167 第一段階を突破して対戦相手がしゃべるんだけど、脳筋とは話が全然かみ合っていない
「何故、今この場にあるのか」
決勝戦が始まって、何分経ったのだろう?
おそらく、時間としてはさほどでもないと思う。
極度の緊張と、ゲームでは味わえないようなゲーム体験に、無性に笑いたくなるのを堪えてガンゼイオーを睨む。
繰り返される攻防――とは言え、割合としては攻1に対し防2と言ったところか?
木刀一本での攻めと守りでは、ガンゼイオーに押されているのは否めない。
これが、盗賊じゃなくて武士だったら、二刀流もありなんだけどなぁ。
まあ盗賊でも、短剣系統ならクラスチェンジ後には短剣の二刀流が可能になるんだけど。
そんな戦いの最中に投げかけられた、ガンゼイオーからの問い。
戦闘中に突然始まる会話シーンは、ガンゼイオー戦の基本だ。
どうやら、第一段階は乗り切ったらしい。
少しだけ安心しつつ、オレは木刀を構えたままで返事をする。
「本当は三回戦で負けるはずだったので、決勝に出ているのは自分でもちょっと違和感あるんだよな」
オレは、エリクサーの素材を手に入れるために大会に出場した。
間違っても、エリクサーの現物を手に入れようとなんてしていない。
だから、本当は三回戦でさくっと負けて終わるはずだった。実際に一度は降参しているしね。
「でも、ミリリアが希望してくれたから、オレはその後も試合を続けている」
……口には出さないけど、ついでに準決勝で負けたオスティンの敵討ちもある。
いずれにせよ、無様な試合はしたくないもんだ。
「だからオレは、ガンゼイオーが相手でも出来る限り戦うだけさ」
だが、正直に言おう。
搦め手が効かない相手は、苦手なんですけどねぇぇ!
……はあ。がんばろ。
「──そうではない」
そんな風に、今の戦う理由を答えたオレに対して、ガンゼイオーは小さく首を振った。
「え?」
いや、オレの戦う理由を、なんでお前に否定されなきゃなんないの?
そんな気持ちが顔に出たのだろう、ガンゼイオーは一瞬だけ目線を貴賓席に向けて続けた。
「己の意思を貫いたのだろう」
見ていたのは、ミリリアのことか?
己の意思を、貫いた?
オレが、ってこと?
「ならば、何故、今もこの地にあるのか」
「……ん?
え、どういうこと?」
ガンゼイオーは、何を言っているんだ?
意思を貫いたのに、なんでここに居るのか、ってこと?
「なんでも何も、ミリリアが居て、セーナやベルが居て、ここにオレが居るのは当たり前なことじゃないか」
オスティンと違って、盗賊のオレが魔王討伐の旅に出る必要なんかない。
もらいもののわが家がオレの居場所で、あとはクミちゃんを助けたり、できる事をやっていく。
それの、何が不思議なんだ?
「――もはや、語る言葉もない、か」
オレの返事に、一度語気を弱めたガンゼイオーは。
「かぁぁぁーーーーっっっつ!!」
「!?!?」
ぐああ、耳が……っ!
会場中どころか、王都中に響き渡りそうな大音量での一喝。
目の前で発されたすさまじい大声に、攻撃を受けたように頭がぐわんぐわんし思わず膝をついた。
あまりにガンゼイオーの声が大き過ぎて、結界による音の増幅がなかった様子なのがちょっと安心です。
それでも、前の方に座る観客達は耳を押さえてるし、ベルは椅子から転げ落ちてる。パンツ見えてるぞ、おい。
「立てぇぇい!
我が問いに応えぬならば!
お前の真意は、我が拳で問おう!」
脳筋キャラっぽい発言で、握りしめた拳を天に突き出すガンゼイオー。
「雄闘心身血!!」
放たれたのは、先の準決勝戦でも使われた、ガンゼイオーを覇者たらしめる特別なスキル。
一切の小細工や他者の影響を排し、磨き抜かれた己の強さのみを問う戦いの道。
「何故、我らの下に戻らぬのか。
己が意思、自らの拳で貫き通してみせよ。
ハルトよ!!」