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帰宅部員は眠らない  作者: 閣下の牛乳
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第四十五話

 そんな奇妙な思考に陥るのも、市谷先輩の持つ不思議な力、有無を言わさずに人を従えてしまう力、言ってしまえばカリスマ性によるものだった。僕は面倒な仕事は避ける人間だし、いくら生徒会長といえども忠誠を誓った覚えはない以上、いくらでも反抗してやるような自由人である。だが、市谷先輩に対してはどうしても逆らえない。彼女の何がそうさせるのか、まったくわからないが、もはやそれはどうでもいいことだった。僕の思考は、どうやったら彼女の指令を遂行できるのか。その一点へと導かれていた。


 空き教室の整理なんていう大仕事は、二人だけで行えるほど楽ではなかった。時折、どこかから適当な人間を捕まえて、作業に加えさせていた。その中には、彼が言うには本当に偶然ヒマだった相馬も含まれていた。市谷先輩は、相手がいまどんな状況で、忙しいのか暇なのか、自分に協力してくれるのか否かを瞬時に判断できた。あるいは、そのカリスマ性で、強制的にヒマにさせた。


 開始してから二時間ほどは経っただろうか。

「よし、みんなのおかげでこんなにきれいになったよ! ご苦労様。カギは私が閉めておくから、みんな先に帰っちゃって~」

「「「は~い」」」

 促されて、僕たちは帰り路につくことになった。


 ちょっとトイレに行った後、ふとさっきまでいた教室が結局なんという名がついていたのか(例えば理科準備室とか)気になり、とんぼ返りした。

 すると、中からまだ音がした。

 市谷先輩が、一人でまだなにか作業していた。さっきの言葉は、僕たちを気遣ったものだとわかった。夕暮れの中で黙々と作業する様子を、ただ眺めていた。



 それからというもの、何度か、それも決まって金曜日になると、ふらっと市谷先輩と出くわし、何らかの手伝いを頼まれるようになった。金曜日ばかりなのは今でもずっと疑問のままだ。生徒会の活動がちょうど金曜日にあるのか、習い事のせいでその他の曜日は仕事ができないのか。あるいはなにか仕事を頼んでも、金曜日ならばすぐ週末であるし体力を回復しやすいとか、そういった事情でもあるのではないだろうか。

 考えてみると、あのノートはもしかしたら協力者の名簿だったのかもしれない。特に、僕みたいにフラフラと出歩いている暇そうなやつは好都合だ。このやり方は、臨時の労働力を得るための、市谷先輩にうってつけのものだった。


 ある金曜日、やけに市谷先輩が嬉しそうにしていた。

「なにかいいことでも、あったのですか?」

「あったよ! 聞き給え。わたしの見事な管理のおかげで、予算が削減できたうえにちょっと儲かっちゃったんだよ~。さあ、褒め給え!」

「お~(パチパチパチ)」

 予算を節約する、ならまだわかるが、儲かったとはどういうことなのだろうか。企業ならいざ知らず、生徒会では儲かったときの想定などしていないだろうし、その金はどうするのだろうか。

「下手に予算が余ると面倒でしょうし、なにか適当なことに使っちゃうんですか?」

「君は変なことを考えるんだね。官僚が適当な公共事業で予算を使い切るみたいな」

「まさにそれです」

「さすがにそれはえげつないよ~。津田くんは政治には絶対関わっちゃいけないタイプだね」

「まぁそれは…。自覚しています」

 人とのかかわりが少ないせいで全体に対する奉仕の精神が希薄だし、コミュニケーション能力が低いから国会議員とか絶対に無理だ。

「人の上に立つコツ! 誠実であること! とにかく清く正しくあること! 忘れちゃだめだよ!」

「僕が誰かの上に立つことなんてありませんよ」

「ううん。わからないよ~。突然出世しちゃうことだって、人生にはあるんだよ。

 そ・れ・に、来年になれば絶対に先輩になるんだから。後輩には、常に理想的な先輩の姿を見せてあげないと! わたしみたいに!」

「目標が高すぎませんかね、それ…。」

 そうでなくとも、僕はすでに先輩であるのだが。これほどまでに完璧な先輩像を見せつけられると、大宮への僕の態度は全く持って不誠実であったように思えてきてしまう。

「それで…。結局余った予算はどうするんですか? この様子だと、繰り越しですか?」

「いや、みんなに分配するよ。今年度の生徒からもらったお金は、今年度の生徒に還元しないと」

 過剰なまでに誠実な先輩である。




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