をそのような不敬な呼び方をしたら、どんな事になるか分かったものではない。
打ち首ならまだマシ、最悪の場合は結婚を命じられるのだ!
なんて恐ろしい。許すまじ、感染源。
そんなどうでもいい思考を、頭を軽く振って追いやり。
髪についていたゴミを手で軽く払って、オスティンは覚悟を決めた。
ちなみに、今いる場所はターシャと話をしたり、アズサと模擬戦をした中庭である。
今ここに居るのはオスティン一人だけ。朝から居る教会の大型犬は、危ないので一時避難させてあった。
(流石に、カナミエ陛下を召喚する呪文は、ちょっとくらい変えても許されるよね?)
おばちゃん結婚、とは言えない。不敬である、罰が恐ろしい。
だからオスティンは、少しだけアレンジして、カナミエ女王陛下を呼んでみることにした。
……個人の屋敷の中庭で、声を出して名前を呼んだくらいで、他国の女王陛下が突然現れるわけないよね?
という気持ちは、これっぽっちも持っていなかった。
そのくらいには、ハルトを信用していると言うか、カナミエ女王陛下を理解していると言うか。
つまりは、オスティンも順調に毒されていると言うことであった。
「カナミエ女王陛下よ。
我が友ハルトが、結婚」
「──!」
結婚の二文字を口にし終わったかどうか。
それさえ分からぬまま、すさまじい威圧感と共に、流星の如く突っ込んでくる飛竜。
否、飛竜に乗ってさえ居らず、生身の女王陛下が空から突っ込んできた!
(この人も、大概超人だよなぁ……)
流れ星を目にしたオスティンは、願い事を唱える事もなく、そんなどうでもいいことを考えていた――
竜極超人、カナミエ=ファード=ゼイニドラ。
飛竜も駆らずに、空から堂々の登場である。
人はそれを、不法侵入と呼ぶ。
王都の方で、衛兵がざわっとした。
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午後5時50分。
フェイルアードの噴水広場は、多くの人で溢れて居た。
そのほとんどがカップルか、あるいは相手待ちの独り身であり、家族連れを見かける事はない。
王都のカップルにとって、この噴水広場は最もスタンダードなスタート地点であった。
道行く人や、道行かず待ちくたびれる人、あるいはカップルで楽しそうに談笑する人々を眺めながら。
もう何度目になるか、エルマは手鏡で自分の髪や服装をチェックしていた。
オスティンから、クリスマスのデートに誘われた。
あの、いつも爽やかで、気品があって、男性なのに美しくて、でも笑顔は可愛らしくて、昔から誰よりも格好よくて、強くて優しくて、いつでも女達にモテモテの、オスティンから!
自分が! 自分が、クリスマスを一緒に過ごそうと、誘われたのだ!
しかも、しかもである。
今日は、なんと二人きりというのだ!
オスティンの事だから、絶対に『ハルトの家でパーティー? うん、いくいくー! あ、エルマとディーも誘っていい?』というパターンだと思ったのに!
絶対そうだと思って、実はディーと賭けてたのに!
賭けに負けて大金取られたけど、そんなのはどうでもいい程に二人きりのデートという事実にエルマは浮かれていた。
浮かれていた、というのは厳密には正しくない。
ドキドキしていた。
不安にもなっていた。
でも期待もしていた。
ぐるぐるぐるぐると、自分に都合の良い展開と、酷い展開とが頭の中を交互に回って、目が回りそうだった。
それでも、期待を止めることも、不安を止めることもできなかった。
そんな、エルマの下へ。
「早いね、エルマ。
今日も待たせちゃったみたいだね、ごめん」
「う、ううん、いいの!
あたしも、今来たところだから!」
冷え切った指先を握って隠し、エルマはオスティンに向けて飛び切りの笑顔を見せた。
「……ふふ、強がりばっかり。
じゃあ早速、ご飯でも食べに行こう」
「うんっ、今日はよろしくね」
そうして、一名を除き計画を遂行したオスティンと。
寒空の下、想い人を二時間も待っていたエルマの二人は。
そっと手をつなぐと、噴水広場から足を踏み出し、フェイルアードの街へと繰り出して行った。
エルマは、まだ知らない。
オスティンが、彼女と、どこへ行こうとしているのかを。
かつて夢物語のように、人生で一度は行ってみたい場所として口にした2つのお店が、今夜オスティンの名前で予約されていることを。
オスティンもまた、まだ知らない。
彼らがこれから向かうレストラン、そしてホテルで。
彼らが、どのような運命を迎えるのかを──
「お待たせ、オスティン。
……あ、あの、恥ずかしいから、あんまり見ないで」
「それは無理な相談だなぁ。
綺麗だよ、エルマ。
ずっと、ずーっと、君とこうなりたいと思っていたんだ」
「あ、あたしも……
あたしも、オスティンが、オスティンの事が、ずっと」
「きゃっ、きゃあっ!?
おおおオスティン、●●っ、■■■がっ!?」
──続く!!