110 黒の魔剣士編の方向性は好きじゃないんだけど、黒の魔剣士本人は必ずしも嫌いじゃない
「……その通りだと思う。
オレだって、オレの大切なものたちが奪われれば、復讐を考えるだろう。
その気持ちは、否定できない」
ミリリアが。
セーナが、ベルが、ターシャが。ついでにオスティンが。
彼女らが酷い目にあえば、オレは相手を許さない。
だからこそ。
「帝国の姫を斬ることは、帝国を乗っ取った魔族の目的を果たし、やつらを利することになる」
「何?」
急に方向の変わった話に、カーロンがわずかに眉を動かす。
「魔族は今、世界各地で暗躍している。
帝国を乗っ取ってズィオレーベを攻めたのは、王族と魔剣を闇に葬るためだ。
だが、魔剣のことは奴らの目的を果たす手段の一つでしかない。
魔王復活の妨げとなる全ての障害を排除し、魔王を復活させる。そのために、奴らは行動している」
このフェイルアードには、まだ直接魔族の手は伸びていない。
だがそれも、時間の問題だ。
聖剣を持つ勇者の故郷。複数のメイデンの居る、世界の中心地たる大国、フェイルアード。
必ず魔族は、この国への侵攻を企む。
「つまり、帝国の姫も、やつらにとっての魔王復活の障害の一つであるというのか」
「察しがいいな、その通りだよ。
今はまだ、奴らも気づいていないはずだけどな」
魔族達がメイデンを特定するのがいつかは、よく分かっていない。
おそらく前半と後半の2年の間だと思うのだが、なぜ知ることになったかも不明なのだ。
ゲームで主人公は、その2年の間は不在だからな。
誰がメイデンかを知ったら、魔族達は集中してメイデンを殺そうとするはず。
そうなる前に、できる限りメイデン達を見つけ出し、仲間にしなければならない。
……一応言っておくが、オスティンの仲間だからね?
オレの仲間じゃないからね?
「オレの目的は、大事な人たちの平和で幸せな未来だ。
そのために、勇者に魔王を倒してもらう」
「随分と大それた話だな」
「ああ、自分でもそう思うよ」
オレの目的は、確かに大それている。
ただのエロゲーマーには重たすぎる。
だけど、エロゲーマーだからこそ、魔王を倒して世界を救うなんて目的は、当たり前のものでもあるんだ。
だって、そうしなければ、ヒロイン達が笑顔で暮らしていけないんだからな。
「だがカーロン、お前だって同じなんだよ」
「なんだと?」
オレにとっては、ヒロイン達の笑顔のために、魔王が邪魔だ。
目的と手段の大きさがちょっとアンバランスなだけで、目的達成のために必要だからやる、それだけの話である。
それは、カーロンだって同じなのだ。
「ズィオレーベを滅ぼしたのは帝国。
帝国を支配しているのは魔族。
魔族の親玉は、魔王」
「……なるほど。
魔族を滅ぼすには、魔王を倒すしかない、か……」
「そういうことだ。
お互い、目的は違っても、魔王を倒すという手段は同じなんだよ」
オレの言葉に納得したように頷くと、カーロンは俯いて考え込む。
――やがて、長い長い沈黙の後、ゆっくりとため息をついた。
「立ちはだかるものは打ち倒す。
邪魔するものは排除するし、立ち上がり続けるならば殺す。
だが、立ちはだからぬ、視界に入らぬというのであれば――わざわざ探してまで、帝国の姫を殺そうとはせん。
オレが譲歩できるのは、ここまでだ」
「邪魔しなければ殺さない、それだけでも確かに譲歩だな。
わかった、今はそれでいい。今後、少しずつまた色々要求していくからな」
「今後などない。
オレはもう、貴様の顔は見たくない」
「まあそう言うなよ。
きっと、嫌でも顔をあわせることになるさ。
お前が魔剣を持ち続ける限りな」
カーロンは、幾度もオスティンとぶつかる。
カーロンがオスティンと関わり続ける限り、何らかの形で、オレと関わることもあるだろう。
そんな気持ちでこの先を預言してやったら、すごく嫌そうな顔をされた。
「いいから、情報を話せ。
役に立たん話だったら、さっきの譲歩も考えさせてもらうからな」
「分かった。
すまないが、ここから先はオレとカーロンだけにしてくれ。
他の人には、まだ聞かせられない」
セーナがもの言いたげな顔をしていたが、結局は何も言わずに階段を引き返してくれた。
その後を追うようにベル達が続き、困った顔をしていた衛兵達にもギルドの登録証をちらつかせて退場いただいた。
そうして他の皆を遠ざけたオレは、魔族の狙いとメイデンについてや、帝国を支配した魔族の戦闘方法など、色々な事をカーロンに話すのだった。
お読みいただきありがとうございます。
また、誤字報告も感謝致します。重ねてありがとうございます。
次回で三章・五話も終了。
いつものおまけ付き2話更新は月曜日投稿予定です!