第四十七話
また別の金曜日。僕は校内のごみ拾いという役割を任されていた。その日はそれなりに参加者が多く、二十名以上はいたと思う。
僕は潔癖症の嫌いがあって、あまりこういうのは好かないのであるが、逆に潔癖症であるから掃除が好きな面もあるのだろうか。それとも、ただ黙々と作業する、プラモデル作りのようなことが好きなオタク的性質によるものなのだろうか。いざやってみるとそこまで悪い気はしなかった。むしろ、時間を忘れて働いていた。
(つだくん…。)
「津田くん!」
「は、はい先輩!」
「何度も呼んだのに。ゴミ拾いにそこまで没頭しちゃったの?」
「ええ。お恥ずかしながら、なぜだかこういうのにははまりやすくて…。」
「恥ずかしいことはないよ! それより、もう解散だよ。ごくろうさま」
見ると、ほかの人たちはもう道具をしまって帰っていた。僕もゴミ袋を集め、集積場に向かった。
最後のごみ袋を捨てに行くと、市谷先輩が何かを見て突っ立っていた。その視線の先には、ダンボールがあふれて散乱した、ゴミ捨て場があった。
何かを踏んだ音で、市谷先輩は僕の存在に気が付いたらしい。
「あー、えーっと」
ちょっと考えて、
「津田くん。君はみんなと一緒に帰ってくれ。今日はよく働いてくれた。うん、十分に働いたんだ。
ここはわたしがやっておくから、ささ、下校の時間だよ!」
市谷先輩が肩をたたいた。
ほかの参加者は、もう姿が見えない。というか、もう人影もなかった。
この量のダンボールを、先輩一人で片づける気なのか。
…。
「津田くん? 何をしているんだい? もう君は十分頑張ったじゃないか。ほかのみんなは帰っているんだよ。ゴミ拾いだって、たいていの人はおしゃべりのついでさ。君がそこまでして働く理由なんて、ないじゃないか」
言われてみれば、まあそうだ。
だが…。
「お言葉ですが、先輩」
僕は初めて、市谷先輩に反抗した。
「誰かがやらないことが、自分もやらない理由になりますか?」
市谷先輩は目を見開いた。
そしてニヤリと笑って、僕の背中を力強く叩いた。
「痛いですよ先輩」
「言うねぇ~。言うようになったじゃないか。遅めの反抗期か~? ん~?」
「いでっ、だから痛いですって」
それでも力を弱めることはなかった。
「うんうん。月並みな言葉だが気に入った。
うん。気に入ったよ! いい後輩を持ったなあ、わたしは!」
そうして僕たちは、なんとか片づけることができた。