160 次は主人公と優勝予定者の試合なんだけど、預言者がその勝敗を知らぬとは言わせない
最終日の試合間隔も2時間。
これまでの試合と同様に、たとえ前の試合が一瞬で終わっても、次の試合は予定時間にならないと開始されない。
ただし試合後に閉会式があるため、昨日と違ってお昼休憩はなし。8時、10時、12時、14時に準決勝と3位決定戦、決勝戦だ。
午後の試合が昨日より1時間前倒しだね。
もしも試合時間が長引いて次の試合の開始時間を超えた場合は、すぐに次が行われるらしいんだが……それはさておき。
勝利者の簡単なインタビューの後、1時間半以上時間があったため皆で控室へ移動。
オレとオスティン、互いの仲間達が一堂に会し、皆でお茶を飲んでいた。
「いやー、昨日と比べて急に強くなったねぇハルト」
「さんきゅー。
だいたいは、アズサのおかげだよ」
「……兄上には、是非とも優勝していただきたいですからね。
そのために、少々厳しく鍛錬させていただきました」
あれが少々、かぁ……?
という顔でアズサを見るが、そしらぬ顔でお茶を啜る和装のメイデンが居るだけ。
姿勢も良く凛とした佇まい、見とれるほど綺麗なのがちょっと悔しい。
「なるほど。
ハルトは、強くて頼れる妹さんと再会出来て良かったね!」
オスティンの称賛に、澄ました顔でお茶を啜りつつも、少し口元をにやけさせるアズサ。
「流石は兄上のご友人です、物の道理をわきまえた素晴らしい方のようですね」
「あー、オスティンはとても素晴らしい奴だぞ?
でも友達は少ないんでな。アズサもオスティンと仲良くしてやってくれ」
オレの言葉に、地味にダメージを受けているオスティン。
その後ろでは、オスティンの保護者 兼 仲間であるエルマが、笑うべきかオレを怒るべきか複雑な表情をしていた。
「よろしくお願いします、オスティン殿。
しかし兄上。決勝戦までまだ3時間以上おります。
本音を言えば、今この瞬間も鍛錬に充てたいのでおりますよ?」
「あー。
そこは、訓練場じゃないからパスだな」
確かに、3時間もあるから時間が惜しいと言えば惜しいけれど。
システム的には、訓練場でないと鍛錬にはならない。
いや、ギルドの訓練場でも自宅の庭でもどっちも鍛錬になったから、現実だと関係ないのかな?
でも戦闘と扱われなくて木刀が折れると困るしなぁ。替えはあるけど。
そんなことを考えつつ、オレもお茶を啜る。
熱くて深みのある味わいに、思わず息が漏れた。
「むう……この鍛錬不足で、相手に勝てずに嘆くようなことがあっては困りますよ?」
「そうだな。そんなことないように頑張るよ」
いやぁ……ガンゼイオーに勝てるとは思えないんだけどなぁ。
流石にこればっかりは、諦めどころの話ではない。既定路線なのだ。
ガンゼイオー。
黒い道着を着た巨漢のハゲで、ゲームにおいて初回の武闘大会で優勝するキャラクターだ。
周回プレイであればまだ勝ち目はあるが、初回では絶対無理。
どう頑張っても、育成のための時間が足りないのだ。と言うか大体において二周目でもまだ勝てません。安定して勝てるのは三周目から。
オレだって一応、全くの無策であったわけではない。
少なくとも、レベルだけは愛の試練を突破して高めてきた。他にも一応勝つための策は講じた。
だが、それだけでは足りないのだ。
レベルだけでは、ガンゼイオーには勝てない。
その程度で優勝できるほど、武闘大会は甘くないということだ。
「大丈夫だよ」
そんなオレの内心を、知ってか知らずか。
「ハルトが決勝進出を果たしたんだからね。
ぼくだって負けてられないよ」
オスティンは、笑顔で力強く頷いた。
「例え、今は及ばぬとハルトが預言する相手だとしても。
ただでは負けない、せめて次に戦うハルトの助けになるくらいには善戦してみせるよ」
「オスティン……」
今のオスティンでは、ガンゼイオーには勝てないだろう。火力が足りない。
確かにオレは、そう思っている。
と言うか、はっきり言えば、オスティンが勝ち上がってくることはなく、ガンゼイオーだけを対戦相手として考えている。
それが態度に出てしまっていたんだろうか?
オスティンは、すでに自分のことを対戦相手として見ていないオレを責めるでもなく、穏やかに微笑んだ。
「聞いたよ、ハルト」
「え?」
「優勝者予想の賭博。
ほぼ全財産、対戦相手のガンゼイオーに注ぎ込んだんだってね?」
「げえっ。ばれてるぅー!」
「さすがに、未来を知ってる預言者様が一点賭けしてるんだもの。
優勝するのはガンゼイオーだって事なんだよね?」
うあああ、そりゃぁ賭けの内容知られたらバレちゃいますよねぇぇっ!
オスティンの苦笑いに、オレは思わず顔を反らした。
「誰だ、そんなことをオスティンにばらした奴は!」
オレが仲間達を見回すと、当然のようにベルが
「あ、ちょっとトイレいってきしきゃぁああぁぁっ!?」
慌てて逃げ出そうとして盛大にすっころんだ。
こちらにお尻を高々と掲げて無様を晒すベルに歩み寄ると、オレはにっこり笑って優しく背中を叩く。
「ベルルーエさんや。
賭けのことは、誰にも言うな、って言ったよな?」
「あ、ああああのあのハルト、あのね! とりあえずこの格好、その、助けて!」
ベルの訴えに、両脇を抱えて身体を起き上がらせてから。
「この口軽むすめめっ!」
「きゃうんっ!」
オレのチョップがベルの脳天に突き刺さり、可愛らしい悲鳴をあげたベルが涙目で蹲るのであった。
盗賊A「オスティン、がんばれー!(対戦相手の賭け券を握りしめたまま)」
女騎士「しらじらしい……」