152 武士の居合は全ての物理攻撃を無効化するんだけど、盗賊は声を出しているだけなので音波は物理攻撃ではない
「十二歳の時、お化け屋敷で幽霊に脅かされておしっこ漏らしたーっ!」
オレの声が、舞台を覆う結界の力で増幅され、観客席の隅々まで響き渡った。
まあそうでなくても会場中に響くよう、大声を張り上げたわけなんだが。
響き渡った言葉の内容に、観客席がしーんと静まり返る。
「……なっ、なななぁ!?」
静かな会場に、狼狽するアズサの声が妙に反響して響き。
その慌てた顔を見ながら、オレが再び口を開いた。
「その日の夜は怖くて一人で寝られなかったーっ!」
「やっ、やめて下され兄上!」
「夜中に怖くてトイレまで行けなくて、部屋の入口で泣きながらまた漏らしたーっ!」
「ぎゃっ、ぎゃあああ、もうやめてぇぇっ!」
絶叫とともに、思わず鞘と刀から手を離し耳をふさぐアズサ。
そんなアズサの様子を見て、観客達も叫ばれた内容が事実であると理解したのだろう、ざわざわと何とも言えない雰囲気に包まれた。
「うわぁ、流石にあれは可愛そうだわ」
「ま、またハルトさんは……」
「あずささん、モらしたの?」
ちらりと見れば、仲間達はあきれ顔。
オスティンに至っては、顔を赤くして横を向き、アズサを見ないようにしている。
あれが、武士(へ)の情けか……
「アズサー、降参するかー?」
「う、ううう、あにうえぇ……」
泣きそうな顔で、弱々しくこちらを見上げるアズサ。
ちなみに情報源は、スズナリの家の使用人である。
ゲーム後半で一通りイベントが終わった後、酒を手土産に持っていくとアズサの昔話を色々してくれるのだ。
主に、黒歴史。
「まだネタはあるから、大人しく降参してくれ。なっ?」
「こっ、こんなの、拙者が考えてた、兄上との試合じゃないでおりますうぅ!」
そりゃぁ、まぁ。こんな試合、想像してるわけないよなぁ。
仲間達からも、観客からも、比較的冷たい視線が降り注ぐ。
できるだけそれらを気にしないようにしつつ、アズサのそばに歩いて近寄る。
「ちなみに、これで終わらないなら、次は十四歳の秋の話をするぞ」
「……?」
年齢と季節を言われただけでは、何の話か分からないのだろう。
仕方なく、オレは口を開いた。
「道場の隅で、誰も居ないと思って使い古した木刀を使っ」
「わあああああ、もうやめてぇぇっ!」
耳を押さえるだけで済まず、とうとうアズサはしゃがみこんでしまった。
「うっ、うう……うえぇ……
記憶喪失って言ったのに嘘じゃんっ。
どうして、なんでお兄ちゃんが知らないはずなのに知ってるのぉ……もうやだぁ……」
アズサの泣き顔に、流石にちょっと罪悪感が胸に刺さる。
オレは、手にした木刀をしまうと、無防備なアズサの肩をそっと優しく押し――
唐突に。
今まで蹲って泣いていたアズサは、肩を押そうとしたオレの腕を握りつぶすかの如き力で、がっしりと掴んだ。