159 盗賊は前年の準優勝者に勝ったんだけど、勝者も敗者も次の試合は地獄に違いない
実況の勝利宣言に、観客が沸き上がる。
オレの仲間たちも、まだしゃがみこんでいる約一名を除き、安堵やら喝采やら、概ね喜んだ様子を見せてくれていた。
貴賓席のミリリアは、身を乗り出しぴょんぴょんと飛び跳ねて全身で喜びを露わにしてくれている。
特大のお胸様も、ミリリアのジャンプにあわせて一緒に弾んですっごいことになってます……!
あ、やべ。
急にミリリアが、胸を両手で隠すように抱きかかえて、真っ赤になって困った顔をしだした。
唇の動きが「えっち」って言ってます。ご、ごめんなさい……!
でも照れて拗ねた表情もすごく愛らしいです、スクショ機能どこかしら。
とても愛らしいミリリアの斜め後ろで、逆手に握ったナイフで自分の首を掻っ切るジェスチャーをするメイドから慌てて目を反らし。
そう言えばとばかりに、握ったままだった木刀を腰に納め、膝をついたフェービンに手を差し出した。
「ありがとうございました」
「おう。
いやー、完敗だったな。
昨日の様子と比べて、随分と腕をあげたんじゃねーか?」
「あー、やっぱり分かります?」
昨日の時点では、オレは急激なレベルアップで爆発的に上がった身体能力を使いこなせず、まともな戦闘をすることが出来ていなかった。
カウンター主体のアズサを相手にしたら勝てないかもと判断したのは、実はそれが理由だったりする。
力任せに木刀を振り回すだけで、全っ然だめだめだったからなぁ……
そんなオレに対し、試合で対峙してオレの状態を見抜いていたアズサが、昨日の全試合後に申し出てくれたのだ。
オレの鍛錬に協力したい、と。
参加登録後の準備時間の時のように、みっちり数時間にも渡って木刀を振り、アズサと模擬戦をしてどうにか戦える状態まで仕上げたのだった。
一応、補足しておくが。
『オレの鍛錬に協力したい』である。
間違っても、辱めを受けた腹いせに『オレでストレスを発散したい』ではない。
そこんとこ、勘違いしないように(超ボコられた)
ちなみに、ゲーム内でも鍛錬はきちんと存在するので、模擬戦については戦闘としてシステムが処理をしてくれる。
敵を倒さないので経験値は入らないが、使った武器についてはきちんと熟練度が入るのだ。
木刀が折れないことを確認したのも、昨日のアズサとの模擬戦の時。
戦闘のために武器を構え、相手と戦っている限り武器は壊れない。
さすがはRPG、ありがたい限りです。
おかげで、数時間ぶっ通しで鍛錬できたからね!
超・死ぬかと思った! そりゃぁめきめきと強くもなるよね!!
ディーア印の薬に頼る羽目になるとは(そして後悔した)
ついでに、アズサから武士の専用スキルである『居合』についても教わったのだが、こちらはスキルとして取得できませんでした。
そりゃぁ当然、オレは盗賊だからなぁ。
刀を自然に振るえているし、初期スキルが刀の『一刀』だったから、もしかしたら昔は普通に刀の扱いが得意だったのかもしれないけれど。
少なくとも、盗賊Aである今のオレは武士スキルを取得できなかった。
鍵開けや素材集めとかの、盗賊スキルをすでに身に着けてるしね。
そんなわけで、アズサとの鍛錬の成果が先ほどの試合の結果というわけだ。
結局はレベル差の暴力だったんじゃね?という気がしなくもないが、ちゃんと身体も動いたし、それほど危ない場面もなく勝てたので我ながら上出来だったと思います!
少なくとも、この世界に来る前の状態のオレと比べれば、きちんとゲームのキャラクターらしく成長できていると言っていいだろう。47レベルだし。
フェービンと健闘を称え合い、握手をかわす。
「決勝戦、頑張れよ」
「ありがとうございます。
そちらも、三位決定戦……おそらく地獄だと思いますが、頑張ってくださいね?」
「おいおい、どういうこったよ」
オレの突拍子もない言葉に、フェービンが眉を顰める。
いやぁ、だってなぁ……
「準決勝の第二試合で戦う二人、どっちもオレより遥かに強いですから」
オスティン VS ガンゼイオー。
第一試合で戦ったオレ達、ゲーム開始前から死んでいるモブ盗賊&前年度準優勝者って設定のモブ戦士とは一線を隔した、ゲーム内で主要なキャラクター達。
RPGの主人公様と、今年度優勝者となる超強キャラの戦いである。
まさに、約束された地獄と言っても過言ではない。
まあ、二人のうちの勝った方と、次の試合でオレも戦うことになるんだけどな!
うわーい、無理げー!