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帰宅部員は眠らない  作者: 閣下の牛乳
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第三十八話

 また水曜日がやってきた。今日もまた、体育祭実行委員会の会議である。

 前回の内容はせいぜいこれからの日程の説明程度だったが、今日は本格的に仕事を行わなければならない。体育祭当日に行う、競技を決めるのである。

 さまざまな意見が出た。鷲頭は馬による戦車競走をしようといった。僕は一スタディオン走をしようと提案した。どちらも不採用だったが、僕たちは冗談ではなく、本気だった。

 鷲頭はただ馬の扱いに長け、馬車競技をやりたくて仕方がないからだが、僕はとにかく新しい、変わったことをわざわざ考えて、実行するのが嫌だったのだ。仕事を増やしたくない。だからただの短距離走を提案した。

 一方、体育祭をお祭りだと認識している方々(いや本当はそれが正しいのだが)はあれこれと奇妙な競技を提案してくる。ダジャレで勝負したり、最近はやった言葉を盛り込んだりしただけの競技が大量に出てきた。もはやこの会議は、アイディアで勝負するだけの場となった。

 しかし、実際にその競技を実行可能なのかどうかという段になると、途端に発言がなくなった。会議は行き詰った。

 これが嫌なのだ。こういう、無駄なことが嫌なのだ。

 僕は鷲頭にそっと耳打ちし、こっそり会議を抜け出した。そしてそのまま、一時間ぐらい遊んで、デザートでも頂いた後に帰ってきた。

 まだ会議は続いていた。もう、だれも話をしていなかったが。

 めいめいの顔に、疲労感がうかがえる。今が最も良い機会だ。


 僕は大声で、「前年度の競技をそっくりそのまま踏襲しよう」と持ち掛けた。委員たちは皆、待ってましたとばかりに僕の意見を採用し、五分もしないうちに解散することができた。

 これが僕のサボり方である。会議は誰かが声をあげないと進まない。だが、下手に口を滑らせると言い出しっぺに仕事を任されてしまうのが、日本社会である。だからまず僕が口火を切って、「何もしないこと」を提案する。すると言い出しっぺ論法を使っても、僕がまず仕事をしなくなるだけという奇妙な結論になる。批判を避けつつ仕事を減らすには、これが一番だ。

 だが最初からこれを使うと、僕の勤労意識を問われてしまうので、みんなが疲労してやる気と判断力を失ったタイミングを見計らわなければならない。これが結構難しい。


 委員たちは口々に疲れた~っといいつつ、試験後のような開放感を語尾ににじませて、帰宅していった。

 それを眺めて軽い達成感に浸っていると、ふと、六条さんがまだ座っていることに気が付いた。

 真顔で、手を握りしめていた。

「六条さん」

 僕は声をかけた。朝比奈も声をかけてみた。だが返事がない。

「六条さん!」

 ビクッと体を震わせて、六条さんはやっと顔をあげた。

「六条さん、もう会議は終わりましたよ。帰りましょう」

 六条さんはまた目線を下げると、

「ええ」

 とだけ答えて、さっさと出て行ってしまった。朝比奈はそれを追いかけていった。


 競技が決まったら、それを実行するために必要な資材の確認や調達、集積場所の決定をしなければならない。効率のいいプログラムを組み、無茶な進行を防がなければならない。会場のセッティングをどうするのか、必要な仕事は何か、さらには体育祭の概要を説明するパンフレットの作成と全校生徒への配布、ポスターや飾りつけの決定まで、やるべきことはたくさんあった。これらの仕事は全員がやってもむしろ効率が悪くなるとのことで、実行委員会上層部が決定し、僕たち事務作業班が遂行した。結局僕は仕事をする羽目になったのだ。

 期日が迫っていたので、水曜日以外も作業をするようになった。(そもそも水曜日に集まるのは会議のためだけだから、事務作業には関係なかった)

 鷲頭は相変わらず気ままにサボり、時折適当な理由をつけて帰ってしまった。そのせいで、下校時刻ギリギリになることもしばしばだった。僕は軽く不平をこぼしたが、六条さんは心が広いのか、特に何も言わなかった。


 こうして仕事をこなし、上層部とのつながりも強くなっていくにしたがって、委員会の中での僕たちの発言力は、日増しに強くなっていった。特に体育祭の効率化における六条さんの貢献はすさまじいものであり、いつの間にか高校一年の委員を代表するようになった。




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