157 盗賊は準決勝の舞台に立つんだけど、実況から変なあだ名を増やされてやるせない
「さあさあ皆さま、大変長らくおっ待たせしましたーっ!」
昨日までの晴天から打って変わって、暑い雲に覆われた空。
日差しの暑さが届かぬことを考えれば、むしろ試合日和と言えるかもしれない。
そんなことを考えながら、舞台の下で大きく身体を伸ばす。
昨日の試合も、その後の鍛錬の疲れもない。
体調は上々、準備も万端。あとは結果を御覧じろ、ってところだな。
「本日行われるのは、準決勝2試合と三位決定戦、そして決勝戦!
本大会も残すところたったの4試合。今夜には、今年の世界一が決定するのですっ!!」
今日も絶好調の実況の声に、観客が負けじと大歓声で応じる。
そんな賑わいに目を細めつつ、身体ごと、舞台に向き直る。
「第一試合は、フェービン=アルメイダ選手 VS ハルト選手。
まず登場するのは、前年度準優勝の火剣のフェービン選手です!」
反対側の舞台に、対戦相手のフェービンが姿を現す。
自信に溢れた表情に、力の入った足取り。
中央手前の開始位置まで進み出ると、拳を突き上げた。
「これまでの2試合、その圧倒的な膂力と卓越したセンスで冒険者と騎士隊長を下したフェービン選手。
炎を纏って唸りをあげる魔剣が、己を阻む者全てを斬り払うぅぅっ!」
実況の煽りと力強い在り様に、爆発するように歓声が沸き上がる。
そんな観客席を満足気に見渡すと、フェービンはいまだ舞台下に居るオレに向けて手をくいくいと動かした。
「あーっと、フェービン選手、早くも対戦相手を手招きしております。
ではもう一方にもご登場いただきましょう。ハルト選手、どうぞー!」
名を呼ばれ、舞台へ上がり。
ゆっくりと、歩みを進める。
「予選突破時点はレベル1、いまだかつて見た事ないほど弱そうだと思われていたハルト選手。
しかし、その実態はあまりにも前評判とかけ離れていたーっ!
一回戦では謎の御業で無傷の勝利をおさめ、続く二回戦はレベル47という圧・倒・的な力で瞬殺!
だがしかし、なぜか三回戦では妹を相手に黒歴史暴露大会で妹を辱めて勝利するという全く持って意味の分からない強さを発揮しております!」
「おい、ちょっと言い方」
思わず小声で突っ込む。
舞台上に張られた結界によってオレの突っ込みも会場の隅々まで拡声されて響くが、実況も観客も誰も気にしてくれやしない。
後方から、自業自得ですって呟きが聞こえた気がしたけど、うん。この大歓声の中だし、ただの空耳だろう!
「無名選手の台頭が著しい本大会においても、まさにダークホースの中のダークホース。
いわば、キング・オブ・ダークホース。黒い馬王と言っていいでしょう!!」
「変なあだな増やすのやめろぉ!」
ただでさえ、ゾンビとかシスコンとか言われてるのに!
ほら見ろ、一部の観客がうまおーって言いだしてるじゃねーか!
あと、後方でターシャが笑顔でウマオーって連呼してます。
……いや違うな。
『ヨゲンシャさん、ウマナミ』って連呼してるぞ?
うちの子に変な言葉教えないでください!
「昨年の敗戦から積み重ねられた逆襲の火剣が、ゾンビを焼き払うのか?
はたまた、必ず何かを巻き起こす黒い馬王の意外性が、熟練の技を打ち破るのか?」
あんまりやる気が削がれるような実況、しないでくれないかなぁ。
横目で実況にジト目を向けてから、目の前の対戦相手を見据える。
「くくく。
ただのまぐれか大道芸か、化けの皮を剥がしてやるぜ」
「まあ、ほどほどに。
順当な試合をしましょう」
背中の大剣を抜いて構えるフェービンに。
こちらも、ゆっくりと腰から木刀を抜き放つ。
「その腰にぶら下げた刀は、飾りか?」
「いいや。
自称・妹から借りた、お守りですよ」
オレの腰には、鞘に入った刀が下げられている。
昨夜、鍛錬後にアズサに押し付けられた彼女の愛刀だ。
でも、借りた刀は使わない。
オレは、最近よく使っている木刀を抜いて、構えた。
「さあ、お二人とも。準備はよろしいですね?
──それでは、始めていただきましょう。
準決勝 第一試合、フェービン=アルメイダ選手 VS ハルト選手」
大剣を握るフェービンの両手に、力が入り。
木刀を構えるオレが、わずかに足を開き重心を落として。
「はじめっ!」
開始の合図とともに、オレとフェービンは舞台の真ん中で激突した――!
バトル展開、はっじまっるよー(時々嘘)