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帰宅部員は眠らない  作者: 閣下の牛乳
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第四十三話

 そんなことがあったからなのだろうか、僕はつい、口を滑らせてしまった。愚痴をこぼしてしまった。

 別に実行委員会で、ではない。もっと上のところだ。


 遅刻者などいないはずなのに、教室の扉が明けられた。そして、しばらくこの集まりでは聞くことのなかった、元気のいい声とともに、『彼女』は現れた。

「やっほーみんな~! 元気にしているかい~? この生徒会長様が直々に、手伝いに来たよー!」


「おお、会長だ!」

「市谷さんだ! ありがとう、助かった!」

 めいめいに駆け寄って、歓迎していた。その人の群れをかき分けて、彼女は僕のもとにやってきた。

「よー、津田くん! 助けに来てあげたよ! 感謝し給え!」

「ありがとうございます、市谷先輩」

 僕は現在の状況の説明をすると、市谷先輩はすぐに把握して、各員への指示を行うと、自分も行動を開始した。

「そして、津田くん! 君もわたしについてきなさい! いつものようにこき使ってあげるよ!」

 どう考えてもいつもの僕なら断りたくなる指令だった。だが市谷先輩の頼みなら、と思っている自分がいて、さらにはいつものことだから、とあきらめている自分がいた。

 場の空気は断然変わった。明らかに活気が戻った。生気が宿った。


 それもそのはずだ。鷲頭は高校一年生の美少女については解説してくれたが、高校二年生についてはまだ語っていない。もし誰か一人をあげろと言われたら、僕は迷わず市谷先輩を挙げる。鷲頭に聞いたところ、上級生のことはまだ知らないから答えられない、逆になんでお前はわかるんだ、と返されたが。まぁそれも道理だ。これはただ、僕が個人的にちょっとかかわっているから、運よく知りえた状況なのだから。

 市谷先輩、市谷 葵先輩は、理想的人物である。そういわれると、まったくもって雲をつかむような話で、結局何もわからないじゃあないかと不満をこぼす方もいるだろうが、ただ理想的だ、と表現するしかないのだ。逆に言えば、それだけで済むので、ほかの人間よりも説明が楽だ。

 理想的、なのだから、人として理想的な要素をとりあえず思い浮かべてみたら、そのすべてを持っているのが市谷先輩だ。仮に矛盾する属性、例えば冷静沈着と熱血的人物を挙げられたところで、何の問題もない。どちらも有して、それでいてまったく問題なく共存する。それが市谷先輩なのだから。

 もはやこれまで説明したら、勉学、スポーツ、芸術において、市谷先輩がどれだけ優れているのかについて言及するのは、馬鹿らしいほどである。とりあえず京成高校全体で一位の座には、市谷先輩が君臨していると思えばよい。

 先にその美貌について言及してしまったが、正直言ってそこはもうどうでもいいのだ。たしかに素晴らしいのだが、圧倒的すぎて逆に注目に値しない。また、それ以外でもいくらでも賞賛すべき点があるので、市谷先輩の中でもうその美貌の価値が薄まってしまうのだ。

 性格について…。もう説明する必要があるのか? こんなドのつく陰キャにさえ優しく接し、話すだけで相手を幸福にさせ、その人生と成長に何らかの好影響をもたらす。そんなゲームのラッキーアイテムのような人物だ。落ち込んでいる人物は励まし、悲しむ人間には寄り添い、元気が欲しい人にはその体からあふれさせて分け与える。憂鬱な月曜日の女神である。

 だから圧倒的な人気がある。生徒会長にも、歴史的な票差で勝利したと聞く。人気で、人気過ぎて、その才覚をうらやんでか、アンチがいるくらいだ。地下組織的にアンチが活動しているようだが、そのような人物にもただにっこりと笑いかけるだけで、丸め込んでしまうのだが。


 そんな市谷先輩に命令されたのだ。断る人間などいるのだろうか?

 僕は急いで市谷先輩を追いかけようとした。

 出かける前に、ふと六条さんの方を見た。目の前の光景を、呆然と眺めていた。



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