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ディバイン・セイバー ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、ヒロイン達だけは不幸にさせない~  作者: 岸野 遙
第三章・第四話 一回戦から対戦相手が強敵なんだけど、レベル1だからって負けるわけにはいかない
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92 盗賊は心ここにあらずだったんだけど、まずは目の前の大会を勝ち抜かなきゃならない

「はぁ……」


 控室に集められた、選手一同。

 その中にはもちろんオレも居るし、いつの間にか隣にアズサも居る。

 壁際には、頭一つでかいハゲも居る。

 そんな中でスタッフの説明を聞き流しながら、オレは重い溜息をついた。


「顔色も優れませぬが、大丈夫でおりましょうか。

 どうなさいましたか、兄上?」

「……ままならない、と思ってな」


 昨日、オレを襲撃してきたエルフのヴェニアは、こう言った。

 盗賊が、フェニアの仇である……と。



 フェニアはフェイルアードの西、エルフェラルドで出会う予定のエルフで、メイデンの一人である。

 ゲームでの登場時期は、二人目の四天王イベントの時。なので、まだしばらくは先となる予定だ。

 だが、すでに死んでいると妹らしきヴェニアが言っているのだ。


 何が起きているのか、分からない。

 ゲームとの差異が生じているようだ。

 だが、何が異なるのか、なぜそうなっているのかが分からない。


 差異と言っても、ミリリアが本来より元気ですとか、ターシャの発言ヤベーですとかなら、笑って済ませられるんだ。

 だけど、メイデンの死亡となると、あまりにも影響がでかすぎる。



 ミリリアを助けたから?

 ターシャを助けたから?

 どちらも、ゲームでは絶対にできなかったことだ。


 オスティンの周りにメイデンが居ないから?

 これは、仲間の選び方によってはゲームだってありえる。


 カーロンがターシャを仲間にして居ないから?

 こっちは強制イベントなので、ゲームでは絶対にありえなかった。


 ゲームの事は大体知っている。当初はうろ覚えだった部分も、この世界で皆と生活している間に少しずつ思い出している。

 それでも、この世界に対して、オレは情報が足りない。

 何をどうすればいいのか、全く見当がつかないのだ。



 一番情報を知っていそうなヴェニアに会いたかったが、元々知り合いでもない。

 牢に居る相手を刺激するということで、オレの面会許可は下りなかった。

 武闘大会後には解放される予定らしいので、解放される日に行けばどうにか会う事はできるだろう。

 会ったあと、ちゃんと会話になるかは……状況次第だな。

 ヴェニアの姉のフェニアさんが、メイデンとは別エルフだと一番うれしいんだが……流石にそれはありえないよな。


 こうなると色々不安になってくる。

 ジュネさんにも会いたかったけど、こちらは決勝トーナメントの期間中は娼館が休業なんだ。

 まだ挨拶しただけの状態で家に押し掛けるのは、なぜ家を知ってるかとか事情を知ってるかとか、かえって警戒されるだろうから出来ない。

 不安なまま、決勝トーナメントを勝ち上がるために色々準備することしか出来なかった。


 確かにオレは、メイデン全員の幸せを目指して頑張ってきたつもりだ。

 だけどひょっとすると、オレの行動の影響でフェニアが死んだのでは?

 そんな想いがずっと頭の中をぐるぐる回っていて、昨夜はほとんど寝られなかった。




 係員の説明の後は、観客と王族の前で一回戦の抽選を行うということで、ぞろぞろと舞台へ移動する。

 移動中、まるで介護するようにオレの腕を抱き背を支えてくれたアズサ。

 控室での話が全然頭に入らなかったオレのために、歩きながらアズサが要点を説明してくれた。


 一回戦の対戦相手は、これからの抽選で決まること

 一回戦は今日の午後と、明日の午前・午後で行われること

 一・二回戦の試合は1時間間隔で行われ、早く終わった場合にも時間までは次の試合が開始されないこと

 二回戦以降の対戦相手は、一回戦の抽選時に内部的にトーナメント表として決定されているが、誰と当たるかは二回戦開始まで秘密とされること

 二回戦終了後、ベスト8が出そろった段階でトーナメント表が公開され、それ以降の対戦はトーナメント表に従うこと

 各試合の参加選手は、試合開始時間の5分前までに、控室に居ること


 そのほか、参加者用観覧席は敗退後も利用が可能なことや、ベスト8以上になると参加者毎に身内招待可能な観覧エリアが与えられることなどを教えてもらった。


「しかしこうなりますと、兄上としては些か不利な展開でおりますね」

「ん、どうしてだ?」

「仮に一回戦が明日だった場合、二回戦がその翌日、明後日になる可能性がおります。

 二回戦の対戦表が公開されていないため、いつ戦うか判明しておりませんからね」

「あっ……そうなるのか?」


 ゲームでは、主人公の第一試合は必ず二日間のうち後の日で、第二試合も同様に後半となる二日目に行われていた。

 だから、第一試合が後半なら第二試合も後半、と思っていたんだが……


「秘密の修行に一日と申されておりましたが、その時間を捻出するのが難しい可能性がおりますよ」

「そうか、そうだな。それは確かに困るな」


 なんとしても、この武闘大会で勝ち上がらなければいけない。



――そうだ。オレは、何としてもエリクサーを手に入れて、クミちゃんの病気を治すんだ。

 そのために今できることは、武闘大会で勝ち進み、エリクサーを手に入れる事だけなんだ。


 確かにとても気になるけれど、フェニアの事は、大会が終わるまではいったん置いておこう。

 まずはこっちに集中しないと、勝てる試合も勝てなくなる。

 と言うか、色々と想定外が続いていて、ちゃんと勝てるかどうか非常に怪しくなってきてるんだからな。


 軽く両頬を叩き、気合を入れなおす。

 そんなオレを、優しい眼差しで見つめているアズサに気づいて、ちょっと恥ずかしくなった。


「さあ、まずは抽選。

 見事、兄上との試合を引き当ててみせましょうぞ!」

「いや、それほんとヤメテ?」


 今のレベル1のままアズサと戦ったら、多分手も足も出ずにこてんぱんにされちゃう!


 どうか、どうか一回戦が明日の午後になりますように!


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