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帰宅部員は眠らない  作者: 閣下の牛乳
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第二話

 クラスメイトがさっさと帰るなり部活動に行くなりして空っぽになった四年七組の教室で、僕は全力で書き上げた美辞麗句を、この春から妙に付きまとうようになった後輩、大宮紫音に披露していた。ちなみに四年となっているのは中高一貫校ならではの表記で、世間的には高校一年ということだ。大宮は中学三年生である。

「ていうかなんでこんな部活作るんすか?」

「帰らないためだよ」

「??? 帰宅部なのに?」

「僕たちの帰宅部は帰らない帰宅部だ。テキトーに暇つぶしして、下校時刻になったら帰る。普通の帰宅部が直帰宅部(直帰・帰宅部)なら、僕たちは残業帰宅部だ」

「本格的に何言ってんのかわかんないっす。頭大丈夫っすか?」

「大宮に言われたらもう終わりだよ僕…」

 大宮紫音は変わった子だ、と言われているらしい。らしい、というのはそう言っている人たちが内部進学生だからだ。高入生の僕たちが彼女について知るわけもない。

 わけもないのだが。

 最近、僕は彼女に何かと付きまとわれるようになった。


 地獄の受験戦争の果てにこの私立京成高校に入学した僕は、完全に燃え尽き症候群となった。何をする気も起きず、部活動説明会もサボってしまった。かといってほかにやることもなく、さりとてそのまま帰るのも何となく決まりが悪くって、一人オリエンテーリングを行っていた。そのうち、わが校には中庭がふんだんにあり、そのうちの一つ、図書館に近くてベンチと大きな木があるところにぶらぶらと行きついた。その日はちょうどいい天気だったから、どれ、日向ぼっこでもしてみようと考えたのだ。

 春の日が優しく僕に差し込む。

 なんともいい心地になり、ウトウトと眠りに落ちかけた時に、大宮は現れた。

 開口一番、

「わたしの人間観察ベストスポットを返してください!」

 というのだ。

 僕はちょうど寝落ちしかけていたのに妨害されたものだから、幾分か腹が立って、これはすんなりと明け渡してなるものか、となった。

「『わたしの』と言われてもねぇ。ここは君の私有財産ではないはずだ。それに教室の座席のような、一時的に貸与されて占有を認められる存在でもないはずだ。いかなる理由で利用権を請求するんだ」

「わたしがいっつも使っているからっす!」

「なるほど。先占権か。しかしその権利は誰も承認していない。ましてや僕だって承認した覚えはない。だから無効だ。それに今この状況なら先に寝転んだ僕に先占権がある」

「ごちゃごちゃと! いいからどくっす!」

「うわっ、こら引っ張るな!」

 その後押し合いへし合い、散々格闘したあげく、

「勝ったっす!」

「嘘だろ…」

 僕が力負けした。




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