《幸運》覚醒!軈て奇跡は必然へ─
チュンチュンと、鳥が囀っている。
風は朝を歓迎し、太陽は目覚めの光を惜しみなく注ぐ。
風に誘われ香る花の匂いは、安らかな意識の覚醒を与えてくれる。
「うーん…」
俺はベッドから置き、窓から外を見上げる。
「うん、今日も清々しい朝だ。」
「ふざけやがって!サリーちゃんは俺の嫁だっつってんだろうが!昨日なんて手が触れ合ったんだぞ!」
「嘘をつくな嘘を!サリーちゃんは俺に惚れてんだ!昨日だって3回も目が合ったんだからな!」
「前言撤回。」
やがて下から重々しい殴り合いの音が聞こえた。
怖い。
…さて、現実逃避をやめよう。
俺の名前はレイン。《幸運》っていうスキルを持っている、そのまま運がいいだけの男だ。
冒険者ギルドの【黒豹の爪】に所属している、D級の冒険者だ。
エリオスというやつの率いているパーティに所属していたんだが…追放されてしまった。
追放されてすぐの時はめちゃくちゃに泣いたし、悔しかったし、悲しかった。
今後に対する不安や、エリオス達への怒り。
そして何より、2年間一緒に戦ってきたにも関わらずなんの躊躇いもなく切り捨てられたことへの悲しさで、小一時間ぐらい泣いてそのあと自暴自棄に当たり散らしながらこの宿屋の部屋に戻ってそのまま寝た。
しかし、睡眠の力は偉大だ。
意外なことにそうして1度寝ただけで、感情に整理がついてもう落ち着いてしまっている。
俺があのパーティに思った以上に愛着がなかったのか、それともまた別の理由か。
まぁとりあえず、変に冷静さをかくよりはいいだろう。
それより心配なのは今後の話だ。
何故俺がパーティを追放されたか。それは戦闘力の低さにある。
そう。危険なことを生業とする冒険者の癖に、弱いのだ。
元々、俺はダンジョンで宝箱から出るレアアイテムがどうしても必要だってことでエリオスたちのパーティに誘われた。
エリオスのスキルの《団結》の力で、仲間のうち1人のスキルを全体で共有できたってのもあると思うけど、それから割と早い段階でそのアイテムが出たもんで『こいつは本物だ!』と最初は結構持て囃されたんだ。
持て囃されたんだけど…最近はエリオスたちも運が必要ないほどに強くなったし、金払いが良くてその割に楽ないい感じの依頼もよく来るようになって、俺が出来ることが無くなってしまった。
だからこそ追放されたんだと思う。
…あれ。もしかして俺が追放されたのって割と妥当?
うーん…まぁいいか。
とりあえず、結果として俺は追放されてその報酬を分けられることが無くなってしまったのだ。
それこそが全てである。
そう。俺はこのままだと、貧困で野垂れ死に直行コースなのだ。
俺はレベルが上がっても大してステータスが上がらない上に、何か戦闘のサポートだったりの技術がある訳でもない。
寄生虫ってのは案外正しかったのかも。
とにかく。このままだとやばい。
俺は元々孤児院の出だから最悪親に寄生するという選択肢が無いし、何か他の仕事ができるほど教養にも技能にも優れている訳でもない。
《幸運》だって常に使える訳じゃなくて、発動している間はMPをゴリゴリ削られる。だから、運頼みで一か八かのギャンブルをするみたいなこともできない。
まぁMPを使わなくても、一応雀の涙位の効果はあるけど、それに期待するほど俺は馬鹿じゃない。
つまり、結局冒険者として金を稼ぐしかないのだ。
世知辛い世の中だぜ。
…とりあえず、現状は簡単な依頼を1からこなすしかない。
「…行くか、ギルド。」
俺はベッドを出た。
◎
気まずい。
昨日、どこで俺が追放されたのか。
それは冒険者ギルドの中である。
そう、俺の号泣している姿をバッチリと見られていたのだ。
精神を病むと。やさぐれてしまうと。そう思われたことだろう。
そんな奴が次の日にはケロッと蘇って平然と依頼を受けていたらどうする。
普通なら避ける。俺なら絶対距離置く。
なんか心に闇とか抱えてそうって思う。
…いや俺だけの感覚か?
まぁいい。とりあえず距離置くかは別として、好奇の目で見られるのは間違いないのだ。
俺はそんなの嫌だ。
よって、俺はまだギルドに入れずドアの前で立ちすくんでしまっている。
「どけ!邪魔だ!!」
「あだっ!?」
ドンッ!!と後ろから押され、前のめりに転びそうになる。
なんとか堪えたけど、後からじーんと痛みが襲ってきた。
痛え。
振り向くと、そこにはエリオスがいた。
後ろにはその仲間のイラヴェルとギースを連れている。
「てめぇ、何やってんだよ。まさかお前追放されたの忘れたのか?それともまだ俺のパーティにしがみつこうとしてんのか?あ??」
エリオスは強い眼でレインを睨む。だが、口元は歪んでる。レインを罵るのが楽しいからだ。
「そ、そんな…」
「そんな…なんだってんだ?あ?」
なんだかんだ怖いのでレインはビビりながら答えた。
「…そうだ、慈悲深い俺がてめぇにチャンスを与えてやるよ。」
「チャ、チャンス…?」
「俺たちは今からB級の豚鬼将軍を殺しに行くんだが…お前がやれ。」
「…え?」
豚鬼将軍。それはB級の冒険者がタイマンはって相打ち覚悟でギリギリ勝てるぐらいの魔物だ。
断じてD級のレインが戦えるレベルの魔物では無い。
それを単独で倒せ、と言うのは自殺しろと言うのと大して変わらない。
「まっ…まってくれよ、冗談だよな?そんなの…」
「は?」
ドンッ!
「ぐふぉっ!?」
「馴れ馴れしいんだよお前。立場わかってんのか?ありがとうございます、行ってきますだけ言ってとっとと行けや。」
腹を蹴られた。
胃の中のものが逆流してきて、吐瀉物が口から飛び出る。
「お"えぇぇ……!!」
「汚ねぇなぁ。ったく……ほら、早くいけよ。」
俺は涙目になりながらも、必死に首を振って拒否を示す。
すると、エリオスの表情が変わった。
「……てめぇ、いい加減にしとけよ。」
エリオスが近づいてきて、胸ぐらを掴む。
そしてそのまま持ち上げられた。
息ができない。苦しい。
でも、ここで言うことを聞いたら……本当に死ぬ。
俺は抵抗を続けた。
「こいつ……!このっ……!」
「……エリオス。埒が明かないわ。貸しなさい。」
仲間の一人がそう言ったことで、ようやくレインは解放された。
レインは地面に倒れ込み、激しく咳き込む。
…だが、埒が明かない。貸せ。その単語だけで、何かしらされることは分かる。
「う…うわぁぁっ!!」
レインは全力で逃げた。
…が。
「《拘束》」
その音が聞こえると同時に、レインの身体中に鉄の鎖が巻き付けられ、身動きが取れなくなった。
「うわ…うわぁあああああ!!!」
「早く死んできなさい。《強制移動》」
その声と同時に、レインの下に魔法陣が現れる。
そして、それはレインを何処かへと等速直線運動をして連れ去って行った。
◎
着いた先は、豚鬼将軍のいる豚鬼の巣の目の前であった。
道中、レインは助けてと繰り返し叫んでいたが、誰も来てはくれなかった。
レインのいた町は治安が良く、その町民は皆大したことではないだろうとほうっておいたのだ。
助けようとするものはいたが、レインの等速直線運動はかなり早く、会話すらできず通り過ぎてしまっていた。
ついでにレインの姿は変質者そのもので、基本的に避けられていた。
「グルルルル…」
「ぴぇっ」
見ると、目の前にはたくさんの豚鬼たちがいる。
目算100体以上いるだろうか。
彼らは大きめの肉がやってきたと、そう考えているのだろう。
豚鬼は、巨大で腹の出た体を持ち、顔が豚となった人間のような姿をしていた。
頭に1つ角が生えている。
「…こ、《幸運》…!」
レインは命懸けでスキルを発動する。
運が良くなるだけのスキルを。
「グルァッ!!」
「うわぁあぁあああ!!」
豚鬼たちがレインにパンチを放つ。
レインは身を捩ってそれを避ける。
だが、避けて安心する暇は無い。ひとつ避けても、またすぐに別の豚鬼の攻撃が襲ってくるのだ。
《幸運》の力で、運良く回避は出来ている。だが、豚鬼の等級はC。D級のレインにとって、その一体一体が格上の存在である。
いくら運が底上げされていても、勝てるような状況では無いのだ。
「ガァァアアアァアッ!!」
その時、一際大きな声が聞こえた。
見ると、そこには鎧を身にまとい、筋肉の唸っている豚鬼がいた。
…豚鬼将軍だ。
大きな声と同時に、豚鬼は動きを止める。
「…助けて、くれた?」
レインは救いが舞い降りたと、そう思った。
だが、それはすぐに否定される。
「ガッ、グル、グァ。」
「「「グルルルァッ!!!」」」
豚鬼将軍が何か声を発する。
それを聞いた豚鬼は声を上げ、レインを取り囲んだ。
(…あっ、終わった。)
見渡す限り、豚鬼、豚鬼、豚鬼。
逃げ場は無い。攻撃を回避するための隙間すら無い。
終わりだ。
「「「グラァァァァァァァァァァァアアアッ!!!」」」
豚鬼が一斉に雄叫びを上げ、襲ってくる。
「うわああああああああああああっ!!!!!」
レインは悲鳴を上げる。死にたくない。苦しいのは嫌だ。誰か助けて。エリオスとその仲間たち呪ってやる。
そんな考えが何度も頭を駆け巡る。しかし、それらは全て願望で終わる。
せめて拘束される前に、大人しくここに来れば、まだ身動きは取れた。何か変わったのではないか。
そうレインは思った。
しかし、現実は変わらない。
レインの目の前に豚鬼は迫っていた。
このまま死ぬだろう。誰もがそう思うだろうし、レインもほとんど諦めていた…が。
『経験値が一定に達しました。《幸運》がレベルアップします。…完了。現在の《幸運》のスキルレベルは10/10です。』
声が聞こえた。それは万人共通で聞こえる、スキルとステータスのレベルが上がった時に聞こえる声だ。
これは神の声だとか、内なる神獣の意思だとか、世界のシステムだとか色々な説があるが、その実態は不明だ。
とにかく、レインはそんなもの今上がったところで焼け石に水だと思った。
だが、それは次の言葉で否定される。
『《幸運》の器は満たされました。覚醒しますか?』
その声と同時に、目の前にはい、いいえと書かれたウィンドウが出現した。
「覚…醒……?」
その単語に馴染みは無い…が、それに賭けてみることにする。
どの道、このままでは死ぬのだから。
レインは「はい」と書かれたボタンを押した。
『承認されました。覚醒を行います。』
その声が聞こえると同時に、レインは白い光で包まれた。
(なん…!?)
声が出ない。体が熱い。体が根底から作り替えられる感覚がする。
だが、その全てが心地の良いものであった。
レインはその安らぎに身を委ね───やがて。
『覚醒は完了されました。《幸運》は《運命之剪定者》に進化しました。』
気づくと、豚鬼の拳がもう目の前であった。
だが、レインはそれを易々と避けた──いや、通り抜けた。
気づくと、レインを縛っていた鎖も外れている。
「グァッ!?」
覚醒した時点で、その使い方はよく分かった。
《運命之剪定者》。それは、自己や他者の運命…即ち未来を自由に決定するスキルだ。
それは、如何なる奇跡をも呼び込み、最良の未来を掴み取るスキルだ。
レインの前にはウィンドウが見えていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
レイン:今後の人生で、攻撃を受けること、拘束されることは無い。
豚鬼A:
豚鬼B:
豚鬼C:
…
ーーーーーーーーーーーーーー
《運命之剪定者》の効果は、近くにいる生物の名前が書かれたウィンドウを呼び出し、その名前の隣に何かを書き込むと、その通りに運命が決まるというものだ。
その運命は、絶対に覆らない。
「…よくもやってくれたな、クソ豚どもォ!!」
レインはそれを覚醒の直後に理解していた。
自らが最強の存在になったと気づいたのだ。
「さぁ…断罪の時だ!この俺に盾付き、あまつさえ傷をつけさせようとしたこと…あの世で後悔するがいい!!」
よって────レインは、調子に乗っていた。
「《運命之剪定者》!」
「「「グゴァァッ!!!」」」
その声に答えるように、豚鬼たちは一斉に盛大に血を吐いて倒れた。
「ガァッ!?」
唯一残された豚鬼将軍は目の前で起きた出来事が理解できず、混乱していた。
「只では済まさんぞ、お前はぁ!!」
レインはそう言うと、再び《運命之剪定者》と叫び豚鬼将軍の運命を決定した。
「ゴブッ!?」
豚鬼将軍は血を吐き、その場に膝をついた。だが、まだ生きている。
「できるだけ…苦しめ、このクソ豚野郎ォォォォオッ!!
ハーハッハッハッハッハァ!!」
その声と同時に豚鬼将軍の巣が倒壊し、彼は下敷きになった。
何故か、レインの上にあった天井だけはギリギリ残っている。
「グル…ッ!?」
何が起こっている、彼はそう思った。
彼は悲鳴を上げる体を起こし、レインを睨む。
ヒューン!
ズドン!
そこへ、突拍子もなく隕石が落ちてきて豚鬼将軍の腹を突き抜けた。
しかし、重要な内蔵は生き残っており、豚鬼将軍は生きながらえてしまう。
訳が分からない。どうしてこうも偶然が重なる。
そう思った。
「グル…ゥ…」
彼は後悔した。とっととあの人間を逃がせば良かった、と。
しかし、もう遅い。
苦しい。早く解放してくれ。
そう心から願った。
時間が経てば死ぬ。それは分かっているが、いつになる。早くしてくれ。
だが、早死なんて楽はレインが許さない。
想像を絶するほど苦しませ、あらゆる屈辱を与え、恨みを買い占め、それでもなお何も出来ぬまま、豚鬼将軍は死んだ。
レインはサイコパスの素質があるのかもしれない。
◎
「ふぅ…」
俺は息をついた。
《運命之剪定者》は消費MPが《幸運》よりかは少けど、流石に豚鬼将軍を虐めることに使いすぎて結構なMPを消費したのだ。
「疲れた…けどすげぇな、《運命之剪定者》。」
俺はそう呟いた。あの豚鬼将軍をこうも簡単に討伐できてしまうとは。
そう考えていると、声が聞こえた。
『経験値が一定に達しました。ステータスレベルが上がります。…完了。現在のレベルは16です。』
「16…16か。…16!?」
俺は驚いた。
なぜなら、それまでの俺のレベルは12だったからだ。一度にレベルが4つも上がるなんて、普通ありえない。
多くの豚鬼に加え豚鬼将軍も討伐したため、多くの経験値を得たのは理解できるが…信じられない。
「…もしかして、エリオスの《団結》での経験値共有って、思った以上に効率悪かったのか…?」
俺は考える。
…考えれば考えるほど、自分が追放されたことの妥当性が見えてきて嫌になる。
「…うん。とりあえず、ステータス見てみるか。」
レインはそう呟くと、『ステータス』と口にした。
すると、目の前にウィンドウが現れた。
ーーーーーーーーーーーー
名:レイン
性:男
種:人間
Lv:16
HP:12/51
MP:4/62
筋力:48
魔力:32
防御力:30
<スキル>
《運命之剪定者》
ーーーーーーーーーーーー
「…分かってたけど酷いな。レベル3だった時のエリオスと同じくらいの数字だぞこれ…。レベル16のステータスか?これが…」
レインは落胆した。
「まぁ、《運命之剪定者》があるしいいか。」
そして立ち直った。
「さて。どうしよう。」
レインは豚鬼将軍の死体を見て呟く。
「豚鬼将軍なんて討伐すること一生無いと思ってたからなぁ…討伐したぞ!って証明するのにどの部位を持っていきゃいいのか分からん。」
そもそも、解体の仕方すら知らない。
「適当に持って行くしかないよなぁ……うわぁ!気持ち悪ぃ!」
よく見ると、死体には既に蝿がたかっていた。
「……よし。」
少し悩んだ後、俺は豚鬼将軍の角を持っていくことにした。
「まぁこれでいいだろ。」
そう言うと、レインはその場を後にした。
◎
「あぁ〜……やっと着いたぜ……!」
俺は森を抜けて、街についた。
空は茜色に染まっていた。
「まずはギルドに行って依頼達成の報告をして……そうだ。ついでに、あの角が売れないか素材買収所に打診しよう。……それから、宿を探して荷物を置いたら……買い物に行くか!今日は美味いもん食うぞ!」
これからやるべきことを頭の中で整理しながら歩いているうちに、冒険者ギルドに到着した。
「……ふぅ」
深呼吸をする。
「大丈夫。落ち着け、俺。」
受付嬢さんに会うだけだ。何も怖がることは無いだろう。
向こうだって仕事なんだ。気まずさを感じる必要は無い。
「よしっ」
意を決して、扉を開ける。
ギィッ……
「……」
「「「「「……」」」」」
沈黙。
「こ、こんばんは。」
耐えきれなくなって、先に挨拶をした。
「……あっ!はい!こんばんは!本日はどのようなご用件でしょうか?」
空いている受付の受付嬢さんはハッとした表情になり、慌てて笑顔を作った。
俺はそこに向かった。
「えっと……あの、その……」
「?」
「……お、豚鬼将軍の討伐をしましたので、報告しに来たんですけど。」
「…はい。……はい!?」
受付嬢さんは一瞬ポカンとしたが、すぐに大きな声で聞き返してきた。
「ほ、本当に……!?」
「は、はい。一応、角取ってきたんすけど…」
俺は豚鬼将軍の角を差し出す。
「…少々お待ちください!」
彼女はそう言い残すと、奥の方へ走って行った。
「おい、レイン。」
後ろから声が聞こえた。
「……えっと…?」
後ろにいたのは…うろ覚えだが、確かB級のポットモルフ・ドゥノーズという同業者だった気がする。
かなりデカい図体をしているが、ギースと比べ筋肉質で健康的だ。
「悪ぃことは言わねぇ。嘘はやめとけ。確かに最近のエリオスたちは調子に…少し乗りすぎている所はあったが、お前がアイツらに対して見栄張ることぁねぇよ。
豚鬼将軍っつーと俺と同じB級だよな?D級のお前が五体満足で帰ってこれただけですげぇよ。
それに、虚偽の申告はペナルティもあるんだぜ?ここは正直に話しておいた方が得策だと思うぞ。」
「いや、嘘じゃないです。」
「……そうか。ならいいんだけどよ。忠告はしたからな。なんか悩んでたら言えよ?冒険者が死ぬなんてのはよくある話だが…流石にお前に関しちゃわりと皆味方だからな?」
そう言うと、彼は元々座っていた席に戻って行った。
報酬を受け取った仲間と共にその配分を決め合っている。
そんな様子を見ていたら、さっきの受付嬢が戻ってきた。
「お待たせ致しました!こちらが今回のクエストの報酬です!」
その声と同時に、周囲がどよめいた。
目の前に置かれた袋には10枚の金貨が入っていた。
リンゴに換算すると7000個ぐらい買える額だ。
「おぉ……」
思わず声が出る。
「…いや、よくよく考えたらおかしいな?元々豚鬼将軍倒すのってエリオスたちだった筈では…なんで俺が貰えるんだ?」
「あれ、そこ聞いてないんです?そもそもあの依頼は個人パーティ問わずとりあえず豚鬼将軍を倒してくれ、という依頼ですし、特にこの依頼を受けるという申し出が受理されていなかったので、この報酬を受け取る正当な権利は貴方にあるのですよ。
なぜかエリオス様たちのこの依頼を受ける、という申し出の受理が遅れていたので、この依頼自体は誰でも報酬を受けれるフリーな状態に偶然にもあった訳です。」
受付嬢さんが説明する。
「な、なるほど。」
「…しかし、どうやって豚鬼将軍を討伐したのですか?失礼ですが、レイン様にはその実力が無いと思ったのですが…」
受付嬢さんは疑問をぶつけてきた。
「あぁ…うーん…言っていいのかな、これ。」
俺は悩んだ。スキルの覚醒なんて聞いたことは無いし、少なくともめちゃくちゃ珍しい現象なのは間違いないのだ。
ここでその事を打ち明けたら、なにか変なことに巻き込まれそうな臭いがしないでもない。
「……企業秘密ってことにさせてくれませんかね?」
「…そうですか、わかりました。それでは、また何かあればギルドにお越し下さいね。」
「はい。ありがとうございました。」
そう答えると、俺はギルドを出た。
剪定…庭を整えたりすること。
《運命之剪定者》っていうのは意味として間違った使い方ですね。
まぁ雰囲気で単語選んだししゃーなし。
皆は間違った覚え方をしないように!