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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第一章・第二話 魔法使いは迂闊でちょろいんだけど、目的のためには勇者が四天王を倒さなきゃならない
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16 ベルルーエは役立たずだったんだけど、ターシャは言動も働きも予想がつかない

「大量の水を出すなんてこと、呪文を知らないからできないわ」


「……は?」


 呪文を、知らない?


「魔法使いは、決まった呪文がベースにあってこそ魔法を使えるんだからね!

 そのくらい知ってなさいよ、ばーか!」

「ばっ……ばかはお前だろ、まじでかそんな使えないの!?」


 確かに、ゲーム内で使える魔法は全部決まってるものだけだけど。

 現実になった世界でも、魔力で水を生み出すとかできないの!?


「使えないって言うなーっ、あたしはすごいの、魔法使いなの!

 そんな、ただ水を出すだけとか魔法使いじゃないのよ、そんなの一般市民よ! コップ一杯分くらいなら出せるわ!」

「うるせーこの一般市民以下! コップ一杯で火事が消せるかよ、水分補給でもしてろ!」

「以下って事は市民と同レベルってことね、でも悔しいわ、水飲むわ!」

「市民未満だこの阿呆! 一人だけ悠長に水飲んでんじゃねーよ!!」


 ギャーギャー言い合いをする間にも火は燃え広がっている。あとベルルーエ、まじで両手にすくった水をおいしそうに飲んでる、殴りたい。

 炎はすでに最初の爆発から倍以上に広がっており、家3,4軒分くらいの範囲が燃えている。

 爆発中心部の木は結構しっかりと燃え始めており、こうなってしまうと水をかけただけじゃ簡単には火が消えなさそうだ。

 これ本当にやばいな。自分で火をつけといて、まさかベルルーエがここまで使えないとは……!


 早く何とかしなきゃいけない、でもどうにもならなければ逃げるしかない。

 手もなく燃える木々を見ながら、オレは今取れる手段を考える。

 でもたかが盗賊に、どうしろってんだ……!



「ヨゲンシャさんヨゲンシャさん」

「ターシャ、いざとなったら逃げるからな」

「ヒ、ドウする?」


 ターシャはこちらを見上げ、こてんと首を傾げながら訪ねてきた。

 言い合いしてたオレとベルルーエとは大違いで、その表情に慌てた様子は全くない。


「火を消せるなら消したいし、最低でもこれ以上燃え広がらないようにしたい。でもどうしようもなくなれば、死にたくないし逃げるしかない。

 このベルルーエ(ポンコツ)は役立たずみたいだが、何か手はあるか?」

「ワかった」


 なんですってーと叫びつつ口元から垂れた水を拭うベルルーエを無視して、ターシャが火に向き直る。

 祈るように小さな両手をあわせると、静かに呟いた。


「おネガい、木のセイレイ。

 モえヒロがらないよう、キギをワけて」


 開いたターシャの両手から、緑の柔らかな光が溢れてこぼれ出す。

 こぼれ落ちた光が地面に吸い込まれると、すでに火がついて燃えている木々は炎の中心部へ、まだ燃えていない木々は炎から離れるように動き出した。

 木の精霊ドライアードに働きかけることで、森の木々を動かして何もない空間を作り、これ以上の延焼を防いだんだろう。


「精霊魔術」

「ハイ。たーしゃ、セイレイさんのコエ、イけます」


 精霊魔術とは、精霊の力を借りて様々な現象を起こす魔法系スキルだ。

 基本的にその場に存在する精霊の力しか借りられないが、精霊魔術というスキル1つで様々な属性や効果を発揮できるのが強みである。


 本来のゲームでもターシャは精霊魔術の才能を持っている。

 ただし多くの精霊魔術を使えるようになるのはゲーム後半で、前半の間は土の精霊以外呼び出すことが出来ないという設定だ。

 呼び出せなくなった理由はオープニングでの襲撃によるものと言われていたので、察するに土の精霊以外は両手を使って呼び出していたからオープニングで片腕を失って呼べなくなったってところかな?


 いずれにせよ、ターシャの精霊魔術は嬉しい誤算。

 すでに火がついて燃えている木は消火できなくても、時間が経って燃え尽きれば木は炭や灰となって炎は消える。これ以上延焼さえさせなければ、森の一部を焼いて自然と鎮火するはずなのだ。

……無責任に逃げ出す事にならなくて、本当に良かった!


「ヨゲンシャさんのため、セイコウショウして、いっぱいイってくれました」

「《精》霊と《交渉》な!」

「リャクして、セイコウショウ」

「それ略しちゃ駄目なやつ!」


 それはすごく意味が違うから、ターシャさんのこの自由奔放な発言なんとかなりませんかね!

 とってもエロゲーらしくて可愛いけど、こんな悪い教育した親は誰だ。


「モリのナカ、木のセイレイさん、ツヨい。

 水のセイレイさん、このヘン、いない」


 近くに水場などがないので、水の精霊は居らずその力は借りられない。

 が、この森の中ならば木と土の精霊は見えないけどそこら中に居るはずで、ターシャの発言もそれを裏付けている。


「うん、無理に消さなくても延焼を防げればいいんだ。

 よくやったな、ターシャ。偉いぞ」

「……えへへ。

 たーしゃ、ウレしい」


 小柄なターシャの頭を撫でて褒めると、ターシャは嬉しそうにはにかんだ。

 ちょっと発言は怪しいところがあるが、根はとても素直で優しい子だ。

 黒のストーリーでは無口で無表情なため、こんな可愛らしい笑顔が見れるだけでほっとするってもんだよ。


「……あたしは」

「ベルルーエは、うん」


 気まずそうに、それでもこちらを見ながらちょっと拗ねた表情で呟くベルルーエ。その視線を受けて、まだ燃え続ける木々をちらっと見る。


 確かに、色々と言いたいことはある。火の呪文使うなとか、消火くらい覚えろとか、一人だけ水飲んでんじゃねーとか、すごくたくさんある。

 あるんだけど、でもまぁ……


「呪文については、流石の威力だったな。予想以上で驚いた。

 ただ、今度から森の中で火の魔法は禁止で」

「──!

 わ、悪かったわよ。でも威力は、その……と、当然よね、あたしは超一流だからね。当然過ぎて何てことないんだけど、そのでもまぁやっぱり一応、その、ありが、と。


 たっ、ターシャも、後始末えらかったわね。よくやったと思うわ!」

「ハイ! たーしゃ、よくイけました!」


 言いたいこともたくさんあるけど、わざわざここで悪い点ばっかり言わなくてもいいかなぁ。

 最初に火がついてから今まで、散々言い合ったんだし。本人も反省してるようだからな。無責任に逃げ出したりもしてないし。

 後始末として火が燃え尽きるのをちゃんと確認すれば、この騒動も一段落するだろう。


 遠くフェイルアードから響く昼を告げる鐘の音を聞きながら。

 ひとまずの解決を見た騒動に、鎮火まであと何時間かかるんだろうという疑問を押し込んで少しだけ安堵の息をついたのだった。

「ぷはーっ!

 快適な冷たさ、すっきりとしたのど越し、まさに天才魔法少女が生み出す聖水とも言えるおいしい水だわ!」


「セイスイ……?

 えろげーの、セイスイ……?」


(股間越しに水を生み出したベルルーエの手をじっと見つめるターシャ)




「股間越しに手を見つめる……って、いったいターシャはどういう角度で見てるんだ?」

「しゃがんで、べるるーえさんのマタグラ、カオよせてみてる!」

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