平民の新米勇者
今回は新米勇者の話です。
「これより聖剣の儀式を執り行う。候補者は前に出なさい」
新たなる勇者を選ぶ聖剣の儀式が始まった。
聖剣の儀式は勇者候補者が聖剣を台座から引く抜く事で勇者を決定する儀式だ。
つまり聖剣が勇者を選ぶという事だ。
「ぐぁあああ」
第一皇子が聖剣を抜こうとしたが、抜けなかっほた。
「うぉおおお」
第二皇子も抜けなかった。
第三皇子も同様だった。
公爵子息も、侯爵子息も、伯爵子息も、候補者全員が選ばれなかった。
「おい、候補者が一人も選ばれなかったぞ」
「どうなっているんだ」
「勇者が居ないという事なのか」
「今まで勇者が居ないという事は無かったよな」
見物人達が騒ぎ始めた。
「すみません。遅れました」
平民の候補者が遅れて現れた。
「何故遅れたのですか」
「行く手を妨害されたのです」
神官が問い詰めると、行く手を妨害されたと答えた。
「早く儀式を行いなさい。さもないと直ちに失格にしますよ」
「分かりました」
不機嫌そうな神官に急かされて、候補者が聖剣を握ると、簡単に引き抜かれた。
「抜けました」
「・・・・」
「「「「「うぉおお。勇者様だ」」」」」
神官は無言になり、見物人達から大きな歓声が上がった。
(そんなバカな。平民が選ばれるなんて、絶対にあり得ない)
神官は心の中で叫んだが、事実は曲げられない。
「新たなる勇者が選ばれた」
苦々しい気持ちを隠して、仕方なく宣言を行った。
「「「「「うぉおおおお。勇者様、万歳」」」」」
再び大歓声が上がった。
僕は人々から勇者様と認められた。
しかし深夜に見知らぬ男達に襲撃された。
どうやら神官の差し金らしい。
僕は聖剣を抱えて逃げ出したが、追い付かれてしまった。
(殺される)
「お前達、何をしてやがる」
絶望し欠けた時に声が聞こえた。
襲撃者達は口封じしようとしたが、悲鳴を上げる暇さえ与えられず、全員が返り討ちにされた。
物凄い手練れだと恐怖を感じると同時に、感動してしまった。
「助けて頂いて、ありがとうございます。僕は勇者のヘミンです」
「お前が勇者だと。嘘を付くな。あんなに弱い勇者が居るか」
「勇者になったのは、つい先程なんです」
「そうか。弱いなんて言って、悪かった」
「ところで貴方達は何者ですか。物凄い手練れのようですが」
「俺は差別をする愚か者を断罪する旅の英雄だ。名前は神人。コイツは愛人の駄女神だ」
「違います。私は従者のサポアです。せめて紹介はまともにして下さい」
「差別をする愚か者を断罪する旅の英雄ですか。凄いお方なんですね」
「まあな。それより何で勇者が襲撃されたんだ」
「おそらく僕が平民だからです」
僕は彼らに事情を全て話した。
「新米勇者、俺達の仲間になれ。歓迎してやる」
「・・・・はい」
すると仲間に誘われたので、快諾した。
「話は決まったな。それじゃ早速、愚か者の神官を断罪するか」
カミトが神官を断罪すると言い出した。
「でも証拠がありません」
「そんなもんは必要ねえよ。襲撃者達が白状させた後に自害したと言えばいいだろうが」
「そんな無茶な」
「よく考えてみな。人族は権威の高い方を信用する愚かな生き物だ。勇者と只の神官のどちらを信用するか分かるか。当然勇者の方に決まっているだろうが」
「そうでしょうか」
「そうなんだよ。とにかく俺に任せておきな。新米勇者」
「・・・・分かりました。お任せします。それから新米勇者はやめて下さい」
神官を断罪する為にカミト達と共に町に戻った。
「おい、そこの只の神官、襲撃者達を尋問したら、お前に頼まれて、勇者様を殺そうとしたと白状した。観念して、俺に断罪されろ」
「・・・・証拠があるのか。その襲撃者に会わせろ」
「証拠だと。そんなもんねえよ。白状した後に自害したからな。勇者様も白状させた現場に居たんだよ。言い逃れは出来ねえぜ」
「その通りだ。僕も現場に居た」
周囲の人々が冷たい視線で、神官を睨み付けている。
「・・・・」
「無言という事は認めるんだな」
「ち、違う」
「往生際が悪いぜ」
神人は神官を斬り捨てた。