137 時代に愛された拙者でござるけれど、ミリリア姫を妃として王になるのもやぶさかではない
【サントス】 - - -
来ている。
東方より吹ききたる時代の風が、拙者の背を押している。
拙者に、覇者になれ、英雄になれと世界が叫んでいるのでござる!
発表された二回戦の対戦相手を見て、拙者は思わずガッツポーズをした。
ハルトというその名前は、拙者も覚えておった。
開会式後の賭けの際、ぶっちぎりで倍率がすごかった奴でござる。
選手説明に書かれていたのは、レベル1であるということ。
まるで、神が拙者を優勝させるために用意したかの如き試合。拙者は笑いが止まらなかった。
いや、待てよ……?
今回の試合は、なぜか例年と違ってトーナメント表が全て公開されていないという話でござる。
これはまさか、拙者を勝たせるために対戦相手を仕組んでいるということではござらぬか?
そうか、そうに違いない!
拙者を優勝させ、ミリリア姫の婿となって欲しいという王城の意向に違いない!
優秀なる拙者が騎士となれずこのような立場に甘んじている理由も、全ては今日この時のためということでござるか。
全ての事実が、東方の風の下に今一つになった!!
真実に気づいてしまった拙者が、貴賓席のミリリア姫を見上げれば、まるで正解ですよとばかりにミリリア姫がこちらを向いて微笑んでござった。
心が通じ合ったでござるぅ!
拙者はキリっとした顔で、ミリリア姫に頷いてみせた。
ミリリア姫を妃に迎え、行く行くは拙者がフェイルアードの王であるか。
ふふ、ぐふふ……素晴らしい。やはり、時代が、世界が拙者を求めているのだ!
嗚呼、明日の試合が待ち遠しい。
覇道への第一歩として、レベル1の雑魚をこてんぱんに斬り伏せて血祭りにあげてくれるでござる!
待ちに待った、二回戦の試合の時。喜びと興奮であまり眠れなかったが、拙者の調子はかつてないほど良い。
そんな絶好調の拙者の前に現れたのは、先日ギルドで騒ぎ立てていた黒髪黒目の貧相な男であった。
そう言えばこいつは、あの時イルニーサ嬢に無礼を働き、拙者を侮辱した奴!
そうか、こいつが拙者の踏み台、レベル1野郎でござったか。
あの時は処罰するのをうっかり忘れてしまったが、それさえも今この場で世界が拙者を称えるために必要な踏み台ということでござったのだな。
全てが、完璧なる采配でござる!
あと、あの時居た胸のでかい僧侶も絶対に側室に迎えるでござる。そのためにもこいつを叩きのめさねばな。
他の女?
確か、将来有望な幼女が居たな。まだまだ成長はこれからでござろう、メイドとしてでも育てておくのも悪くないな。
あとは胸のないのがなんか居た気がする。
貧相な体躯にみすぼらしい服を着て、構えもせず立っている薄汚い男。
腰には、街中で拙者が使っているような木刀を下げている。
英雄たる拙者に憧れて真似したくなる気持ちは分かるが、男など不要!
まあ何をどうしたところで、レベル1の相手など一太刀でござる。
拙者がミリリア姫を見上げると、ミリリア姫は哀れなレベル1の生贄を見下ろしていた。
うむ、そやつが拙者の踏み台である。存分に見られるが良い。
今から拙者が、必殺の剣で一刀のもとに斬り伏せてみせようぞ!
審判の指示に従い、一礼。
このような雑魚に頭を下げるのは苦行だが、まあ良かろう。
拙者の踏み台を果たすのだ、その功績に免じて頭を下げてやる。末代までの誉れとするがよい!
拙者が剣を構えると、ようやく男も木刀をゆっくり構えた。
そうして、両者が無言で向き合う中で。
審判により、試合開始が、拙者の覇道の開幕が告げられた!
「はあああ、死ねみすぼらしい奴め!
拙者を侮辱した罪を償い、拙者に斬られて我が優勝しこの国の王となる踏み台となるでござる!」
拙者の強さを見せつけるため、こんな雑魚は一撃で仕留めてみせよう!
くらえ、我が必殺剣!
「ハイパー・グレート・ストロング・スペシャル・ダイナマイト・東方・スラぁぁーッシュ!」
ずばぁぁぁっ!
脳天から振り下ろした拙者の必殺剣は、
「よっ」
ちょん、とばかりに木刀の切っ先で受け止められ。
「一刀」
続く木刀の横薙ぎが、拙者の腹に、はらにぃっ!?
「ぶっ、ぉごあああああ!?」
軽く振りぬかれた木刀が、拙者の腹に直撃し。
軽々と宙を舞った拙者は、舞台を飛び越し、観客席の壁に激突。
手からは剣が、地面に落ち。
壁面に叩き付けられた体が、地面に落ち。
最後に、拙者の意識が、闇に落ちたのだった……
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【 武闘大会 試合結果 】
・ 二回戦 第七試合
ハルト vs サントス
勝敗結果:サントスの気絶により、ハルトのKO勝ち
試合時間:19秒
なんか居た気がする胸のないの「ちょっと! ちょっっと!!」
胸のでかい僧侶「ベルさん、どうなさいましたか?」
なんか居た気がする胸のないの「なんだか今ものすごーくあいつがむかつくの、ハルトに代わってあたしが撲殺するわ!!」
将来有望な幼女「べるサン、おもろ」
なんか居た気がする胸のないの「おもろくないわよ!?」