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魔族の将軍に捧げられた人間の少女のお話  作者: るいす
四章 少女、領地を視察する
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08.シヴ


 天空(エーテル)のビューレイストは、シヴから見ても魔族らしい男だった。

 前の魔王の息子であり、将軍のなかでも弟のロキ、現在の魔王の息子でもあるバルドルとならぶ将軍としては有数の強い魔族であり、100年前に前の魔王が死んだときには次の魔王候補に挙げられていたこともある。だが、彼には大きな欠点があった。

 彼は魔族はおろか、他人、つまり自分以外の他の生きものに興味がないのだ。いや、自分にも生存以上の興味はないのかも知れない。

ひとまず何にも興味がないというのが彼だった。

 食欲と性欲にこだわりがあり、他への感情の起伏が乏しいのが魔族だ。多少の自己中心的な態度も、他人への無関心も、純血の魔族ならある程度は許容される。だが、ビューレイストの他者に対する「無関心」は常軌を逸していた。

 千年間、安定した将軍としての地位を得て数百年。食欲についても百年に一度ほど莫大な魔力を持つ生きものを喰うだけで、極力争いを避け、表に出てこない。性欲などあるのだろうか。彼は妃はおろか、いかなる恋人も愛人もいない。自分以外の生きものと寄り添うことがない。


 シヴからしてみれば、ビューレイストという男は、本当に「つまらない男」だった。

 魔力の大きな生きものを食すること、そして体の大きな男への性欲、それらをはたすのが純血の魔族であるシヴの人生の楽しみだ。だから同じ将軍職にあるトールの妃とされつつも、シヴはこうしてたまにクレーレンのような別の男たちのもとを訪う。

 そんな比較的享楽的な生活をするシヴにとって、同じ純血の魔族とはいえ、誰とも関わらず淡泊なビューレイストは理解不能な生きものだった。

 だから百年前、彼が人間と暮らし始めて「エトヴァス」と呼ばれていると聞いた時は単純に聞き間違いだと思ったし、半年ほど前に要塞都市のクイクルムの結界を破壊し、動力源だった莫大な魔力を持つ人間を得て、その人間を飼い始めたと聞いた時は魔族の単なる噂話だと思った。

 だから将軍会議に行った夫のトールが、ビューレイストが小さな人間の少女を連れてきた言ったとき、驚愕した。千年間、生きものに何の興味も示さなかった男が、人間の少女を連れているなど信じられるはずがなかった。

 だが、実際に見るとわかる。面白い。面白いのだ。

 はじめてシヴがアリスを見たときの感想は大人しそうな子だった。莫大な魔力と珍しい紫色の瞳以外、別段特筆すべきところはない。よく彼の指示をうかがう従順な少女だ。最初は彼に怯えているのかとも思っていたが、そうではない。

 少女は無邪気にビューレイストを信頼している。信じたいと思っている。少女が血肉を奪う捕食者を信じようとしている姿は、酷く滑稽でおかしかった。だが、それだけではなかった。


「馬鹿な子」


 クレールングはシヴの娘ではない。クレーレンの前妻の娘だ。ただ彼女は恐らくアリスへの対抗意識だけでアリスにビューレイストのためなら何でも出来るなどと口にした。ましてや彼がクレールングを殺そうとしたことから見て、アリスに害をなすいらないことをアリスに吹き込んだに違いない。

 だが、アリスはもともと彼の食糧だ。

 人間は魔族と異なり奪われた血肉が魔力で再生すると言うことはない。魔術で痕こそ治されているが、毎日その血肉を奪われているはずだ。そのアリスに、なんでもできるなどという発言を一体どんな基準で口にしたのか、シヴからしてみれば笑いたくなるほど愚かだった。

 それが、自分の食糧に手を出したと判断され、彼の逆鱗に触れた。


『でも、手がはえてくるならあげてもいいよ』

 

 アリスはあのとき、ビューレイストがクレールングを殺そうとしているのを知っていた。そして彼はアリスにはさとられず、魔術か何かをもってクレールングを殺してしまうことで、アリス以外の全員を牽制しようとしていた。

 上位の魔族の食糧に触れれば、殺されても仕方がない。ましてや妃とされるほど執着されている少女だ。それが些細な手の触れ方だったとしても、害意があからさまであれば、殺されても文句は言えない。一種の見せしめだ。固定の食糧も妃も持たなかった彼にとって、はじめての牽制でもある。

 そもそも純血の魔族の食欲、性欲に対するこだわりは異常だ。

 実際にビューレイストの弟は自分の妃が死んだとき、領内の魔族を皆殺しにしたし、半血のくせに今の魔王のオーディンは、自分の妃を傷つけた魔族を族滅した。そういう牽制の仕方は上位の魔族、とくに男の魔族がよくとる方法だった。

 ただしアリスはそれに反対だったのだろう。実際、女の魔族もあまりそうした過激な方法をとらない。女という性は、人間であれ魔族であれ男よりはいささか穏やかだ。

 あの男に対して直接的に殺すなと声高に否定することは簡単だが、そうしたそぶりを見せれば聡明なビューレイストはアリスとの争いごとを避け、彼女の知らないところでクレールングを始末したはずだ。それでも誰が殺したかなどあきらかにわかるので、牽制にはなっただろう。

 だから彼女はビューレイストに、クレールングの発言は殺すほどたいしたことではないと思わせようとした。


「思っているよりもずっと、賢い子ねぇ」


 シヴは、ゆっくりとアリスの前に膝をつく。

 突然部屋にやってきたシヴに、アリスはその珍しい紫色の瞳をぱちくりさせたが、すぐにタオルの傍にあった緑の宝石のついたブローチを掴み、次にその紫色の瞳がすいっと後ろの浴室へと動かした。

 ブローチは恐らく魔術を使うための杖、後ろの浴室にビューレイストがいるのだろう。

 シヴの魔力を冷静に測ってきているのだ。今のアリスは上位の魔族たちと同程度、ビューレイストとまったく同じくらいの魔力を有しているように見えるが、恐らくそれもごまかしだろう。

 ビューレイストがこだわるくらいだ。その魔力量はシヴの二千年におよぶ生のなかでも有数のもののはずだ。魔力というのは大きければ大きいほど制御が難しい。それにもかかわらず、この少女はそれを狂いなく制御してきている。要するにこの少女は恐ろしいほど魔力制御に長けている。

 

「大丈夫、襲ったりはしないわ、でも本当に美味しそうね」


 シヴがそっと頬に手を伸ばすと警戒の眼差しではあるが、彼女は動こうとしなかった。

 触ってみると、頬はやはり白くてふっくらしていて、驚くほど柔らかい。健康的な肌は風呂上がりのせいかしっとりと濡れていた。というか、まだ長い亜麻色の髪から水滴が落ちてきている。

 ただ別に濡れているからと言って、シヴがアリスの身体構造を確認するのに問題はない。濡れた寝間着は薄く、邪魔にはならない。細い首に触れ、そこから下へと関節や骨を順番に確認していく。首元から肩を触って、小さな、柔らかい子供らしい手にうつる。だが手首の関節は緩く、適度に肉のついた腕は筋肉量が少ないため、逆に柔らかい。

 シヴは順番に足下まで骨や関節の様子を確認してから、ぽたりと上から水滴が落ちてきたのに気づいた。アリスがその珍しい紫色の瞳で、不思議そうにシヴをのぞきこんでいる。それにより亜麻色の髪からぽたぽたと水滴が落ちてきているのだ。

 

「そんなに拭かなくて、良いの?」


 子供を諫めるように笑顔で尋ねると、アリスの表情が凍る。

 そりゃそうだ。亜麻色の髪から落ちる水滴で、風呂上がりに着替えた寝間着の首元はびしょびしょに濡れている。

 アリスは小さい手でタオルをひっつかむと、長い亜麻色の髪を適当にタオルに包んで拭く。だが適当にふくとぽいっとタオルを放り出した。そういうことをするから、髪から水滴が落ちて服が濡れるのだろう。ただそれはまだ10歳のアリスが悪いのではない。

 子供が二人いるシヴからしてみれば、そもそも小さな子供を風呂上がりに放っておく方が悪いのだ。


「シヴ」


 シャワーを浴びてきたのか、肩にタオルを置いたままのビューレイストが出てくる。彼はシヴがいることがわかっていたのか、驚いた様子もない。だが、出てきたばかりの彼の明るい金髪の方が、アリスの髪よりもずっと綺麗に拭かれていた。

 彼はその翡翠の瞳がアリスの方へと向けた途端、眉を寄せる。

 

「おまえ、また」


 アリスは逃げようとしたが、大の大人に勝てるはずもなくすぐに捕まった。そのままアリスは彼の手によってタオルで髪を拭かれ、魔術であっさりと乾かされていく。


「風呂上がりの子供をほうっておくほうが悪いのよ。日頃しないからそういうことになるんじゃない?」


 図星だっただろうが、ビューレイストはシヴに視線ひとつ向けなかった。いつもどおりの無表情、仏頂面だ。

 日頃はアリスの世話をする魔族かそれに類する種族を彼女につけているのだろう。アリスに噛みつく可能性と彼の慎重な性格を加味するなら魔族以外の種族だ。ただ世話役は間違いなく、彼女を丁重に扱っている。アリスの肌も髪も非常に状態が良い。特に髪は長く細いのになめらかだ。大切にされているのだろう。

 ただし、それは「今は」という但し書きがつくものだ。


「アリス、ソファーに座れ。冷えても困る」

 

 ビューレイストはアリスをソファーに座らせ、毛布で体をくるむ。

 今まで誰にも興味がない男だったというのに、随分とまめまめしい気遣いができるものだとシヴは心の中で感動する。もうそろそろ秋も深まり、寒い時期だ。人間はすぐに寒ければ風邪を引くので、当然の判断だろう。ただ毛布にくるまれると風呂で温まっていたこともあり、アリスはすぐに彼にもたれてうとうとしはじめた。

 シヴは向かいのソファーに座り、小さな少女が寝息を漏らす頃にやっと口を開いた。


「健康そのもの。10歳という年齢の割に少し小柄だけど、良い感じだわ」


 アリスはシヴが触れる限り内臓などは健康そのもので、太りすぎてはいないが適度な肉もついている。

 ビューレイストがアリスを手に入れたのは初春だから、少女を飼いはじめて半年以上はたっている。魔族と人間の生態はまったく異なるが、ビューレイストは概ねこの少女を上手く飼っているようだった。ただ問題がないわけではない。


「・・・その子、バランス感覚悪いんじゃない?」

「あぁ。椅子の上にバランスを取って立てない程度には」


 アリスはソファーの上で、エトヴァスの膝にもたれかかるようにして眠っている。

 彼女は十歳前後、椅子の上程度なら本来であればバランスがとれて当然の年齢だ。それにもかかわらず、彼が見てもわかるほどバランス感覚が悪い。細かく見ていけばもっと運動能力への問題があるだろう。

 

「・・・人間の体を触ったことも多いけど、その子の筋力は誰よりも弱い」


 シヴは腕を組んで、触った感触をビューレイストに伝える。

 別にシヴは、久々に愛人に会いに来たというわけではない。今度ビューレイストは要塞都市のクイクルムを攻略する。そのなかで比較的大きな魔力を持つ騎士団の人間をひとり食糧としてもらうかわりに、彼からアリスの身体を見るように言われていた。

 彼は人間と暮らしたことがある。しかも十年暮らしていれば、十歳くらいの子供がどの程度だったかの知識くらいはあったはずだ。恐らく彼はこの少女の体調や身体構造が他の人間と少し異なることに懸念があるのだろう。

 シヴは医学の知識が豊富で、身体構造に関しては他種属問わず専門的に知っているし、どの程度鍛えているのか、少し触るだけですべてわかる。オーディン、ヘルブリンディの人間の妃が妊娠中に診察したこともあった。

 

「その子、長い間、狭い場所で閉じ込められてたんじゃない?・・・寝たきりじゃないかしら」


 アリスが要塞都市クイクルムの対魔族結界の動力源であったことは、魔族の間では既に知られている。だが動力源がどういった扱いを受けていたかは、魔族側は知らない。ただアリスの体に触れたシヴにはわかった。


「さすが、魔族に捧げてくるだけあるわ」

 

 人間たちは結界の動力源として使っていたアリスを、結界がビューレイストに破られると同時に魔族に差し出し、休戦を願った。莫大な魔力を持つアリスは、本来であれば人間にとっても価値のある存在だが、魔族に捧げる程度にアリスはまったく大事にされていなかったと言うことになる。


「若くて血流が良かったから少ないけど、腰の下に褥瘡の痕もある。ほぼ寝かされていたはずよ」


 褥瘡とは床ずれのことだ。長く寝かせていれば、どんなに良いクッションのマットを使っていたとしても、そこの血流が悪くなり、炎症を起こす。

 アリスにはあちこちにそれのなおった形跡があった。

 

「・・・貴方のところに来たとき、その子立てなかったんじゃないの」


 彼が結界を破り、アリスが差し出されてから半年、幼いから回復は早いだろうが、シヴは生きものの身体構造の専門家だ。彼女の体に触っただけで、過去にどの程度酷い状態だったかもわかる。


「声帯もでしょ。まともな声は出なかったはず。今でも肺活量ないから、大きな声は出せないんじゃないかしら」

「・・・どういう状態だったのか、想定できるか?」

「こんな莫大な魔力を持つ子だもの。魔術で寝かしつけたんでしょう。大分小さい頃からね」


 アリスは見た目から十歳前後だろうが、結界をひとりで動かしていたくらいだから、よほど莫大な魔力を持っている。そんな子供が本気で暴れ出したら、とどめる方法などない。抵抗の手段のない幼い時期に魔術で眠らせたのだ。恐らく、五歳前後だろう。

 そのまま魔族に差し出されるまで、息をするだけで良かったはずだ。


「アリスの記憶には四歳の誕生日はあるそうだ」

「親がいたの?」

「あぁ。父親はいなくなって、母親が幽閉された部屋にこいつを置いていったそうだ」


 魔族はたいした子育てをしない。混血がすすんだ今でも、人間に比べればまぁそれなりに、だ。

 シヴもふたり子供がいる。もちろん子供を外敵からは守るが、細かいことまではしない。だが、だからといってわざわざ他人のために動力源に娘をしようとは絶対思わない。

 ビューレイストが対魔族結界を破らず魔族に差し出されなければ、アリスはそのまま百年近い時をそこで眠ったまま過ごし、年を取り、死んでいっただろう。多くの命を救うかも知れないが、彼女が彼女個人として生きることは永遠になかったはずだ。


「・・・あんた、要塞都市のクイクルムを攻略するそうね」


 その話は、将軍会議に参加しなかったシヴも聞いている。


「あんまりにアリスが夜に魘されるんでな。滅ぼして交易都市にしようかと」


 あっさり主目的がアリスにあると言ってくるのが、彼らしい。

 彼はなにものにも興味がないが、昔から博識で、領地経営もうまい。将軍の領地のなかで彼の領地はバルドルの領地と競うほど豊かだ。クイクルムは人間の支配領域との狭間にあるので、のちのちはそういうことも考えているのかも知れない。

 

「うなされるの?」

「あぁ、きっとまた一時間もしないうちに起きる」

「人間は感情的な生きものだから、きっと恐怖は乗り越えがたい感情なのね。オーディンの妃もいつも泣いていたわ」


 シヴたち魔族は感情の起伏に乏しいが、人間は違う。

 今の魔王であるオーディンの妃も一時、人間だった時期がある。彼女もよく恐怖や不安を訴えて泣いていた。シヴたちにもむなしさや退屈はある。だが、死を前にしない限り、恐怖や不安で心が揺らぐことはめったにない。


「まぁ要塞都市を滅ぼして眠れるようになるなら良いわね。人間って長く眠る生きものらしいから、健康に良くないわ」


 シヴは興味がないので、そう言った。

 魔族であれ人間であれ、成長期に必要なのは適切な栄養と睡眠だ。ソファーで彼に身を寄せ毛布にくるまるアリスは穏やかな寝息を立てていて、その片鱗はない。だがきっと相当な寂しさや苦しみのなかで生きてきたはずだ。それでも昼間笑っているアリスに、その片鱗はなかった。

 

「・・・親は人間らしい親だったのね」

「?」

「人間の性格はね、三歳までの自己肯定感で決まるって言うのよ」


 アリスはどうみてもおっとりしており、穏やかだ。あまり捻くれたところがない。それは馬鹿なことを言って殺されかけたクレールングを助けたことにも現れている。アリスの経歴は悲壮なのに、彼女に悲壮感がないのはよく笑い、素直だからだ。

 きっと親に愛されていたのだろう。


「・・・だが母親が置いていったんだぞ?」


 ビューレイストは理解できないとでも言うように首を傾げる。


「なら父親がまともだったんでしょうよ。母親も、父親がいるうちはまともだったんでしょうね」


 シヴが言うと、彼にも思い当たる節があったらしい。


「そう言えば、父親がしてくれたから、背中をぽんぽんしてほしいと言われたな」


 彼はよくアリスの背中を叩いている。

 どうやらそれはアリスに言われたらしい。それをそのままやっているのだろう。本当に純血の魔族の男というのはろくなやつがいない。純血の魔族のシヴでも嫌気がさすのだから、混血が進むわけである。


「どちらにしてもこういうことに近道はないわ。適度な運動をさせて、よく食べ、よく寝かせることよ」

「結論は変わらないのか」


 明らかに興味を失ったように彼は言う。無駄足だったとでも思っているのかも知れない。だが注意点はいくつかあった。


「・・・ひとまず、あまり無理はさせないように気をつけて。あの子は多分、まだ自分が何ができるのか、体の使い方がよくわかっていないわ。おとなしい子だからむちゃくちゃはしないとは思うけど、子供だからくれぐれもテンションを上げさせないことよ。怪我とか骨折に気づかなくなるわ」

「気づかない?」

「人間ってテンションが上がったりすると、自分の限界が理解できなくなるの。子供ならよくあるわ。気をつけなさい」


 人間は感情的な生きものだ。そのせいで自分の体の限界を理解できないと言うことは、よくある。特に子供はその傾向が顕著だし、アリスは自分の体を使うことに恐らく慣れていない。だから危なくてもやってしまうこともあるだろう。

 シヴはゆったりと、鷹揚に話す。彼はというと黙り込んでなにかを考えているようだった。


「あとこっちを巻き込まないでよ」


 シヴもまたビューレイストと同じ感情の起伏に乏しい魔族だ。だからこそいつも考えるのは、自分の利益だけだ。

 ビューレイストは興味がないのか、シヴに視線も向けない。


「・・・せいぜい大事になさい」

 

 シヴは深くため息をつく。

 ビューレイストは千歳を越す魔族だが、シヴは二千歳を超す、将軍のなかでも比較的古参の魔族だ。だからこそ、人生とはどういうものか、彼よりはわかっていると自負している。

 彼は今まで魔族も人間も含めて、生きものとまともに付き合ったことがない。その彼が、100年足らずの時間をこの少女と歩むのだ。この少女から得るものはきっと多いはずだ。情も喪失も、すべて人生の糧。食糧だけが糧ではない。

 そしてきっとその意味が純血の魔族には理解できないことも、シヴは嫌というほどよく知っていた。


シヴは細かいことは気にしない、肝っ玉おばちゃん

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