166 ついに決勝戦が始まったんだけど、盗賊が普通にバトルとか場違い感が半端ない
決勝戦、開始!!
まずは小手調べとばかりに、軽いパンチが放たれる。
とは言え相手は怪力で鳴らすガンゼイオー、ジャブでも大木くらいは容易くへしおりそうな勢いだ。
使い慣れた木刀を傾けて、襲い掛かる拳を丁寧に逸らしていく。
攻撃を受け流す程度では、力負けはしていない。
というかこちとら47レベルのステータスだ。職業が盗賊とは言え、今のガンゼイオー相手なら十分以上に戦える。
一応相手は30レベルなんだし、筋力の素のパラメータはオレの方が上のはずだ。
多分向こうは、能力向上のスキルなどでいろいろステータスを上昇させてると思うけど。
「試合開始と共にガンゼイオー選手の放つパンチを、ハルト選手が丁寧に捌いていきます。
静かな立ち上がり、両者ともまずは様子見のようですね?」
「二人とも、血気盛んに向かっていくタイプではないようだな。
特にオレと戦った坊主は、どの試合でも相手の攻撃を待ち構える試合運びだ。
お前さんの言う通り、様子見ということだろう」
歓声の中に、実況と解説の声が響く。
準決勝で戦ったあのおっさん、ちゃんと解説してるんだなぁ。
なんて場違いな事に関心しつつ、拳を捌くと共に攻めに転じた。
オレの振るう木刀が、ガンゼイオーの拳に止められる。
続くガンゼイオーの攻撃は避けて回避し、回り込むように木刀で連撃。
それに対しガンゼイオーは落ち着いた様子で次々に襲いかかる木刀を両手で防ぎ、隙あらば即座に反撃をしてくる。
分かってはいたが、動きが速く全く隙がない。
こちらは付け焼刃のゲーマーだが、向こうはまじもんのゲームキャラ。差は歴然だ。
「ハルト選手、徐々に攻撃に移っていきますが、ガンゼイオー選手の硬い守りを貫けません!」
「単純に手数が足りてないな。
坊主は刀一本、対するでか坊主は両手の拳が武器であり盾だ。
木刀の一撃を片手で止められている限り、あの防御は抜けねぇだろう」
「あの、『坊主』と『でか坊主』って、解説としては分かりにくいと思うんですが……」
「うるせ、冒険者にご丁寧な解説なんか求めんな!
ハゲ坊主じゃ、決勝進出者に対してあんまりすぎんだろ」
悔しいが、解説の言う通りだ。いや、ハゲ坊主の方ではなく(ハゲも言う通りだけど)
こっちが一撃繰り出す間に、向こうは両手で二発打ち込める。
せめて相手の拳の攻撃力を上回らないと、戦いにならない。
ゲームなら普通は武器の数値分、素手キャラよりも武器を持ったキャラの方が攻撃力は高いんだがな。
残念ながらオレが使っているのは攻撃力1の木刀、見た目用のおしゃれ装備だ。
レベルはガンゼイオーより上だが、向こうは筋力の素質が非常に高いだろうし、力は概ね互角に感じている。
つまり、このままじゃぁ勝てないってわけだ。
──なら、こっちから先に、一段階ギアを上げていきますかね!
一歩離れた後、すぐさま接近。
木刀を右上から、斜めに振り下ろす。いわゆる袈裟斬り。
これをガンゼイオーは左の裏拳で受け止め、続く右の拳で脇腹を狙ってきた。
「ふっ!」
体勢を引きながら、両手で握った木刀の柄で右の拳を受ける。
それと同時に、木刀を強く握りしめて叫んだ。
「一刀!」
刀の最も基本となるスキル、一刀。
自分で刀を握って振るより、少しだけ早くて正確な一撃。
たったそれだけのシンプルな効果だからこそ、初めてガンゼイオーの身体に一撃が届いた。
すぐにやり返される左の拳を慌てて避け、少し距離を開ける。
もちろん木刀なので、剣で斬ったような傷はつかない。木の棒で殴っているのと同じなので、表面上のダメージはない。
お互い、外見上は無傷。
それでも、内面では、ガンゼイオーのHPが減っているはずだ。
「反撃に転じた坊主が、スキルを解禁したな。
ハゲ坊主も、ここからはスキルを搦めてくるだろう」
「決勝に進出した選手をハゲ坊主呼ばわりって、さっき自分であんまりだと……」
「うるせぇうるせぇ、だったら横の無口な鎧に解説頼め!」
「……」
賑やかな実況を聞きつつ、息を整える。
一撃は入れたが、大きなダメージではない。小さなダメージを与えられているのかどうかも分からない。
それでも、攻撃を積み重ねていくしかないのだ。
なんせ相手は優勝予定者、いや優勝決定者なのだ。つい数日前までレベル1だったモブが敵うような相手ではない。
気合を入れなおし、木刀を強く握って再び斬りかかる。
そんなオレに向け、ガンゼイオーは拳を構え直すと。
「拳打」
あちらもスキルを発動させてオレの木刀に真っ正面から拳を打ちつけて、小細工なしのパワー勝負を仕掛けてくるのだった。