143 第一試合はシードを含めてモブ同士の対戦だけど、熱く激しい戦いだったので観客は大満足に違いない
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手にした槍から放たれる、幾条もの鋭い刺突。
それを肉厚の両手剣で防ぎ、斬り払う。
速さに勝るケッツィに対し、豪快な力技でフェービンが攻め立てる。
その重い攻撃を丁寧にさばきながら、ケッツィが距離を取って構え直した。
「一回戦でも思いましたが、冒険者の剣というものも馬鹿に出来ませんね」
「そりゃぁこっちのセリフだ。
騎士団なんざお行儀がいいばかりかと思ったが、意外と隊長さんもやるじゃねぇかよ」
「魔物が増えた昨今、行儀が良いだけでは騎士は務まりませんよ」
「はっ、まったくだ!
本気でやっても死ななそうだし、気合入れてくぜぇ!」
「望むところです!」
一瞬の静寂から、舞台中央で再度の激突。
フェービンの握る大剣が炎に包まれ、空気を灼き斬る。
ケッツィの槍が熱に揺らめく空気を貫き、炎の大剣と打ち合わされる。
二合、三合。四、五、六、七……
戦いは加速し、笑みを浮かべる二人の姿に観客も息を忘れて拳を握り。
やがて。
「はあぁっ!」
「せやぁっ!」
二人の武器が交錯し――切り飛ばされた刃先が地に落ちるより早く、剣閃が首筋に触れた。
「……参りました」
首筋に刃を添えられ、降参を告げたのは、若き騎士隊長だった。
「それまで!
勝者、フェービン=アルメイダ選手!」
激闘からの決着に、観客が歓声をあげる。
中には賭けに負けた悲鳴も含まれていたが、それも含めて大賑わいだ。
そんな大歓声の中、刃先を失った槍を後ろ手にしまうと、ケッツィは深く息を吐いた。
「強かったぜ、騎士隊長さんよ」
「いえいえ、負けてしまいましたからね。
フェービンさんの方がお強かった。それだけです」
大剣に纏わせた炎を二度振って消し、フェービンも大剣を背負った。
「だが、不完全燃焼だ。
来年は、量産品じゃなくちゃんとした槍を持って来るんだな」
「……ですね。騎士団支給のものではなく、来年は私物の槍を持って参加することにしますよ」
二人の技量は、およそ互角。だが、武器の性能に無視できない程の差があった。
そのことを、勝者も敗者も理解している。
それでも、試合は試合であり、勝ったのはフェービンだ。
両者ともがその結果に納得して、舞台上で握手を交わした。
「準決勝進出、おめでとうございます。
昨年の雪辱を果たせるよう、頑張って下さいね」
「おう、ありがとさん。
隊長さんも、機会があればまたやろうぜ」
「そうですね。来年に向け、鍛えなおすことにします。
私が敗北したせいで、明日からきっと騎士団での訓練が三倍に増えることでしょうからね……」
負けたことによる結果に、少し遠い目をするケッツィ。
敗北した自分が厳しい目に合うのは仕方ないとしても、巻き添えとなる部下達には少し申し訳ない気持ちになった。
その様子に肩を叩いて笑うと、相争った二人は肩を並べて舞台を後にしようとする。
そんな二人を慌てて呼び止めると、実況は勝者と敗者の両方に、試合後のインタビューを始めた。
観客達は激闘を為した選手達に拍手をし、熱くも爽やかな空気の中で一回戦が幕を閉じたのであった。
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【 武闘大会 試合結果 】
・ 三回戦 第一試合
ケッツィ VS フェービン=アルメイダ
勝敗結果:ケッツィの降参により、フェービンの勝ち
試合時間:11分04秒