165 爆弾発言した女王はメイデンなんだけど、実況も観客も決勝戦を待ってはくれない
カナミエ=ファード=ゼイニドラ。
この大陸の北西に位置するゼイニドラの女王で、メイデンの一人である。
本来のゲームでは、後半に主人公がゼイニドラへ到着した時点で登場。
白黒どちらの主人公でも必ず仲間になり、空飛ぶ乗り物を入手するために必須のキャラである。
職業は竜騎士。
鎧と盾を持ったがちがちの戦士職で、ドワーフを仲間にできないオスティンにとっては唯一の純粋な盾役である。
また、盾役ではあるが竜の力を使った範囲火力も高く、必ず仲間になるために初心者には非常に使いやすいキャラだ。
wiki等ではクラスチェンジ後の『竜騎女王』の呼び名で表現されることが多い(アズサが侍と呼ばれるのと同じだな)けど、ユーザーからの通称は『おばちゃん』である。
もう一度、言おう。
通称は『おばちゃん』である。
12人居るメインヒロインの一人なのに。
必ず仲間になってくれて、ボス戦などでも安定感があって、空を飛ぶこともできるのに。
巨乳だがウエストは筋肉質、ビキニアーマーを身に着けたへそ出し美女なのに。
プレイヤーからは、おばちゃんと呼ばれているのである。というかオレもおばちゃんって呼んでる。
いろいろ理由はあるが、大きくは2点。
年齢が30台であることと、結婚願望が強すぎること。
あまりにも結婚願望が強すぎて、仲間になると主人公に対しあの手この手で結婚を迫ってくるのである。
いや、結婚したところで世界が滅んだりしないし、むしろおばちゃんは覚醒するのでメリットも十分にあるんだけどさ。
ただ、現実で、しかも今この場でのおばちゃんの結婚願望はひっじょーーに困る!
なんせ、おばちゃんが居なければ、オスティンは空飛ぶ乗り物を手に入れられないのだ。
万が一こんなところで全然関係ないキャラと結婚なんかされてしまっては、勇者による魔王討伐の旅が頓挫しかねない。
いや本当に、何が起きてるのか、どうしてこうなってるんですかね?
誰か教えてください、責任者出てこい。
心の中で必死に叫ぶオレだが、大会はオレの声に耳を傾けてくれない。
おばちゃん含めた挨拶を終えた実況の女の子は、試合を開始へ進めるべくアナウンスを続けた。
「それでは、予選からこれまで全ての試合を勝ち抜き、決勝戦へと進んできた二名の選手を紹介いたしましょう!
黒い道着がトレードマーク、その拳であらゆる攻撃を叩き潰し粉砕する!
そのシンプルな強さに魅了されたファンも多いのではないでしょうか?
黒き挌闘王、ガンゼイオー選手!」
左袖だけある黒の道着に、鍛え抜かれた厳めしい肉体を包み。
舞台端に控えていたガンゼイオーが、ゆっくりと舞台中央へと歩み出た。
ゼイニドラ女王によってもたらされた困惑から脱却し、観客は下がっていたテンションを無理やり上げて歓声を持って選手を迎える。
大きな歓声にも、決勝の大舞台にも。
ガンゼイオーは予選から全く変わらぬ落ち着いた様子で、当然の事ながら緊張なんか欠片も見られない。
「午前中の準決勝では開催国推薦枠選手と激突。一時間以上に及ぶ激闘を繰り広げました!
今大会の最長試合時間だったわけですが、疲労や怪我などは大丈夫でしたでしょうか?」
実況の言葉に、無言でかすかに頷くガンゼイオー。
「流石はガンゼイオー選手、まったく問題ないとのことです。
決勝戦への意気込みなどはありますか?」
今度は小さく首を横に振るガンゼイオー。
「なるほど、ガンゼイオー選手にとっては、決勝戦であっても常と変わらぬ試合ということですね」
実況の子も、ガンゼイオーが返事をしないことに慣れたのだろう、勝手に翻訳して話を進めていた。
自分の言葉の後に、思わずちらっと貴賓席を見ちゃう実況の子。
そこには、フェイルアードの王様と並んで椅子に腰かける、ゼイニドラ女王カナミエの姿がある。
実況の子が無言で1秒ほど止まった。
『先ほどの女王の発言について聞きたいけど、聞いても何も答えてくれないだろうなー』って感じの顔してますね。
ただでさえ全くしゃべろうとしないガンゼイオーだ。そんな質問をされても、わざわざ答えるとは思えないな。
さすがに、そんな複雑で重大な内容を、勝手に翻訳するわけにもいかないだろうし。
「まさに巌の如き存在、鋼の平常心。
これぞ、武を突き詰めた頂点とばかりのガンゼイオー選手の強さに、大いにご期待下さい!」
結局、女王に関する質問は諦めて、短い紹介を締める実況。
それでも観客は大満足したようで、表情を変えぬガンゼイオーの姿に大きな声援が響いた。
「そんなガンゼイオー選手に挑むのは、異色も異色、誰もが予期しえなかった『いまだかつて見た事ないほど弱そう』なレベル1の参加者でした」
布の服で身を包み、腰には鞘に入った木刀を下げて。
名はまだ呼ばれていないが、合図を受けてオレも歩みを進める。
分厚い雲に日差しが遮られているため、運動するにはむしろちょうどいいくらいだ。
観客席の熱気と歓声を浴びながら、ゆっくりと舞台を進む。
「予選では、並みいるライバル達を端から場外に突き落とし。
一回戦では、試合開始前の凶行により胸部を貫通されながら平気で歩き回るという超人っぷり。
そんな姿から、観客の皆さまは自然と彼をこう呼びました。
『ゾンビ』と!」
余計な煽りを受けて、観客席からゾンビコールが飛び交う。
「そんなレベル1だったハルト選手ですが、二回戦では対戦相手を一撃必殺。
試合後、レベル47であるという衝撃の事実が発覚しました!」
開始位置にたどり着き、大歓声の中で足を止める。
対戦相手であるガンゼイオーではなく、観客の方を向いて立つ。
「さらに第三回戦では生き別れの妹を辱め……もとい精神攻撃で下し。
午前中の準決勝では、予想外にも普通の試合運びで前年度の準優勝者に危なげなく勝利。
とにかく、どんな手が出てくるか、何を仕出かすかわからない今大会のダークホース中のダークホース。
つまり、黒い馬王のぉぉぉっ、
──ハルト選手ですっ!!」
ようやく呼ばれたオレの名に、観客達がガンゼイオーに劣らぬ大歓声をあげてくれる。
ただし観客の叫び声をよく聞いてみると、名前を呼んでいるのは3分の1くらいしかいない。
声援には違いないのだろうが、半分以上がゾンビコールである(残りは馬王とシスコンが半々くらい)
というか実況ちゃん、その二つ名を流行らそうとするのやめてくれますー?
という気持ちでジト目を向けるが、実況の子には通じない。
「ああっと、今度は実況の私に向けて好色そうな目線を向けてきました。
私がハルト選手に狙われています、これはピンチです! いや、むしろ私にもチャンス到来ということでしょうか!?」
「待てぇい、大観衆の前でいい加減なこと言うなよ!?」
そんなつもりないから、好色そうな目なんて向けてないから!
だからミリリアさんセーナさん、冷たい笑みを浮かべて『分かってますよね?』って目線向けてくるのやめてください!
小さく笑って、指を当てた唇の動きだけで『ごめんね』と言ってくる実況の子。
そういうとこで可愛いの、ずるいと思います!
おのれ、ゲームの美少女モブめ。こちとらモブ男キャラ、存在だけでなく顔までモブだってのに!
「武の頂にある黒き挌闘王が、ゾンビの悪しき企てを粉砕してその力を証明するのか?
はたまた、いまだに底を見せぬ馬王が、ゾンビパワーで戦いを征するのか?
全ての戦いの結末は、これより始まる決勝戦で明らかになるでしょう!」
両者の紹介も終わり、ようやく互いに向き合って立つ。
ガンゼイオーとオレ、互いに無言で真正面から視線を向け合う。
試合前に、言葉を交わす必要はない。
どうせ第一段階をクリアすれば、戦闘中でも会話が挟まるからな。ガンゼイオー戦はそういうもんだ。
ガンゼイオーへの視線はそのままに、腰の鞘から木刀を抜き、静かに構えるオレ。
対するガンゼイオーもまた、その拳を握ってゆっくりと構えを取った。
舞台の中央から客席へ、最前列から後方へと波が引くように歓声が鎮まっていく中で。
互いの視線が、正面からぶつかりあう。
互いの闘志が、真っ向からぶつかりあう!
「泣いても笑っても、この一戦で全てが決します。
さあ、始めましょう!
武闘大会、決勝戦。
『ゾンビ』ハルト選手 VS 『黒き挌闘王』ガンゼイオー選手。
――試合、始めぇぇっ!!」
な、なんだってーっ!
まさか、おばちゃんがメイデンだったなんてーー!(棒読み)
長い戦いと数多の横やりを乗り越えて、ついに決勝戦開始!
というところで、(次が)長くなり過ぎたので話を分割します。
今回は余計?なキャラ紹介やあれこれもすっとばし、決勝戦の続きは次章すぐ!
ブックマーク1000件まで、ものすごくあと一歩のところで一進一退中……!
みんな、おらにぱわーを分けてくれ!!
そんなにみんな、おばちゃん嫌い……?
人気投票、最下位じゃないんですよ……?