表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第四章・第二話 武闘大会の準決勝まで勝ち進んだんだけど、参加者が濃すぎて美少女感が全く足りてない
173/234

162 勇者は自分が敗れて悔しいんだけど、うじうじしていたら盗賊の凶行を防げない

「いやー、あれは本当に強かったねぇ」


 酒に酔ってもいないのに、控室のソファにだらりと横になり。

 オスティンは、くたびれた声をあげた。


「ハルトが、友人のことをこれっぽっちも考えずに全財産突っ込むのも分かっちゃうもんだよねー」

「それはちょっと、流石に言い方酷くない?」


 と言うか、オレとしてはオスティンが大会に参加してるだけでびっくりなんだが。

 どんだけ想定外が起きるのよって感じだ。


 しかも普通に参加しているならまだしも、シードだよ?

 主人公が初回の武闘大会でシード出場とか、そんなの聞いたこともないわ。


「いやいや、友達の勝利を願ってくれないとか酷い話だと思うんだよー」


 横になったまま、だるそうな声を上げるオスティン。

 ゲームでも見たことのない、ぐだぐだな姿を見て、なんとなくぴんときた。


「ひょっとして、負けて落ち込んでるのか?」


「……んー。


 うーん……」


 オレの指摘にうめき声を上げるオスティン。

 肯定も否定もせぬまま、うんうん言いつつこちらに背を向ける。


 そのまましばらく誰もしゃべらずにいると、オスティンがぼそぼそと続けた。


「騎士団のケッツィ隊長でさえ、一回戦負けなんだし。

 まだ新人のぼくが負けるのなんて、当然と言われるかもしれないけどさー」


 そう言えば、オスティンも勇者として旅立つ前は騎士団の新人だったんだよな。

 そう考えると、一回戦負けした隊長は、モブとは言え上官だったわけか。


「それでも一応、ぼくはフェイルアード代表だったんだし?」


「開催国の、推薦枠選手だもんな」


「負けたくはなかったなー、と。

 やっぱり、悔しく思うんだよー」


 オスティンの正直な気持ちに、なんとなく嬉しくなって。


「次の三位決定戦で戦うのが、隊長を倒した相手だろ?」

「うん。

 そして、ハルトが倒した相手だね」


 背を向けたまま、幾分か回復した声でオスティンが答える。


「そいでもって、オレが敗れる(・・・)のが、オスティンを倒した相手ってわけだ」


 あのガンゼイオーに勝てるとか、これっぽっちも考えてないからなぁ。

 準備運動はクリアして戦闘開始までは持ち込めるだろうし、善戦はできる。でもオレでは、仮に最後まで戦い抜いたとしても、最後の一手が足りないんだ。


「つまりオレもオスティンも、フェービンには勝ってガンゼイオーに負けてる。

 実質、二人とも準優勝みたいなもんだろ」


 トーナメントのくじ運が、大会結果の全てである。

 ガンゼイオーと戦えば、今の段階では誰だって負けるんだ。

 むしろ、一周目・一年目の段階で、オレみたいな裏技を使わずにガンゼイオー以外の相手に勝ててるなら、勇者(主人公)として十分すぎる成長だと思うぞ。


「……それでも、悔しいもんは悔しいんだよー」

「はは。そんなオスティン、初めて見たよ」


 基本的に、ゲームではプレイヤー=オスティンだからなぁ。

 オスティンの感情とかセリフというのは、全体的に少なめになっている。


 少なくとも、大会で負けて悔しがったり落ち込むオスティンというのは見たことない。

 だから、ちょっと新鮮だった。


「まずは三位決定戦、きっちり勝って来いよ。

 ガンゼイオーに専用スキルを使わせるだけじゃなく、その後も長時間戦い続けられたんだ。次の試合は十分勝てると思うよ」



 ガンゼイオーの専用スキル『雄闘心身血(おとこみち)

 これを使われた後も、オスティンは非常に善戦した。


 オレが入れ知恵していたのはあるが、それにしたってスキル後に30分以上も戦い続けていたのだ。

 どれだけ真剣に、そして真っ当にオスティンが修行をしてきたのかがよく分かる。



「――本当は」


「ん?」


 励ますオレの言葉を聞いていたのかいないのか。

 オスティンは、小さな声で呟いた。


「決勝戦で、ハルトと戦ってみたかったよ」


「……」



 すまん、とは言えない。

 オレは準決勝に勝ち、負けたのはオスティンだ。

 もしオスティンが勝っていれば、それは確かに実現した対戦カードだった。


 なんだか非常に暗い雰囲気のオスティンを前に、オレは言葉に詰まる。

 返事に悩んだけれど、うまい言葉が見つからなくて。




 仕方なくオレは、力なく横たわるオスティンのそばに寄り、床に片膝をついて。


 短剣の鞘を手で握り、その柄をオスティンの尻にぶっ刺した(・・・・・)



「秘技・千年殺し!!」


「んぎゃーっ!?」



 小学生的必殺技、カンチョーである!!


 ただしばっちぃので素手ではやらない。万が一にも本当に刺さったらシャレにもならないし。ゲームジャンル変わっちゃうし。



 オレの凶行に周囲が唖然とし、エルマが剣の柄に手をかけ、ディーが腹を抱えて笑い転げて椅子から落っこちた。

 そんな周囲の騒ぎを無視して、オレは意識して軽く言い放った。


「何落ち込んでんだよ、ばーっか。

 オレとやるには一年早い、修行しなおしてから出直してこい勇者様!」

「お、おぅぅ、はるとぉ……おのれぇ……」


 無防備にこちらに向けていた尻を庇うようにごろりと転がり、こちらを向くオスティン。


 少し涙の滲んだ情けない顔に、オレも吹き出して大笑いする。



「あーあー、そんなに情けない顔しやがって。


 仕方ねぇなぁぁぁ。

 ガンゼイオー相手には絶対勝てないし、試合開始と同時に降参するつもりだったんだが――」



 イケメン主人公様の、そんな情けない顔は見たくないからな。


――ほんと、仕方ない。

 情けない顔している、友達のためだ。



「いっちょオレが、ガンゼイオーの攻略法って奴を実演してやんよ!」




――まあ、裏技的な攻略法なんかないんですがね!!


 オスティンと違って、オレには顔を隠す包帯やおもちゃの剣も必要ない。

 ディーアに頼んでいた作業も今朝完成して受け取ったが、ガンゼイオー相手では使う意味もない。


 結局のところ、今から出来るオレの準備なんて鞘と木刀一本あれば完了なんだよな。

 後はまぁ、やれるだけ頑張ってみますか。


スキル『千年殺し』


とあるキャラの専用スキル。素手限定。

相手は死……んだりはしないが、人間相手には特攻ダメージ。


ただし一部の変態にはダメージがゼロになる。

尻がない敵には無効(スキルの発動失敗)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新乙 良かったな~勇者よ・・盗賊が使う技が千年殺しで これが万年殺しだったらお前は立てずに試合は棄権であっただろう  (違) 僧侶のお仕置きに耐性が付いた盗賊なら 多少の攻撃は無効化しそうなも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ