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01 プロローグ1

 この作品は、短編小説『ディバイン・ブレイド ~ゲーム開始時点で既に死んでいる盗賊Aだけど、お姫様だけは不幸にさせない~』の連載版となります。

 プロローグ部分 全3話が短編とほぼ同じ内容になっております。

 短編の内容覚えてるぜ!という方は、以下の重要な変更点だけご認識下さると幸いです。



【 短編からの変更点 】


・ タイトル変更

 助ける対象がお姫様一人じゃなくなったので、お姫様→ヒロイン達になりました。あとは諸般の事情

・ ハルトの自身に対する認識を少し上方修正

 盗賊とか全然できる気がしない → 盗賊スキルありそう

・ 王女ミリリアから押し付けられた従者、ユティナの設定を変更

 騎士 → メイド

・ プロローグのラストシーン、ハルトが目指すものを変更

 12人全員攻略 → 12人全員の不幸な未来をぶち壊す

・ 12人のメインヒロインの呼称『メイデン』


 細かい部分は、上記以外にもちまちま変更してます。でも大筋には影響ありません。

 あと、三話目のプロローグ後にちょこっと?連載版プロローグについてのあとがきあり。

 新しい物語は四話目、第一章から開始となります。



 それではこれより、開幕です──!

 ぼやけた視界の中で、松明の揺らめきにあわせ、蜂蜜色の長い髪が纏う柔らかな輝きが揺れる。

 陶磁器のような滑らかな肌は、恐怖に血の気を失いつつもなお気高く美しく。

 質素な衣服と胸の下で縛られたロープが、服の下で窮屈そうに張りつめた胸と驚くほど細い胴、そこからお尻へと続く魅惑的な曲線をくっきりと浮かび上がらせている。


 何よりも、長いまつ毛の影が彩る、大きな瞳が。

 恐怖と、不安と、それらを押し込める気高さと。色とりどりの煌めきを見せる瞳が――


「綺麗だ……」

「「え?」」



 思わず口をついて出た言葉に、鉄格子の向こうの女性と、横に居た男の両方から小さく疑問の声が漏れた。


 いやちょっと待て、オレは今何て言ったんだ?

 彼女を見た途端に、何も考えられなくなって。なんだか意識が飛んでいた気がする。


「おおぅ、お前生きてたのか。すごい勢いで叩きつけられてたのに、頑丈で良かったな?」


 生きてた?

 叩きつけられた?


 そう言えば、頭が痛い。後頭部がずきずきする。


「ボスに殴られて生きてただけで幸運だったんだ、おとなしくしとけよ。

 万が一にも手なんか出したら、今度こそ確実に首を飛ばされるぞー?」

「あ、ああ、すまん。何でもない、ちょっと寝ぼけてたみたいだ」

「気を付けてくれよなお前ー。

 さっきボスを怒らせたんだし、そうでなくても『記憶喪失』なんて面倒な事言われてんのによー」


……記憶喪失? 誰が?


 疑問に思って声の方、横を見ればオレに声を掛けてきた男が居る。

 ぼさぼさの頭に薄汚れた服、棒か何かを持ってあくびをかみ殺す、汚らしい男。


 同僚、と思った。

 なぜだろう、この汚い男が。こんな暗いところで、面倒くさそうに突っ立ってるだけの男が。

 オレの同僚である、と分かった。



 記憶喪失?

……誰が? オレが?

 いやいや、そんなまさかだろ。


 オレの名前は春山(はるやま) 悠斗(はると)。入社8年目のサラリーマンで、今年で三十になる。

 独身だし、彼女も居ない。気ままな一人暮らしを満喫しつつ、時々一人の部屋が寂しい時も……そんな事はどうでもいいです、はい。

 趣味はゲーム。根っからのオタク、ってほどじゃないつもりだけど、初恋の相手はゲームの、いやそれもどうでもいいな。聞かなかった事にして下さい。


 他にもつらつらと、家族の事や実家の事、会社の事や学生時代なんかを思い出しながら。


(──で、ここは、どこ?)


 改めて見回した今いる場所が、まるっきり分からない事に気づいてしまった。



 一言で言うなら、洞窟の中だろう。

 ごつごつした岩肌をくりぬいたトンネル状の場所で、壁にはいくつか松明が掛けられている。

 すぐ目の前には、鉄格子の扉。その向こうには、美しい女性が縛られて床に座り込んで居た。


……やっぱり、綺麗だ。

 見つめているだけで、何だかこう、何ともこう、言い表せないような、そわそわしてふわふわしてドキドキした気持ちになってくる。

 その女性がこちらを見つめ返してくれている事に、また心をざわつかせつつ。何とか根性で視線をそらして、きっと明後日の方向にあるに違いない『現実』というやつに目を向ける。


「記憶喪失、って……大変だなぁ」

「なんだよ、急に。盗賊なんかやってる自分の境遇が悲しくなったか?」

「盗賊……?

 い、いや、そういうわけじゃないんだけど、今の状況が、えっと」

「ああ、ぶん殴られて気絶してたから、ちょっと混乱してるのか?

 それとも記憶喪失だったから不安なのか、まぁそんなもんかもしれねぇなぁ」


 思わずぼやいた言葉に、同僚らしき盗賊の男が気さくに返してくれる。

 全くもって全然状況分かりません!というのが本音なんだが、そこまで言うのはまずいし何となく濁して合わせてみた。


「あ、ああ、そうなんだよ。

 今ここで、見張り?をしてるけど、その、これで役割あってるっけ、みたいな?」

「おうおう、なるほどなぁ。

 じゃあ少しおさらいしてやるから、なんか記憶が不安とかあったら聞けよ」


 おお、意外に親切じゃないか!

 盗賊は盗賊で、結構仲間意識とか強いのかもしれんなぁ。



 同僚が簡単に説明してくれた内容をまとめて、今の状況が大体わかった。ありがたい。

 まず、後ろの女性は、なんとこのフェイルアード王国の第一王女様だそうだ。名をミリリア、年は十八。胸のサイズは特大級とのこと。

……この話を聞いていた時、王女様が赤い顔をして身体をよじっていた。ロープで絞り出された胸がぐにゅりとたわんで、かえってえろいと思いました。


 視察やら魔獣やら魔獣やら、偶然に偶然が偶然して、護衛の騎士と共に王女様が徒歩で町へ向かっていたところをたまたま通りかかった我ら盗賊団が遭遇。

 捕まえて拠点に連れ帰ったら、王女だったことが発覚したそうだ。

 ボスは大歓喜、最も高く買ってくれる所へ売り込むべく準備を進めており、明日にもその結果が分かるらしい。

 そんな中で、大事な商品である王女様を劣悪な環境に捕らえておくことにオレが苦言を呈し、ボスに殴られ気を失っていたそうだ。


 拠点の牢屋ではあるが、今日も交代制で寝ずの見張りが立っている。

 今の時間は、口答えしたオレと同僚の二人が見張り中である。



 話を聞いているうちに、状況以外にも分かったことが2つあった。

 1つは、説明を聞いていても『それそれ知ってる頑張ったよねー』とかではなく、さっぱり記憶にない話だってこと。

 忘れたのか、そもそも最初から体験してないのか分からないけど。王女様をさらった辺りなど、完全に初耳だった。



 じゃあ全てがすべて知らない話なのかと言うと、そうではなくて。

 分かった事の2つ目は――


(つまりここは、ディバイン・セイバーのゲームの中──!)


 ディバイン・セイバー。

 5、6年前に発売されたゲームのタイトルだ。

 最初に選択できる二人の主人公が、12人+αのヒロインと仲良くなったり戦ったりして関係を深め、その力で最終的に魔王を倒す、というお話。

 ちなみにパッケージには、銀色に光る「18」と書かれた丸いシールが貼ってあったりしまして、ようするに子供はやっちゃ駄目(R-18)なゲームです。はい。


 当時はとても気に入って、随分とやり込んだなぁ。

 二人の主人公それぞれで、攻略可能な全ヒロインを攻略したり。

 あるいは一人も攻略しない縛りプレイ――をして魔王に勝てなくて挫折したり。


 ついでに思い出した。

 一昨日くらいに、ゲーム屋でちらっとポスターを見かけた気がする。ディバイン・セイバーのリメイク作品の発売予告を!


 原作ではメイデンと呼ばれるメインヒロイン全員を同時に救うことは出来ず、どうしても一部のヒロインは仲間にできない(取られるまたは行方知れずになる)んだけど。

 リメイクでは12人全員を攻略することが可能になったとかなんとか。チラ見なので内容は覚えてないが、確かそんなことが書いてあったはず。

 今更ながらに、ちゃんとポスターを見てなかった事が悔やまれる。

 もう、年齢制限ゲームのポスターをまじまじと見つめる年でもないしなぁ……とかかっこつけるんじゃなかった!


──ともあれ、顔の割に親切な盗賊(同僚)が教えてくれたおかげで。


(今この場所は、白の主人公のオープニング前ってことか!)


 オレは、今の状況についてようやく理解できたのだった。




 主人公の一人、白の勇者オスティン。

 フェイルアードの新人騎士は、不思議な啓示に導かれて純白の聖剣を手に入れる事で勇者としての力と使命を得る。

 魔王を討つべく聖剣の力を高めるため、女神の欠片を持つ12人の女性を探し、絆を紡ぎながら。

 心優しく、情に厚く、女性にはちょっと弱い。絵にかいたような好青年(主人公)の彼は、聖剣を手にまさしく王道のストーリーを歩む。


 その12人のメインヒロイン(メイデン)の一人目が、今後ろで縛られている王女ミリリアというわけだ。

 今は疲れたのか、粗末なベッドの上に座り目を閉じていた。


 壁に寄り掛かった同僚をちらりと確認してから、もう一度ミリリアを見つめる。

 煌めく瞳こそ瞼に隠されたものの、それでもやっぱりミリリアは今まで見た誰よりも美しくて。


 この後、彼女を待ち受ける運命(展開)を思うと、静かな怒りが沸いてきた。



 白の主人公が盗賊のアジトに到着するタイミング。

 その時点でミリリアは、盗賊のボスによって無理やり襲われ、酷い目にあわされた()なのだ。

 ゲームの主人公がどう足掻いても覆せない、シナリオの導入という名の、過去にもう終わった出来事。


――ゲームをしている時には、かわいそうだな、CGはえろいけどスキップしよ、とか考えてた。

 ストーリー上どうにもならないから、何も感じないようにしてた。


 オレにとっては大嫌いなイベントだけど、中には『襲われて泣き叫ぶ姿がすごくイイ』と褒めるプレイヤーも居た。

 ゲームなら、それでいい。人の趣味嗜好は自由だ、何を好んだってかまわない。


 ただし、許されるのはゲームの中だけだ。

 目の前に居るこの女性が、これから酷い目にあう。それを何もせず許す──というのは、どう考えても受け入れられそうになかった。



(ああ、そうか。

 オレは、あの『盗賊A』なんだな……)


 そこまで考えて、ふと自分の正体に気づいた。

 盗賊A。

 ディバイン・セイバーで盗賊Aと言えば、ネタと揶揄と敬意を込めて、ただ一人、ある特定の盗賊の事を指す。その名もなき盗賊こそが、今のオレなんだろう。


 盗賊Aは、ディバイン・セイバーの中で『誰よりも早く死ぬ奴』として有名だ。

 なんせ、主人公が盗賊のアジトに辿り着いた時点で、すでに死んでいる(・・・・・・・・)のだから。

 製作会社から公式な見解は出ていないが、姫様に手を出してボスの怒りに触れたんだろうと言うのが大半のプレイヤーの見解である。


 なるほど、今のオレの状況にふさわしい。

 そう思って、心の中でひっそりと笑った。


 なお、後日なぜか盗賊Aだけ死体が消失する現象がありバグじゃね?と言われた事もあわさってネタにされ続けた感はある。

 もちろん、オレ自身は死体になる気はないけどね!




 改めて、状況を整理しよう。

 王女であるミリリアは、盗賊に捕まって縛られて、牢屋の中に囚われている。

 ただし牢屋の鍵は近くの壁に掛けてあるから、もう一人の見張りさえ居なければ鍵を開けて牢屋から出す事は簡単だな。

 問題は、どうやって逃げ切るか……だ。


 オレは、盗賊A。

 ゲームじゃないので、ステータス画面を見る、なんて便利な事はできないっぽいんだが。

 自分が出来そうな事とかは、なんとなく感じられる。その曖昧な感覚を信じると――

・ 筋力は人並みか、ちょっとだけ強いかもしれない?

・ 人よりは手先が器用な気がする!

・ 足の速さもやや自信がある感じ

・ 魔力? 使い方が分からないので、あるのかどうか判断できない

・ 気配を探ることはなんかそれとなく出来そう

・ 短剣ならそれなりにうまく振ったり投げたりできると思う

・ 鍵開けとか罠解除とか、盗賊スキル……できる、と思うんだけど……できるといいなぁ


 これなら、盗賊って言っていい……よね?

 ゲーム的には、おそらく器用と敏捷が高く、『気配察知』等の盗賊系スキルと特殊武器(ナイフや刀、鞭などが分類される)の素質があるといったところか。

 敵としてゲームの時に戦った事がないから、実は超強いとかだったら良かったのになぁ……そんな事は無さそうですね。まあ仕方ない。


 持物は短剣2本とロープ、あとなんか服の下に見た事ない赤い腕輪をつけてたが、効果はさっぱり不明。その他、特別なものは無し!

 あるのは、かつてディバイン・セイバーをやり込んだ、そのゲーム知識だけということだ。



 同僚に見張りの交代時間を確認したら、早朝、日の出の頃と言われた。

 洞窟の奥からでは外の様子なんて全く分からないが、朝まではまだ長いとの言葉を今は信じよう。

 朝になれば交代が来るし、ひょっとすると明日にはもうミリリアは──酷い目に合うのかもしれない。

 やるなら、まだミリリアが不幸に襲われず、多くの盗賊が寝静まる、今しかチャンスはない。


――本当に、やるのか? 何のとりえもない、盗賊Aに過ぎないこの身で。

 ボスに殺される未来が待ち受けている盗賊Aなのに。ボスに逆らって王女様を逃がそうとするのか?

 盗賊Aとしての記憶も、この世界の知識も不確かなのに。ミリリアを連れて、他の盗賊の追撃を避け、逃げ切れるのか?


 そんな不安が、心の中でざわめくけれど。


 牢の中の、王女様(ミリリア)を見つめる。

 最初に見た時と同じ、心が沸き立つ気持ち。ざわめき、騒ぎ、でも不快じゃなくて、落ち着かなくて。

 それと同時に、彼女はミリリアで、かつて抱いた気持ちと、この後に待ち受ける展開(運命)思い出した(理解した)からこそ。


(やってやろうじゃねーか!)


 見て見ぬふりは、気づいて気づかぬふりは、もうできない。


 オレは名もなき盗賊A。

 ゲーム開始時点で、誰よりも先にもう死んでいる盗賊Aだけど。


 何を隠そう、ゲーマー春山はるやま 悠斗はるとは、ミリリアの大ファンなのだ。

 盗賊に襲われて絶望に染まった彼女の下に足しげく通い、ただひたすら花を愛でるように優しく接して!

 エロゲーなのに、エロシーンのないまま彼女を愛して守って絆を紡いだ、そうして魔王を倒した!

 魔王を倒してから、エンディング後の後日談でようやく本当の意味で彼女と結ばれて、その、何度もお世話(・・・)にもなりましたっ!!


 つまり、例えこのちっぽけな盗賊の命を賭けることになろうとも。

 盗賊A(春山悠斗)春山悠斗(盗賊A)であるからして、ミリリアは絶対に救い出す!

 彼女をあんな目に合わせはしない、あんな辛い顔で毎日を過ごさせたりなんかしない!!

 それが、ゲーマーの、ファンの矜持ってもんだ!


 一目ぼれした相手が、昔とても好きだった相手だって事に気づいちゃったら、もう止まれねーじゃん?

 彼女の一人も居ない三十路(みそじ)男がと笑ってしまうが、そんな自分は嫌いじゃないし、止めたくない。

 心の中で必死に自分を鼓舞して、逃げられない理由で縛りあげて自分の背中を突き飛ばす。


 それじゃぁチャレンジしてみますかね、白の主人公のシナリオ破壊に!




□―――――――――――――――□


【 盗賊によるミリリア姫の救出 】


   ~ クエスト 開始 ~


□―――――――――――――――□


本日は、新連載記念で4話(短編と同じ3話+新規1話)投稿します!


次話は15時頃予定です。お楽しみに☆

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