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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第三章・第五話 黒の魔剣に胸部を貫かれたんだけど、準備万端なので魔剣士と敵対する必要はない
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109 黒の魔剣士は復讐に燃えているんだけど、盗賊は全てのメイデンを守らなければならない

「な、え……?」


 オレの開幕土下座に、カーロンの勢いが萎んで言葉が途切れる。

 その様子を声だけで把握しつつ、頭は上げずに言葉を続ける。


「大会の試合のためとは言え、ズィオレーベの民を侮辱したオレが悪かった。だから謝る、この通りだ」


 頭を下げたままのオレと、おそらくはオレを見下ろしているカーロン。

 もちろん仲間達も衛兵も含めて、誰も何も言わない。


 牢に、重たい沈黙が下りる。



「……お前は」


 しばらくして、ゆっくりと、伺うようにカーロンが呟いた。


「お前は、ズィオレーベを知っているのか?」


「ああ。

 北方の国なので、この目で見たことはない。

 だが、知識としては知っているし、帝国によって滅ぼされたことも把握している」


「……それだけか」


 滅びる前の姿は、黒の魔剣士編のオープニングで、ほんの少しだけしか見たことはない。

 だが、エロゲーとしての方向性が好みでないとは言え、黒の魔剣士編だって何度もクリアしている。基本的な情報は、だいたい頭に入っていた。


「情報レベルで良ければ、色々知っている。

 カーロンが第二王子だってことも、味方に守られ逃がされて港町のゾルゼアンから船に乗ったことも。

 それから、襲ってきた帝国の軍隊についてもだ」


「頭を上げろ。

 許してやるかわりに、知っている情報を教えろ」


 カーロンからの許しに、頭を上げて床に座り込む。

 カーロンもまた、牢越しに、オレの目の前に腰を下ろした。


「情報を教えるのは構わない。

 牢から出るときには、魔剣もカーロンの手に返そう。

 そのかわり、こちらからも要求したいことがある」

「何をだ?」


「復讐をやめろ、とは言わない。

 だが、復讐すべき対象を、誤らないでくれ」

「――どういうことだ」


 オレの言葉に、カーロンが眉を顰める。


「帝国の兵がズィオレーベを襲ったことは事実だ。

 だがその帝国は魔族に乗っ取られている。魔族の目的は、ズィオレーベの王族を根絶やしにし、魔剣を闇に葬ることだ」

「なんだと……?」


 今のカーロンには、ズィオレーベが滅ぼされた理由について全く知る由はない。

 この情報は、ゲーム後半、もっとずっと未来に知る情報だ。


 だが、今ここで、オレはカーロンにそれを伝える。


「今オレが要求することは、カーロン。

 復讐対象から、帝国の姫を除いて欲しい。これだけだ」


――カーロンに言いたいこと、要求したいことは、他にもたくさんある。


 魔剣はともかく、鎧を使うのは止めて欲しい。

 敵対したからと言って、すぐに人を殺すのも止めるべきだ。


 だが、一番望むことは、今言った通り。

 メイデンである、帝国の姫の安全だ。


「……」


「彼女は、何も知らない。

 確かに帝国の皇族であり、責任が皆無とは言えない。

 だが、彼女が帝国を出たのは、帝国が魔族に乗っ取られるよりも前なんだ。


 彼女は、ズィオレーベの件に、全く関係がない」



「……仮に、お前の話が真実だとしよう」


 オレの訴えに考え込んでいたカーロンが、静かに口を開いた。


「帝国に姫が居たことは知っているし、その姫が今は帝国に居ないというのも把握している。

 帝国への復讐対象として、見つければ斬る、その意思があることも否定しない」


「ああ」


「例え、お前の話通り、ズィオレーベを攻めた件に無関係だとて。


 ならば、ズィオレーベの民は、我が家族は、何故命を落とさねばならなかったのだ?

 我らが、かの帝国に、(あだ)為したというのか?

 何の罪もなく、ただ一方的に我らを攻めたのは、帝国の奴らではないか!」


 カーロンが吠えた。

 深い怒りと憤りのこもったその声は、オレの耳に泣き声のように響いていた。

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