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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第四章・第二話 武闘大会の準決勝まで勝ち進んだんだけど、参加者が濃すぎて美少女感が全く足りてない
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163 ついに決勝戦が始まるんだけど、突発的なゲストが登場して混乱を隠しきれない

 朝から多かった雲は、その厚みを増して完全に日差しを覆い隠し。

 今にも雨が降り出しそうな、黒い雲の下で。


 その雲を地上から押し上げるかのように、じわじわと熱気が渦を巻き空へ立ち昇る。

 会場全体が、間もなく始まる決勝戦への期待で、まるで煮えたぎる鍋のように絶え間ない熱を生み出していた。



 観客のざわめきの中、実況の女の子が舞台の上にあがった。

 頭を下げるでも、ざわめきを鎮めるでもなく。実況は、マイク状の棒を握りしめ、静かに語り始める。


「フェイルアードにおける、今年の武闘大会。

 全541名の選手達が、それぞれの力と技を存分に振るい、鎬を削ってきました」


 会場に満ちていたざわめきも、静かな語りを前に潮が引くように静まっていく。

 歌うように語り掛ける可愛らしい声が、結界の力により会場中に響き渡った。



「一週間にも渡って繰り広げられてきた試合も、もはや残すところあと一つ。

 本日、これより行われる試合が、最後となります」


 少女の声に、観客達の身体に力が入る。


 湧き出す熱情が、人々の身の内から外に溢れ出そうと膨れ上がり。

 けれども、声は漏らすまいと、口を引き結び、歯を食いしばって。


 観客達は、熱を解き放つべき時を待つ。



「まずは、本大会を開催下さった、フェイルアード王家の皆さまに多大なる感謝を」


 少女が貴賓席を向き、大きく頭を下げる。

 人々の視線が集まる中、立ち上がって舞台を見下ろしていたフェイルアードの国王が口を開いた。


「すべては、今日の日のために研鑽を積んできた選手達の努力があってこそ。

 こちらこそ選手達に感謝しよう。

 最後の試合も、楽しみにしている」


 短い言葉を終えると、王様は頷いて椅子に腰を下ろした。

 その脇に並んでいたミリリアや王子達も、頭を下げて着席する。



「ゲンザーロ=アルサー=ウァード=フェイルアード陛下。お言葉、ありがとうございました。


 続いて、今日までの戦いでそれぞれの強さを示した、539名の選手の皆さまにも敬意を」


 実況の子が貴賓席とは別の、少しだけ高い位置にあるテーブルを向いて頭を下げる。

 そこには、相変わらずフルフェイスで顔を隠した開催国推薦枠選手(オスティン)と、3位決定戦でオスティンに敗れたフェービンがいた。


「敬意は、今この舞台に立っている二人に向けるべきものだろう。


 我らは等しく、優勝という栄光を夢見て敗れた者達だ。精々が、自分に納得いく試合が出来たか否か、そのぐらいの差しかない。

 自分を打ち倒した者、現時点の世界の頂点。その行く末を、楽しませてもらおう」


 フェービンが重々しく答えると、隣に座ったオスティンも小さく頷いた。


 その後、小さく頭をかいてから、フェービンが付け足した。


「なお、慣例であれば、3位になった選手が決勝戦の解説を行うためにここに座るんだがな。

 オレに勝った開催国推薦枠選手は、諸般の事情で解説をできないという。

 そのため、4位の身でこの場所にいる事を予め謝罪しておこう」


……と、いうことらしい。


 ゲームでは解説なんてないが、実際の大会では3位の選手が解説をするんだとか。

 先ほどの3位決定戦で勝利したオスティンだが、正体を隠すために声ばれNG。なので、フェービンが代わりにすることになった。

 ただ、負けたのにやりたくないフェービンの出した条件として、オスティンも隣に座っている。形だけは3位・4位合同での2名体制を取ったそうだ。



「フェービン選手、並びに開催国推薦枠選手。ありがとうございました。

 また、ここまで戦い抜いてきたすべての参加選手にも御礼を。ありがとうございました」


 少女が観客席の正面に向け、深く頭を下げた。



「では最後に。

 本日、武闘大会にお越しくださったゲストの方にご挨拶をいただきます」


 ゲスト……?

 実際の試合だと、そんなもんも居るのか。

 まあ世界規模の試合だし、むしろ当然と言えば当然か。


 そんなオレの思考をよそに、再び貴賓席を向く実況の少女。

 少女の視線を受けて、貴賓席の奥から一人の人物が歩みを進めてきた。



 ゆるくウェーブのかかった、野に咲く花のような明るいオレンジの髪を揺らし。

 豊かな胸と大きな尻を、金の縁取りのビキニアーマーに包み込んで。

 まるで、後ろから竜の翼で抱きしめられたような、特徴的なデザインの肩当てを纏った、一人の女性。

 泣きボクロに彩られた瞳を細めて微笑むと、その女性は優雅に一礼した。


 予想もしていなかった突然の登場に、混乱するオレ。

 その耳に、彼女の――おばちゃん(・・・・・)の挨拶が届いた。



「会場にお集りの皆さま、お初にお目にかかりまですきゅん。


 わらわは、カナミエ=ファード=ゼイニドラ。

 フェイルアードの同盟国、ゼイニドラの女王なのですきゅん」


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