表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰宅部員は眠らない  作者: 閣下の牛乳
15/55

第十五話

 どう考えても数十キログラムはある装備を着て、しかも目立つというのだから、警察から逃げおおせるのは困難かに見えたが、特に鷲頭は逃げ足が速く、警察もあきれて追いかけるのをやめてしまったため、逃走は成功してしまったらしい。どれだけ訓練しているのだ、彼らは。

 そんな彼らの様子をしばらくポカンと眺め、やがて正気に戻った僕たちは、目的のショッピングを始めた。

 僕はいわゆるアニメオタクに近い側の人間であるため、秋葉原で買い物をする場所と言ったらアニメイトか、とらのあなか、メロンブックスと相場が決まっている。逆にカードゲームを売っている場所を、僕は全く知らなかった。視野狭窄といっていい。いつも通っていた道のビルに、たまに限定ショップをやっていたビルの別の階に、カードゲーム売り場はあった。

 カードゲームというくらいだから商品は軽いのではないか、荷物持ちなど必要なのかと問うと、

「うるさいですね…。」

 と返された。狙ってこの『言ってないセリフ』を選んだのか?


 余談だが、『言ってないセリフ』とは興味深い。これは、あるキャラクターが言っていそうなセリフではあるが、作中では言っていないセリフのことを意味するのが定義だ。ファン同士の交流の中で、もっとも秀逸なものが流布していく過程で成立する。『言ってないセリフ』は言ってないのだから、キャラクターとここまで結びつくのは奇妙なことだが、『原作とアニメで言ってないだけだろ』と言われるようになった以上、そこに意味を見出さざるを得ないだろう。

 ここに、ファンの共同作業で新たに作品が生まれ、創作され、作品世界が広がる現象があるのだ。

 これが行き過ぎると、古い概念だと『作者の死』なのかもしれない。

 本来的な意味とは違うのは重々承知だが、作品の自由な読解が、結果として能動的な創作になるという観点でいえば、同じようなものだろう。

『言ってないセリフ』は言ってないが、同時に言っているのだ。


「まーた先輩が妙な解説を始めた気配がするっす。その俯瞰する態度、オタクっぽくてイラつくのでやめてください」

「ひどいなあ。俯瞰癖はオタクの伝統、アイデンティティだろうに。文化破壊で訴えるぞ」

「バカなことを言ってないで、行きますよ。おなかすいたっす。適当に店を探すので、先輩はお会計お願いします」

「なるほど、見事な分担、連携プレー…。なわけあるかー!」

「ダメっすか?」

「ダメに決まっているだろ! 隙を見てはいつもタカってくるなぁ君は! 大宮が行きたいといったんだぞ。おごられる筋合いこそあれど、僕がおごる理由はない」

「この通り! お願いするっす、先輩!」

「体育会系的にお願いしてもだめだ!」

「お願い~~~」

「目を潤ませて、ぶりっ子風にやってもだめだ! ちょっと古臭いのが減点対象だ」

「お願い、お兄ちゃん♡」

 上目遣いプラスお兄ちゃん呼び妹キャラは…。耐えられなかった。

「しょうがねーなー!」

「わーいお兄ちゃん大好きー」

 僕は今後一生、これほどまでに心のこもっていない、しかして下心だけが入っている『大好き』を、聞くことはないだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ