146 超越魔結晶はエリクサーの素材の一つなんだけど、錬金術でエリクサーが作れることは世間に知られていない
今明かされる、セーナさん渾身の勘違い!!(原因:盗賊A)
「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってください!
ハルトさん、まさかひょっとして、エリクサーの錬金レシピをご存じなんですか!?」
「え?
そりゃぁ当然じゃないか。だって、エリクサーだよ?」
セーナの質問に、そちらを向いて答える。
そりゃぁ当然だ、エリクサーのレシピは有名だからな。
特殊レシピだから錬金術のレベルや素質もそれほど必要ないし、設備も最低ランクで十分。
あとは素材さえ揃えば、今すぐだって作れるのだ。
まあ普通にプレイすると、素材が揃った頃にはすでにエリクサーが余り始めてるとか、今更エリクサーを必要とするイベントなんて発生しないわけなんだけど……
でもせっかくだからレシピを埋めたいゲーマー心ってことで、だいたいみんな一度は作ると思う。
そして、二度と作らないと思う。だってエリクサーの素材って他のものの材料でもあるから、そっちの方が貴重だし。
「な、なにが当然なものですか!
エリクサーですよ、ご自分が何をおっしゃってるか分かってますか?
奇跡を起こすために皆が一縷の望みに掛けて命を賭し、一瓶あれば城が買えると言われ、錬金術の究極、作り出したものは神の領域に到るというあの!」
「いやいやいや、エリクサーは固定レシピだからな。
錬金術レベルはそんなに必要ないし、その辺の学園生でもちょっと頑張れば作れるよ?」
「作れてたまりますかーっ!
あーもうっ、なんでハルトさんは、ハルトさんはぁっ!」
いつかのように声を荒げて言い募るセーナ。
あ、なんかこの反応懐かしい。前もこんなことあったなぁ。
そうだ、エリクサーができたら娼館へ行こう。
うん、絶対に行こう。ジュネさんに会わないといけないからね!
「そういうわけで、超越魔結晶が欲しくて大会に参加したんだよ」
「そっ、そんなこと言われても、嫌でおります!」
吠えるセーナと、なぜか刀に手を添えて居合の構えを取りつつわがままを言うアズサ。
わがまま(物理)という言葉が頭に浮かぶんだが、ぶったぎるのは勘弁していただきたい。
……身代わりの指輪に装備交換しとこうかな?
「折角エリクサーの錬金に必要な材料を集めて――」
そんな風に舞台上で説明と説得を続けるオレ達に向けて
「この試合については、一旦わたくしが預かります!」
会場中に響き渡ったミリリアの声が、オレ達の試合の没収を告げたのだった。
戦わずしての降参では観客の不満もあるだろうし、賭けが行われている以上不正があってはならない。
そのため、第二試合については理由や状況を確認し、大会運営側で協議とする。
試合は繰り上げで第三試合を先に行い、協議の結果は後程発表する。
ミリリアにより宣言された内容は、大まかにこのようなものであった。
すぐにオレとアズサは舞台を下ろされて、入れ替わりに試合を観戦していた第三試合の選手達が呼び出される。二人とも、ちゃんと観戦してて良かったね。
彼らが舞台に上がるのを後目に、オレ達二人は別室へと連れて行かれた。
別室に集められたのは、試合参加者であるオレとアズサに、オレの関係者としてベスト8進出者用観覧エリアに居た仲間達。
すなわち、セーナとベルとターシャとディーア、それからオスティンとその仲間3名だ。
……オレとアズサとオスティンが全員ベスト8入りしてたので、せっかくだからみんなで見ようぜってことで、隣同士だったオレとアズサのエリアをくっつけて皆がそこに集まっていたのだ。
そのせいで集合した人数が多くなってしまったが、オスティンの仲間達って関係者か……?
まあいいか、隠す内容でもないしな。
そんな感じで大所帯のオレ達以外では、試合を預かったミリリアと、大会の運営委員長と副委員長。あとはユティナさんと護衛の人達だ。
委員長達はお城の上級役人、つまり貴族らしいが、知らない名前だった。モブですね。
「さて、ハルト様」
集まった面々を見渡した後、口火を切ったのは試合の没収を告げたミリリアだ。
「はい」
凛としたミリリアも、綺麗だなぁ……
と思いつつ、ここには他の人も多いのでよそ行きの顔で神妙に返事をする。
なぜか頬を染めるミリリアが、努めて澄ました顔でオレに告げた。
「まず最初にお願いです。
エリクサーのレシピ内容は、わたくしが良いと言うまで、絶対に誰にも口にしないでください」
「は、はい?
分かりました」
レシピ内容なんて、冒険してれば知れる事だし、大したもんでもないんだけど……でもミリリアの言うことなので素直に頷く。
それから事情を聴かれたので、初めて聞くオスティン達も居ることだし、改めて1から説明をした。
とある少女が病に苦しんでおり、助けるためにエリクサーが必要なこと。
エリクサーを入手するために、大会に出場したこと。
5~8位の景品である超越魔結晶がどうしても必要なため、これが欲しくて降参したこと。
……舞台で口にしたので超越魔結晶が素材の一つってことはみんな分かってるだろうけど、ミリリアに釘差しされたので明言は避けておく。今更だけどね。
「疑うわけではございませんが、確認させてください。
ハルト様は、錬金術でエリクサーを作り出す方法をご存じなのですね?」
「ああ、もちろんだ。
でなきゃ、エリクサーなんて手に入らないからな」
武闘大会の優勝賞品?
むりむり、あんなん手に入るわけがない!
一周目のプレイでガンゼイオーを倒すなんて、絶対無理です。
勇者でも不可能なことを、ただのモブの盗賊Aで出来るわけがない!
「エリクサーを入手するために、武闘大会に参加すると伺いましたので。
てっきり、優勝して賞品のエリクサーを入手するおつもりだとばかり思っておりました……」
「そりゃそう思うわよね。セーナだけじゃなく、あたしもそう思ってたわ」
「くふふふふふ。
只者ではないと思っていたが、まさかまさかの大まさか、エリクサーのレシピを知っているとは……これはとんでもなく驚きだぁねぇ」
「ダーネー?」
うちの仲間達が小声で話しているのが聞こえたので目線を向けると、なぜかセーナが項垂れていた。
……ちゃんと説明したのになぁ。優勝賞品がエリクサーだったから、途中から忘れてたのかな?
「はぁぁ……
絶対あの顔、またハルトさんは『説明したのに何でこいつら忘れてんだろう』みたいな事を考えてますよ」
「ハルト!
あたし達、まっったく説明受けてないからね!」
「えっ」