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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第一章・第二話 魔法使いは迂闊でちょろいんだけど、目的のためには勇者が四天王を倒さなきゃならない
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17 クエストはどうにか終わったんだけど、事態は望む通りに進まない

 後日――ではなく、当日の夕方。

 半日のクエストの結果として、オレ達は酒場に集まってテーブルを囲んでいた。



「途中からキノコが光り出してさぁ、すっごく簡単に見つけられたんだよね!

 それまでは一本も見つけられてなかったから助かったよー」

「私とオスティン様だけに光が見えていたので、あれはハルト様のスキルではないかと考えましたがいかがでしょうか?」

「ヨゲンシャさん、キノコ、テカらせた!」

「まじかー……オレのスキルがあるから圧倒的有利と思ってたが、むしろそっちの手助けになってたのかぁ。

 パーティ組んだままなら、距離が離れてても素材探しが有効なんだな」


 素材探しのスキルはパーティメンバー全員に恩恵があるため、オスティン達も素材探しの効果を受けていたらしい。

 離れた場所のオスティン達(パーティメンバー)が倒した分の経験値はこっちに入らないから、てっきりスキルも効果ないと思ってたんだけど……盲点でした。



「ウッディ・コヤマが世界一とか豪語してた奴らは、いやしキノコ、一体何本集めたんだってー?」

「じゅ、13本よ!」

「はああーん? え、うっそー!?

 あたし達は、3人で41本集めたんですけどぉー?

 え、あんだけ大口叩いておいて、あたし達の3分の1ですってー?

 あはは、これだからウッディ・コヤマを芸人なんていう頭のおかしい魔法使いはねー?」

「ぐ、ぐぎぎぎぎ……!!」


 キノコ集めの勝負では、火事騒動に時間を取られてベルルーエが大敗。

 勝った女戦士(バンブー・コサト派)から盛大に煽られて憤怒の如き表情だ。



「森の中で火の呪文を使い、あわや大火事となるところでした。同行者の尽力で大規模な延焼こそ免れましたが、本人は消火を出来ず、実際に森の一定範囲は焼けております。

 ベルルーエさんには、ギルドの規定に則り罰則が科せられます」

「そ、そんなぁ、戦わないと危なかったのよ!」

「出現したモンスターはゴブリンと聞いています。以前から問題なく狩られてますから、単純に呪文の選択ミスですよね?

 それに、火を消すために水を出すこともしなかったと聞きました」

「誰よバラしたの!!」

「ハーイ。たーしゃ、ナカのヨウスをジッキョウ、ちゃんとイった!」


 火事を起こした責任でベルルーエが少なくない罰金を負い。

 その横で、ターシャはお菓子もらってにっこにこ。

 賄賂? いいえ、司法取引だと思います。



「今回の素材探しもすっごく捗ったし、ハルトがパーティに居てくれるだけでお宝とか罠とか冒険がすごく快適になるよね。

 やっぱりハルトはぼくのパーティに入ってよ!」

「やだって言ってんだろーが、オレは自分のために稼ぐんだよ!」

「またまたー。なんなら他の人より取り分多めでもいいからさ、ね?」

「ちょ、オスティンしつこいなー。ユティナさんも何か言ってやってよ」

「オスティン様と一緒に過酷な旅に出れば、その過程で亡き者となっても不慮の事故で処理できる……

 私はとても良いと思いますが」

「とっても良くねーよ!

 なんだその過程、不慮の事故が全然不慮してねーよ!」


 オスティンには相変わらず勧誘され、ユティナさんには命を狙われ?



「ヨゲンシャさん、モリでいっぱいセイコウショウ、たくさんイった」

「「え」」

「いっぱいナデてホメてくれた! ウレしい!」

「ちょ、ハルト……犯罪じゃない?」

「(無言でナイフを抜くメイド)」

「待て待て待て待て、何もかもが違うから待て、ターシャも説明するならちゃんとして!」

「……えっと。

 ヨゲンシャさんキノコ、ツヤツヤとクロビカりしてソリカエってました!」

「(無言で二歩離れる勇者)」

「(無言でナイフを刺すメイド)」

「ぎゃーっ、違うっ、死ぬっ、全然違うからーっ!」


 ターシャには、にこにこ笑顔でメチャクチャ言われて。



 そうして、最後に。


「あ、あんたのせいとは言わないけど、一文無しどころか借金になっちゃったんだから。

 その、これから、よろしくしてあげるわ!」

「いや待て、待て待てベルルーエ」

「……あんたなら、あたしの事ベルって呼んでいいわよ」

「そうじゃない、そういうのはオレの役割じゃないんだ。

 ただのモブ盗賊のオレよりも、お前はオスティンの仲間になるべきなんだよ。

 ほら、こいつはオスティン。何を隠そう、今町で噂されている聖剣の勇者様なんだ」

「なんでそうなんのよ?」


 強めの語気で、少しだけ視線を鋭くしてオレとオスティンを睨むベルルーエ。


「勇者のスポンサーはお城だ。

 つまり勇者の仲間になれば、金銭面のバックアップはきっとすごいし借金なんてすぐに返せると思うぞ!」

「う……そ、それはちょっとだけ魅力だけど」

「だろ? だろ?

 冒険者として、良いクエスト、良い雇い主を選ぶのは当たり前の話だ。むしろ、良い冒険者の必須条件だ。なんせオレは給金なんて出せないからな!

 借金があるんだったら、なおさら報酬の良い仕事についた方がいいと思うぞ」

「でっ、でも!

 あたしは、その……」


 強く言葉を発した後、急に不安になったように俯き。

 胸元で、手をぎゅっと握りしめて。


「す、素直じゃない、あんただから……

 あ、あたしが面倒見てあげるんだから、感謝してよね!」

「なんでこうなったー!?」


「ヨゲンシャさんベルルーエさんのおっぱいぺったんこイったから」

「言ってたねぇ……あれはハルトが責任とらなきゃだよね」

「女の敵、ですね」


「そ、それにあんた、その……

 ぺ、ぺった、控えめが好きなん、でしょ?」

「え?」


 ベルルーエが、ターシャの胸(まったいら)ユティナさんの胸(慎ましやか)、そして自分の胸(ぺったんこ)と順に見回して。

 ちょっと赤い顔で呟いた。


「わ、わかってる、あたしは分かってるから!

 ついいじわるしちゃうのも、思わず悪く言っちゃうのも、あたし相手に見栄張りたいのも、ひ、比較的小さい胸が好きなのも、あたしが気になって仕方ないからなのよね!

 あたしは、ちゃんとあんたのこと見てるから!」


 今度はちょっと帽子を掴んで、少しだけ表情を隠しつつも。

 こちらを見つめてくる赤い瞳は、少し潤んで美しく煌めき、困惑顔のオレの姿をも映し出していて。


――だけど言っている事は、これっぽっちも合ってない! 的外れすぎる!

 その瞳、綺麗だけど濁ってますから! 全っ然見えてませんからー!


「困ったとき助けてくれて、酷い事言ってもあたしが落ち込んでると急に優しくって、いきなり胸触っちゃうほどあたしが好きで好きで仕方ないのよね。

 分かってる! 何も言わないでいいの、あたしだけはあんたを分かってあげるから!」

「ぜんっぜん分かってねー!」


 やっべー、ベルルーエのチョロインがフルパワーだ!

 なんとしても回避、全MP使っても全力で回避! 持ってないけど働け未来の回避スキル!


「オレは好き放題に過ごすし、盗賊だし、女の子侍らすし、オレと来たら借金なんか返せないぞ!」

「しゃ、借金は大丈夫だもん、一緒のお財布だから一緒の借金だもん!」

「おい待て嫌だよ、ちゃんと借金は自分で返せよ! 自分の借金なんだから当たり前だろ、どさくさに紛れて返済に巻き込むな!」

「ぶーぶー、そういうのじゃないもんっ、あたしはあんたと行くの!」


 あーまずいまずいまずい、こうなったベルルーエを説得するには──


 チョロイン全開で、何をしても好意的に解釈して突っ走る、通称『スーパーベルルーエモード』に入ったベルルーエは、本当に手ごわい。

 これを説得――少なくとも正気(通常モード)に戻すには。


 やはり、これしかないか。

 あれこれ考えた末、オレは最もインパクトの強い一撃を放つ!



「勇者の仲間になれば、ベルルーエの師匠が残した時空魔法だって覚えられるぞ!」


 本当は、ここまで明かす気はなかったんだけど。

 この状況をひっくり返すために、オレはベルルーエの旅の目的であるジョーカーを切った。

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