149 盗賊は素材が欲しくて降参したんだけど、兄妹の試合の前にそんな出来事は誰も気にしてない
三回戦・第三試合の後の、やり直し第二試合。
再び、オレとアズサは舞台の上で対峙している。
観客からは、不審や戸惑いの声と視線が注がれていたが。
それも、実況の説明を聞くうちにある程度は納得してもらえたようだ。
アズサは生き別れの兄を探して、東方より大陸へ来たこと。
大会の開会式でハルトを見つけ、思わず突撃したこと(……? え、そんなことあったの?)
やっと妹と再会できたのだから、万が一にも戦って傷つけたくなくてハルトが降参したこと。
それでも、強くなった自分を兄に見てほしくて、アズサが戦いを懇願したこと。
エリクサーがどうのと言ってなかったっけ?とか。
超越魔結晶が欲しいんじゃなかった?とか。
なんだか一部で疑いの声もあがっていた気がするけれど、実況の説明に大多数の観客は納得したようだ。
小さな疑問の声は、大きな歓声のうねりに飲まれて消える。
何より。
降参であっけなく終わるより、一試合でも多くの試合を見たいというのが観客の偽らざる気持ちであろう。
最初は微妙な空気であったが、説明により一応の理由付けが得られると、そこからは先ほどの試合前以上の熱気と声援が会場に満ちることとなった。
「良い空気でおりますね、兄上」
眼前で、自然体で立つアズサが微笑んだ。
「オレは別に、戦いが好きなわけじゃないからな。
良い空気とかはどうでもいいんだよ」
アズサには悪いが、今だって別に戦いたいわけじゃない。
それでも。
「だがまぁ、約束したから、オレなりに全力を出すよ。
どんな結果になっても、恨むなよアズサ」
「ふふ、何をおっしゃいます。
拙者が、兄上と、戦うことを願ったのでおります。
ああ、どれほどこの日を待ちわび、夢見続けたことか」
熱に浮かされたように、頬を赤く染め。
恋焦がれんばかりの熱情と、爛々と煌めく闘志を視線に乗せて。
アズサが、真っ向からオレを見つめる。
「――兄上は、拙者が斬ります」
それ以上の言葉は、いらない。
アズサは、刀の鞘を左手で握り、抜刀の構え。
対するオレは、借り受けた木刀を、正眼に構える。
「過酷な運命を乗り越えて、再び巡り合えた兄妹。
しかし二人は、添い遂げる未来よりも、互いの刀で雌雄を決する死愛を選びました!」
刀なんて、ディバイン・セイバーではほぼアズサ専用武器みたいなもんなんだがなぁ。
こんな世界で、お互いが刀で立ち会っていることが何だかおかしくて小さく笑う。
オレの笑みをどう捉えたか、アズサもまた愛らしい笑みで小さく頷いて。
「さあ、兄妹の想いに決着をつける時がきました。
第三回戦、第二試合。
妹、アズサ選手 VS 兄、ハルト選手。
試合、始め!!」