161 ゲームの主人公と優勝予定者が戦うんだけど、勇者はまだ己の道を見定めていない
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日差しは射さずとも、観客の熱気と戦士の熱意が渦巻く舞台上。
準決勝進出を果たした二人の戦士が、互いに無言で向き合っている。
片や、黒い道着に身を包み、空の拳を握りしめた巨躯の格闘家。
片や、顔を覆う兜と鎧で素性を隠した、おもちゃの剣と盾を身に着けた剣士。
二人が放つ覇気とも言うべき圧力に、徐々に歓声が静まっていく中で。
実況の宣言が、高らかに響き渡る。
「準決勝 第二試合、ガンゼイオー選手 VS 開催国推薦枠選手」
握った拳を緩やかに前に突き出し、構えを取る格闘家。
その構えに応じるように、同じく片手剣を軽く前に掲げて身を低く構える剣士。
二人はただ真っ直ぐに、己の対戦相手を見据えて。
「――はじめっ!」
戦闘開始と共に、最短距離で相手へ己の拳と剣を突き入れた。
互いの攻撃がぶつかりあって相殺され、初手は互角の弾き合い。
続けて振るわれる推薦枠選手──オスティンのおもちゃの長剣を、文字通り児戯とばかりにガンゼイオーが拳で撃ち落としていく。
左の拳で剣を撃ち落としたまま、流れるように叩き込まれる右の拳。
オスティンもまた左手のおもちゃの盾を斜めに合わせて拳を受け流すと共に、盾に加えられた拳の圧力を利用し、少し崩れていた体制を立て直す。
剣で攻め、盾で守るオスティン。
両の拳で、攻めて守るガンゼイオー。
準決勝の二回戦は、開幕から息もつかせぬ激しい乱打戦となった。
数合の打ち合いを交え、互いに明確な一撃を入れることができぬまま戦いは進む。
一度距離を取った二人は、観客の歓声を浴びつつ一瞬の静寂をはさみ――
「ホワイトランス!」
「空打!」
今度は互いの遠距離スキルが放たれ、二人の中央で激突した。
弾け合う互いの攻撃を突き抜けるように、再び中央でぶつかる互いの身体、剣と拳。
「ツインソード!」
「連打!」
続く連続攻撃スキルが、今度はお互いの攻撃をすり抜けて、相手の身体へと突き刺さる。
ほぼ同時に叩き込まれた攻撃が互いの身体に傷をつけ、されど一歩も引かず。
時に攻撃同士がぶつかりあい、時に互いの攻撃が相手の身体を打ち付け、さらに激闘が加速する。
拳が、剣が。
衝撃が、斬撃が。
気合が、魔法が。
幾度も放たれ斬り結び、打ち砕いて傷つける。
されどなお、互いの闘志は揺らぐことなく。
その気迫と観客の熱気を燃料に、舞台上はどこまでも熱く沸き立っていた。
やがて、どちらともなく飛びすさり。
一拍の、凪のような時間が訪れる。
その、歓声に包まれた静寂の中で。
舞台に上がってから初めて、ガンゼイオーが口を開いた。
「お前が剣を取るのは、何故か」
問いかけられた言葉に、オスティンは少し考えると。
「今はまだ、世界のためとか、国のためとか、心から思えていない。
使命感を持つには、ぼくはまだ、世界を知らなすぎる」
こちらもまた、舞台に上がってから初めて。
いや、この武闘大会が始まってから初めて、舞台上でオスティンが口を開いた。
声から正体がばれる恐れがあるため、選手紹介やインタビューなどでも、オスティンは舞台上で一切声を出してこなかった。
だが、この質問には、オスティン自身が答えなければならない。そう思ったから。
「――それでも。
友が、ぼくに、頼んだんだ。
己の愛するもののために、世界を平和にして欲しい、と」
「……」
オスティンの後方で、盗賊Aと呼ばれた男が『え、何それ?』と呟いた。
それに気づかず、オスティンの言葉は続く。
「この剣の意味。
この世界の意味。
友の預言の意味。
今はまだ、何も分からない。だからこそ――」
オスティンが、ゆっくりと剣を掲げる。
「ぼくはこの剣で、ハルトと戦い己の道を見定める!」
再び盗賊Aが『な、なんかあの勇者じゃなかった推薦枠のひと物騒なこと言ってませんかねぇっ!?』と叫んだが、その声は観客のあげる歓声にかき消される。
横に座る僧侶が、なぜか盗賊の肩に手を置き首を振って微笑んだ。
「――その意思、確かに聞き届けた」
観客エリアで慌てる友と呼んだ男を意に介さず、返事を聞いたガンゼイオーが吠える。
「ならば、自身の力と意思を示し、立ちはだかるこのガンゼイオーを退けて己が道を進んでみせるがいい!」
そうして、ガンゼイオーは。
拳を天に突き出し、彼との戦闘を開始させるスキルを解き放った──
「雄闘心身血!!」
【 武闘大会 試合結果 】
・ 準決勝 第二試合
ガンゼイオー VS 開催国推薦枠選手
勝敗結果:開催国推薦枠選手の戦闘不能により、ガンゼイオーの勝ち
試合時間:1時間17分33秒