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魔族の将軍に捧げられた人間の少女のお話  作者: るいす
十六章 少女、千年を遡る(後編)
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06.ビューレイスト


 ビューレイストが広間に入ると既に上座に二つの席が用意されており、既に席が埋められている。将軍であるオーディンと、同じく将軍であるラウフェイだ。

 オーディンは右手に青銅色の槍を持ち、足を組んで座っている。明らかに不機嫌そうで細い銀色の眉はよっていて、目尻はつり上がっている。もともとつり目気味なので、より一層人相が悪く見える。オーディンの左横には珍しく部屋から出てきたのか人間の妃フリカが控えていた。

 ラウフェイはというと興味なさげにオーディンの隣の席に腰を下ろしており、肘掛けに頬杖をついている。ただ、アリスを膝に乗せており、片手はアリスの小さな背中を撫でていた。それは情というより手持ち無沙汰なのだろう。

 アリスは先に広間に入ったが相当怖かったらしく、ビューレイストの姿を認めるとすぐにラウフェイの膝を降りてビューレイストのもとに駆け寄って抱きついてきた。

 

「アリス」

「・・・」


 アリスの小さな体はあからさまに震えていて、怯えきっている。だが、無理もないだろう。

 広間にはオーディンやラウフェイの部下たちが居並んでいて、上座にいるオーディンとラウフェイを見ていた。集まった魔族たちの目は変な熱気を帯びていて、その視線を集めるふたりの傍にいたアリスが怖がっても仕方がないだろう。


「可哀想に」


 バルドルがビューレイストに抱きついているアリスの頭を宥めるように撫でる。ビューレイストもアリスの体を強く抱きしめた。

 だが、オーディンはアリスの様子など欠片も気にしない。


「遅かったな。バルドル、ビューレイスト」


 にいっと笑うオーディンの緋色の眼は、笑っていない。

 ビューレイストはそれですぐにこの場がどういう場所なのか気づき、ちらりと母親のラウフェイをうかがう。席に着いているラウフェイは紺碧の瞳でアリスの様子を確認するとため息をつき、顎でビューレイストに下がるよう示した。


「・・・わかってるな」


 ラウフェイはビューレイストにぼそりとそう言った。必要があればアリスの目を塞げということだろう。ラウフェイはきちんとアリスの身の安全や精神状態に気を配っている。

 ビューレイストはちらと、オーディンの隣に立つフリカを見た。

 彼女は覚悟は決まっているのか、なくなった腕を片手で撫でながらまっすぐ居並ぶ魔族たちを見ている。だが、顔色は卒倒しそうなほど青白い。

 オーディンはなにも見ていない。

 ビューレイストはバルドルとも顔を見合わせ、アリスを腕に抱いたままラウフェイの椅子の斜め右後ろに下がった。


「役者はそろったな」


 オーディンが笑えば、わぁっと広間の魔族たちが呼応する。不可思議な熱狂と怒号に、アリスがますます怯えた目をそちらに向け、ビューレイストに強く抱きついてくる。

 だが、これから広間で繰り広げられるのは、魔族にとってありきたりな光景だった。

 

「入れろ」


 オーディンの声とともに引き立てられてきたのは、ヨルズと何人かの魔族たちだった。

 最後に見たとき、ヨルズはその女性としてはかなり大柄な百八十センチ近い体躯と堂々とした立ち姿でビューレイストたちを威圧していた。だが、特殊な魔導具であろう手かせと足かせをされ、狭い結界の中で膝をつかされた姿は、かつての威圧感は見る影もなかった。

 アリスが襲われたときのことを思い出したのか、ひっと小さな悲鳴を上げ、ビューレイストにしがみついてくる。それを感じ、ビューレイストはアリスの背中を強く撫でて宥めた。だが震えは止まらない。


「さて、」


 オーディンが槍を持ったまま静かに立ち上がる。


「おまえは俺の妃と息子を殺そうとした。なにか申し開きはあるか?」


 尋ねるとヨルズははっと笑った。


「弱いものを殺そうとして、なにが悪い」


 ヨルズは悪びれる様子もなく淡々とそれを口にする。だが、すぐにアリスの姿を見つけたのだろう。


「その小娘、貴様さえいなければっ」


 口惜しげに歯をむき出しにし、アリスをその若草色の瞳でにらみつけた。鎖につながれているとはいえ、将軍だ。莫大な魔力の圧とともに向けられる殺意、そして振り乱した赤色の髪がますますヨルズの表情に険しさを添えたが、ビューレイストはなんとも思わない。

 だがアリスがビューレイストに抱きつく腕の力は強くなる。


「大丈夫だよ。アリス」

 

 ヨルズの視線を遮るように、バルドルが前に出た。ビューレイストはアリスの体を強く抱きしめ、アリスの頭を自分の肩に押しつける。

 アリスはフリカとバルドルが襲われた夜、確かにヨルズに相対した。そしてふたりを救った。それに必死だっただろうが、決して恐怖がなかったわけではない。アリスは人間だ。恐怖を押し殺していただけで、ヨルズに対する恐怖はあまりに大きい。

 実際に同じく人間のフリカもまた表情を歪めていた。

 だがオーディンは妃を振り返らない。ただヨルズを見据え、自分の食糧であり、性欲の対象であり、妃でもある女に手を出した敵を断罪する。断罪するためにこの場を用意した。


「あぁ、先に紹介しなきゃなんねぇな」


 オーディンは今思い出したとでも言うように、嘲笑うかのように青銅の槍を回し、アリスに視線を向ける。ビューレイストの腕の中で小さくなっているアリスは、気づかない。


「アリス、魔力制御を外せ」


 オーディンが鋭く命じる。それにアリスがびくんっと肩を震わせた。


「え?」


 アリスはわけがわからないのか、戸惑っているようだった。だが、ビューレイストはオーディンの意図をすぐに察した。

 アリスは今、莫大な魔力を持つ生きものを美味に感じる魔族の本能を刺激しないために、魔力を制御して魔力をゼロに見せている。日頃はキュゲスの指輪で姿を消しているので、それで問題ないが、オーディンはこの場で居並ぶオーディンやラウフェイの部下たちに、アリスを養女として紹介してしまうつもりらしい。

 

「アリス、」

「で、でも、」


 アリスがオーディンではなく、ビューレイストに酷く戸惑いの目を向ける。ただその困惑ぶりに、ビューレイストはアリスが困っているのは「魔力制御を外せ」の指示の範囲だと理解した。

 ビューレイストはアリスの耳元に唇を寄せる。


「未来の俺が許すところまでだ」


 なるほどなと思う。アリスは恐らく魔力制御で自分の魔力の上限を偽造している。未来のビューレイストの指示なのだろう。「魔力制御を外せ」というオーディンの指示をどの程度利口すべきなのか、アリスはビューレイストに問いかけてきたのだ。

 アリスはビューレイストの指示に、魔力制御を解除する。

 途端にオーディンの部下たちに、動揺が走った。精密な魔力探知を持つバルドルが、フリカが呆然とした面持ちでアリスを振り向く。それは当然だ。アリスの魔力量は今のビューレイストやバルドルとは比べものにならない。ゆうに上位の将軍に匹敵するレベルだ。


「この場を借りて部下たちにも紹介しよう。俺の娘だ」


 決定事項としてオーディンは話す。部下たちがざわつくがオーディンは気にしない。


「人間で、血筋的にはフリカの従妹の娘にあたる。莫大な魔力の優れた娘だろう?妃のフリカとバルドルを連れて将軍から逃げおおせた。素晴らしい才能だ」


 ヨルズが、表情を歪めた。ヨルズはオーディンの妃だった。だが、寵愛する別の妃が許せなかった。だからフリカを襲ったのだ。そして、

その企みはうまくいくはずで、それなのにフリカの親族によって邪魔された。その事実はヨルズのフリカに対する憎しみをより一層加速させる。だが、もはや手の出しようもない。むしろ悔しそうなヨルズの様子にオーディンは満足げに頷く。


「将来的には、ラウフェイの息子ビューレイストの妃にする」


 だからこの場にラウフェイがいるのだとオーディンは言外に示し、ラウフェイを振り返る。ラウフェイはゆるく笑い、それに同意していることを表した。

 ざわりと波紋のように動揺が広がる。

 魔族は本来、親族関係を重視しない。力がすべてだ。ただ今の将軍のなかでビューレイストの力量が優れていることは既にある程度知られている。


「っ」


 ビューレイストは、ラウフェイとフリカ、二人の母親の戦略にぞっとする。

 恐らくラウフェイやフリカはもうある程度、「ノルンの泉」という魔導具の効果を理解している。だから、この場でアリスをオーディンの娘として紹介した、させた。そう、ふたりはこの状況を利用して、仕向けた。それは、間違いなく将来への布石だ。

 ここで紹介したとしてもアリスが未来に帰れば、一時的にアリスの記憶は失われる。ただ、未来の彼らが千年前にアリスを紹介されたその記憶は、アリスが未来に帰還するとともによみがえることになるだろう。

 千年前に確約されたことを果たす。そうした状態にするつもりなのだ。


「・・・」


 ビューレイストは腕の中で怯えるアリスを理解しながらも、これは必要な行為だと判断した。

 オーディンはこの場でアリスを同席させ、紹介することで、フリカとバルドルと同様にアリスを傷つけることもまた、オーディンにたてつく行為だと魔族たちに広く示そうとしているのだ。

 ビューレイストがバルドルを見ると、彼も理解しているのか、ヨルズからアリスへの視線を遮りながらも、ぐっと唇を噛んで父親に物言うのを我慢しているようだった。

 そして周囲への牽制のためにも、ヨルズはもう用済みだ。ただヨルズだけでは魔族に対する牽制としては、不足だ。


「さて、話を戻そう。ヨルズ、おまえのおかげで妃のフリカは腕を失った。息子のバルドルと娘のアリスも怖い思いをしただろう。俺の大事な家族への損害を、どう償ってもらおうか」


 オーディンは楽しそうに笑ってみせる。それはヨルズの命だけではなりないと言っていた。途端に、ヨルズは顔色を変えた。


「私を、長年連れ添った私を殺すというのか!?」


 オーディンにとって、ヨルズは長らくの妃だった。もう千年以上だ。

 ただ魔族の「妃」という地位は相手の領地でも法的に認められた地位ではあるが、それの剥奪も、すべて将軍の気分ひとつだ。ましてやオーディンにとってヨルズは、食欲や性欲に基礎を置く強固な執着の対象となる「妃」でも情でつながった「妃」ではない。


「は?連れ添ったって、おまえだって俺が強いからそっただけだろ」


 オーディンの発言には、魔族としての習性が溢れていた。

 魔族の多くは多くのパートナーを持つし、それが常の社会だ。そのなかでも確かに「妃」は一種別格の地位ではあるが、オーディンの認識としては単に体の相性などが良いか、もしくは都合の良い相手で、長年の惰性でつながっていた相手だったのだろう。

 またヨルズ側も将軍のなかでも強いオーディンを相手とすることは、別に悪くなかったはずだ。強さがすべての魔族の社会で、男も女も多くの場合、強い相手を望む。自分より強い相手の子供を得るという観点で、ヨルズはオーディンを利害関係混みの伴侶として、納得していたはずだ。

 ただ、ビューレイストから見れば、それをフリカという寵愛する妃が現れた時点で剥奪しなかったのが、オーディンの僅かな情だったのかも知れないし、中途半端さでもあったと思う。

 だが、それはオーディンからの見方で、ヨルズはオーディンに一定の排他的な独占欲があったのだろう。


「ふざけるなっ、そもそもおまえが悪いっ、私以外の女とそんな関係になるから、だから!」


 あぁ、これを悋気や嫉妬というのだなとビューレイストは冷めた目でヨルズを眺める。

 魔族は食欲と性欲に固執する。

 性欲の対象として、ヨルズはオーディンを強く求めていたのかも知れない。そしてそれを他者から独占したかった。感情の起伏に乏しい魔族は、常ならばたいして怒らない。悋気や嫉妬を含め、情緒的な感情が自分のものとして理解できない。

 だが、確かに何らかの形でそうした感情は純血の魔族であっても根付くことがあるのだ。


「そうかもしれねぇな。でもどうでもいい」


 オーディンは冷淡な緋色の瞳をヨルズに向ける。ヨルズはその目を見てはじめて、オーディンが本気であることを気づいたのだろう。動けるはずもない狭い結界の中で少しでもオーディンから遠ざかろうとした。

 目の前に迫るのは死だと、やっと理解できたらしい。魔族は食欲と性欲以外に固執しない生きものだが、それでも生物的な死は恐れる。当たり前だ。魔族も生物に過ぎない。その常識から逸脱することはない。


「なにか面白い申し開きはねぇのかよ。なんでこんなことをしでかした」


 オーディンはつまらなそうに青銅の槍をまた回す。

 

「・・・その女が、その女の血筋が消え去れば、元通りになるはずだ。だから、だから」


 だからフリカとその息子のバルドルを狙った。そうすればまたオーディンとの惰性の日々が戻ってくるとそう思ったのだ。それは、あまりに安易で、浅はかな発想だったと言わざるを得ないだろう。

 

「ふーん、そんな些末な理由で俺の妃は腕を奪われたのか」


 オーディンの口調は軽い。だが、ぎぎっと握りしめられた槍がきしむ。


「愛しい息子は手傷を負い、愛しい娘は高熱で一週間も寝込む羽目になったのか」


 彼ははたして愛など、理解しているのだろうか。それでもオーディンの莫大な魔力が、殺意がぞっとするほどの底知れない恐怖を呼び起こす。感情の起伏に乏しい純血の魔族のビューレイストですらもひしひしと感じるほどの怒りとその圧に、がたがたと震えるアリスを抱きしめる。

 

「困ったものだぜ。ヨルズはフリカ、おまえの血筋を根絶やしにしないと気が済まないらしい」


 オーディンは表面上は楽しそうに隣に立つ妃のフリカを振り返る。

 

「そのようね」


 フリカの顔色は酷く悪い。だがそれすらも覆い隠すように美しく微笑み、その聞き心地の良い声で答える。

 

「あぁ。愛しいおまえと俺の子供たちのことを考えれば、たまったもんじゃねぇな」


 オーディンはたいして「愛しい」などと言う言葉はわからないだろうに、わざとらしくおかしそうに笑う。

 

「おい。それは困る。アリスは私の娘でもあるわけだ」


 ラウフェイがオーディンの怒りなどものともせず、ぽつりと呟いた。

 アリスはフリカの従妹の娘、つまりフリカの親族だ。フリカの血筋を根絶やしというのは、フリカだけでなくバルドル、そしてアリスも含まれる。アリスがさきほどビューレイストに嫁ぐと宣言した限り、アリスの子孫はビューレイストの血筋と同義になる。

 ビューレイストはラウフェイの息子だ。彼女が自分の血を残すことに執心しているのは、既に知られる話だ。その宣言を捨て置くはずもない。


「だよなぁ。なら、俺はおまえの血筋を根絶やしなきゃな」


 良い思いつきだろうとでも言うように、オーディンは槍をヨルズに向ける。


「おまえの一族は魔力量も多い。部下たちにとってはさぞ楽しい狩りになるだろうな」


 広間にいた魔族たちが答えるように雄叫びを上げる。びりびりと石灰岩で作られた広間全体が鳴るような興奮の声に、ビューレイストは怯えるアリスを抱きしめるしかない。魔族にとってあまりに普通の光景が、少しでもアリスのためにこのやりとりが早く終わること願うしかできない。

 だが、残酷な現実は加速することしかできない。


「待て!待ってくれ!!飢えているのならば、トールを喰えばいい」


 ヨルズが悲鳴のように叫んだ。ぴたり声がやむ。


「魔力量だけなら、トールの方が私よりも上だ。あの子を呼び寄せよう!だから、私は助けてくれ!!」


 魔族らしい、あまりに魔族らしい判断だった。

 魔族の母親は子供を愛さない。生まれた子供の世話などしない。守らない。母体さえ生き残れば、また次の子供を産める。子孫を残すために母体が生き残ることを優先する。だから飢えれば自分の子供でも喰うし、差し出してでも死を免れようとする。

 だが、混血の魔族であり、自分の妃と家族を守ろうとするオーディンに、その命乞いはまさに逆効果だった。


「ははははは!」


 オーディンが声を上げて笑う。

 誰もが黙り込む中、それが広間に響き渡る。ひととおりオーディンが笑い、広間を反響する声のおさまる頃になってやっと、オーディンはあらめて口を開いた。


「交渉の余地もない。安心しろ、みんなそろって俺達の食糧だぜ」


 その発言に広間にいた魔族たちが沸き立つ。

 当たり前だ。オーディンはヨルズがフリカの血筋をすべて根絶やしにしようとしたように、ヨルズの血筋を根絶やしにしようとしている。当然、そのなかにはヨルズの息子であるトールも含まれる。子供を差し出してでも助かろうとするヨルズの行為はオーディンのヨルズに対する印象をより悪化させただけで、何の意味もなさない。

 ビューレイストはもともとヨルズはさして頭が良くないとみていたが、それは間違いなさそうだ。

 ただ、これで話は終わりだろう。この場で気絶しそうなほど震えているアリスを腕に抱いていたビューレイストはそのことにほっとする。

 興奮する魔族たちと裏腹に、オーディンの後ろに立つフリカも口元を押さえ、真っ青だ。そして沸き立つ魔族と怯えるフリカやアリスといった人間のただなかで、バルドルがものすごい形相でオーディンをにらみつけていた。

 その瞳に宿る殺意にも似た感情に、ビューレイストは驚きを覚える。


「ビューレイスト、アリス、私たちは引き上げるぞ」


 ラウフェイがゆっくりと立ち上がり、ビューレイストに告げる。ビューレイストは腕のなかのアリスを抱きしめ移動しようとしたが、アリスはもう限界だったのか、膝が崩れた。


「バルドル、フリカ、おまえたちも来い。ここにはもう用はないだろう」


 ラウフェイはついでとでも言うようにバルドルとフリカも回収していく。

 

 バルドルがすぐにフリカに駆け寄り、僅かに身長の高い母親を支えた。なんとか立っていたが、アリスが魔族にとどめを刺すのを躊躇うように、死は人間にとって忌避すべきものなのだろう。どう見てもフリカの顔色は悪い。

 そしてこの広間でこれから行われることを考えれば早々にここから出る方が良いだろう。

 ビューレイストは腰の抜けているアリスを抱え上げ、広間を後にした。ヨルズを見ることは二度とないだろう。ビューレイストは怯えるアリスのために、それを心から歓迎する。

 だがこれから起こることを思えば、懸念しかなかった。


・ラウフェイはオーディンを見ながら、こいつ、嫁と息子が大切と言いながらどこ見てるんだろうなとか思ってる。ビューレイストもまったく同じことを思ってる。

・オーディンがヨトゥンと離婚しなかったのは、フリカが嫉妬してくれるからとか言う、くそみたいな理由。

・バルドルは母親への負担を考え、常に何か有事があると父親に殺意を覚えている。

テイク1;オーディンとビューレイスト

「遅かったな。バルドル、ビューレイスト」

「あぁ。アリスを引き取ったら帰らせてもらう」

「は?こっからが用事だろ!?」

「アリスが怯えている。この時点で用事は後回しだ。それで今死ぬわけでもあるまいし」

「ふっざけんな!こっちは部下たち集めてんだろ!?」

「おまえに人望か力があれば、また集まってくれるだろう」


 未来のビューレイストなら速攻帰還した案件w

 きっとそれで帰らされても、エトヴァスの部下のゲルハルトさんたちは別に気にしない。


テイク2:ラウフェイ、ビューレイスト、オーディン

「・・・わかってるな」

「あぁ」

「ひとまず馬鹿には配慮が足りない。目の前でヨトゥンの首をはねる可能性もある」

「だろうな」

「魔族なら将軍レベルの餌、喜んで全員で食いつく。まさにオオカミの群れに餌を放り込むような状態だ」

「そうだな」

「人間がそれを見て耐えられる気がしない」

「だろうな」

「・・・おまえら、なにこそこそ話してんだよ」

「必要な忠告だ」


 馬鹿とともに人間に配慮するのは疲れる、ってラウフェイとビューレイストは真剣に思っていると思う。

 というか、全員でフェンサリル宮殿(オーディンの宮殿)に住めばいいのに、それをしなかったのはラウフェイがいざとなったとき、オーディンの宮殿はうかつすぎてなにか魔術とかが仕掛けられるのではないかと危惧しているから。

 あとはアリスがフリカやバルドルに同情し、下手な行動に出ないようにするため。

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