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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
96/109

96〔The Summer Vacation・3〕

明神男坂のぼりたい


96〔The Summer Vacation・3〕 


              



「勝手に東京音頭なんか流すんじゃないわよ!」


 夏木先生が、鬼の顔になって怒った。


「すみません!」


 ワケは分からないけど、研究生は怒られたら、とりあえず謝る。この世界のイロハです(^_^;)。


「あんたたちはオールディーズのイメージで売り出すんだからね。一人違う色を出されると困んのよ!」


「はい。すみませんでした!」


 そこに横から市川ディレクターが口をはさんだ。


「夏木さん。でも明日香のアクセス、3000件超えて、まだ伸びてますよ。6期生のブログじゃ最高だよ」


「うそ……ほんとだ」


 夏木先生と、市川ディレクターは20秒ほど話して結論を出した。さすがは芸能プロ。良くも悪くも頭の回転は早い。


「よし、今日一日で5000超えるようなら残してよし。超えなかったら、即刻削除。いいわね!」


「はい(*゜O゜*)!」


 と、返事したあとは、カヨちゃんたち研究生が笑って、もう別の話題になっていた。


「ええ、一昨日のバケーションの評判がいいので、急きょプロモーションビデオを撮ることになりました。ただし、製作費は安いから、無料で撮影できるところだけで撮ります。じゃ、衣装に着替えて。バスに乗り込むよ!」



「はーい!」



 で、20分後には衣装に……と言っても、一昨日のありあわせのままだけど。


 まずは、近場でアキバの駅前。バスからサッと降りたかと思うと……


「カメラ目線でもいいから、とにかくハッチャケて。フォーメーション? そんなのいいから、とにかく一本いくよ」


 マイクも何にも無し。カメラ2台。照明さん二人。音声さんは、たった一人で口パクを合わせるためだけに曲を流す。夏木先生は選抜の人たちの振り付け指導で残留。市川ディレクターとアシさんが二人っきり。


 10分で撮り終えると……どうやら撮影許可をとってないようで、お巡りさんから言われるまえに撤収。   


 次にスカイツリーが見えることだけが取り柄の、親会社ユニオシ興行の屋上。ここは自前の場所なんで、リハも含めて、一時間。それからユニオシの前。日本橋、浅草、東京タワーなんかで、ゲリラ的に数人ずつ撮影。さすが物見高いオーディエンスの人たちも「なんかやってんぞ!」と集まったころには撤収。上野のパンダ橋でやったときは、見物のオバチャンがみんなにアメチャンをくれた。たぶん大阪の団体さん。


「次は不忍池!」


 池の前、弁天堂の向こうにスカイツリーを背景に十分。大江戸放送が『東京ローカル』のロケに来てたんで、無理矢理割り込んで一曲やらせてもらう。これは市川さんのアイデアと違って、あたしたちと大江戸放送の世紀のアドリブ。生放送に5分も割り込む。お互い低予算同士の助け合い。


 バスに戻ったら、アシさん二人がロケ弁を配ってくれた。さすがにAKRのアシさん、この移動の最中に贔屓の弁当屋さんに手配してくれたらしい。


 感心してたんだけど、アシさん二人は、みんなが食べ終わるまで、打ち合わせやら、次の手配やらで走り周り。


「ロケの許可下りました」と、アシさん。


 急きょ都庁の前に行って30分。終わりの方では三月後に選挙を控えた都知事さんも出てきてノリノリ。これも互いのPR。芸能プロと政治家のやることに無駄はありません。


 さすがに衣装が汗びちゃ。


「その衣装は、ここまで。次は海水浴!」


 で、一時間半かけて湘南の海へ。その間にバスのカーテン閉めてみんなで水着に着替える。


「みんな、高画質で撮ってるから、ムダ毛の処理なんかは、忘れずに。シェーバーはここにあるから、よろしく!」


 22人の勢いはすごい。とても文章では表現できんようなありさまで、着替えたり、ムダ毛の処理したり。朝からのハイテンションで、スタッフのあらかたが男の人だということも気にならなかった。


 江ノ島海水浴場に着いたのは4時前。海水浴客が少なくなる時間帯を狙ってる。なんか思い付きで撮ってるようだけど、市川ディレクターの頭には、ちゃんとタイムテーブルがあるみたい。


 江ノ島では、フォーメーション組んで、二回撮った後は、みんなで時間いっぱい遊んだ。カメラさんは腰まで水に浸かりながら撮影……してたらしい。あたしたちは、そんなもの忘れてはしゃぎまくり!


 その日、家に帰ってパソコン見たら、アクセスは5000件を目出度く超えておりました……(^0^)!    

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