138 試合は19秒で終わったんだけど、勝利者インタビューが終わるまでは帰れない
前話のタイトルミス、大変失礼いたしました。
ベルさんおもろを後で書き加えた時に、タイトルを入れなおすのを忘れたっぽい……
慌てて修正いたしました。
「137 時代に愛された拙者でござるけれど、ミリリア姫を妃として王になるのもやぶさかではない」
(内容は変更ありません)
壁に叩き付けられたサントスが、ゆっくりと地面に落ちた。
審判が駆け寄って気絶している事が確認された後、実況により勝敗が告げられる。
「第七試合の勝者、ハルト選手!」
勝敗のコールが信じられないように、観客達の戸惑いの声。
だが、やがてまばらな拍手が鳴り始めると、すぐにそれは盛大な拍手と喝采、あるいは罵声に取って変わられた。
「一撃じゃねーか!」
「すげーぞゾンビー!」
「ゾンビすごいー!」
「ゾンビ早すぎる! はやゾンビ!」
「ぞんび! ぞんび!」
「てめぇどんなイカサマしたんだこらー!」
いや、あのね?
皆さん、人の事ゾンビ呼ばわりするのやめて?
一回戦で、カーロンの魔剣に胸部を貫かれたまま、歩いて退場したせいで。
その姿が話題になり、いつの間にかオレに二つ名がついていた。
『ゾンビのハルト』
あえて、もう一度言おう。
ゾンビのハルト、である。
ねえ、ひどくない?
それだったら、まだレベル1のハルト、の方がマシなんですけど?
そりゃぁまぁ、もうレベル1じゃないけどさ。
二回戦も、スケジュール上の試合間隔は1時間。
1分もせずに試合が終わってしまったため、次の試合開始までは今から実に59分程。
舞台の修復や片付けも不要だし、観客にとってはひたすら無駄な待ち時間となってしまうな。
そんな状況を危惧してか、二回戦からは勝利者インタビューがある。
実況担当の女の子がオレのそばにやってきた。
ゲームでは見覚えのない、おそらくモブキャラ。アイドルっぽい衣装を着た美少女である。
「こんにちは、ハルト選手。
三回戦進出、おめでとうございます♪」
「ありがとうございます」
ゲームの時の試合は、全てRPGとしての戦闘だった。
そのために実況とか居なかったんだが、現実の試合では選手紹介やインタビューなんかがあるのだ。
今日の第五・第六試合でも普通にインタビューしてたしな。
なんか、これぞ試合!って感じでちょっとテンション上がるよね。
「いやぁ、しかし見事な一撃でしたね。
今のところ、大会の最長飛距離記録ですよ!」
「最長と言っても、壁があるからなぁ。距離を伸ばすには、わざわざ試合場の端まで下がるしかないんじゃない?」
ちなみに、手にはマイクっぽい形の道具を持っているが、これ自体は特に効果のないただの棒らしい。
この舞台全体に試合用の結界が張られており、ゲームの戦闘と同じように致死の一撃を気絶で留めると共に、内部の声を拡声して会場中に届けているそうだ。
なので、普通に会話しているくらいの声でも、観客席の後ろの方まで十分に聞こえているようだ。
ただまぁ、気絶の方は絶対ではないらしく、カーロンにされたみたいに胴体両断されたり心臓貫通されれば許容量をオーバーして本当に死んじゃうらしい。
そりゃそうだよな。胸部を魔剣が貫通したのに、平気でうろうろ歩けるわけがないよなぁ。
……ハルファラさん、身代わりの指輪ありがとうございました。おかげで今日も生きてます!
「あはは、そうですね! では次回は、舞台端からぶっ飛ばしてください!」
「いやいや、そんなことしませんから」
軽快なトークに、あたりさわりのない内容で答える。
そんなオレに対して、実況者はある意味で核心に切り込んできた。
「ところでハルト選手。
ハルト選手と言えば、決勝トーナメント参加者の中で、一番レベルが低いことで有名ですよね?」
「有名かどうかは知りませんけど、優勝者を当てる賭博の紹介文には『いまだかつて見た事ないほど弱そうな盗賊』と書かれてたらしいな」
「ですです、それです!
ぶっちゃけちゃいますけど、レベル1の決勝トーナメント出場者って、大会史上初めてらしいですよ?」
そりゃぁ当たり前だよなぁ。
普通に戦ったら、レベル1で予選を突破できるわけないもの。
オレだって、オイル&押出し戦法で勝ち上がっただけだし。それだって、結構ぎりぎりだった。
「それなのに、今の一撃必殺ホームラン!
――どんな秘密があるんですかぁ?」
探るような目で、あるいは媚びるような目で下から覗き込んでくる実況の女の子。
「ねぇねぇハルトさぁん、プルエに教えて欲しいなぁ?」
わざとらしく腕を抱いて、おねだりしてくる。
おおぅ、これは着やせタイプなのか、見た目よりもなかなか大き
「!?」
思わず背筋が凍る想いで振り向くと、貴賓席からミリリアが笑顔で見下ろしていた。
そして右からは、真顔のセーナがこちらを見つめている。
こ、こええ
「い、いやいや、秘密なんてないから!」
慌ててオレは、プルエという名の実況から身を離し。
話題を変えるために、あるものを懐から取り出した。
「……ギルドカード?」
ギルドの登録証。ギルドカードとも呼ばれるそれを取り出し、表面を見せつける。
「それが何か――
え、ええええええ!?」
試合の終わった観客席中に、結界により拡大されたプルエの絶叫が響き渡る。
「れっ、レベル、よんじゅうななぁぁ!?」