表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
92/109

92〔初めての水天宮!〕

明神男坂のぼりたい


92〔初めての水天宮!〕 


        



 高校生の妊娠は珍しくない。連れ子同士の結婚も、ままあること。


 だけど、この両方をいっぺんにやってしまうことは、大変珍しい。


 その珍しいことを、美枝はヌケヌケとやってしまった。


 信じられないことに、美枝の親も異議はないらしい。



 学校も生徒の妊娠ということは過去にいくつかあったみたいで対応は早いというか、マニュアル通り。


 職員会議にかけて、全教職員が共通認識をもっておく。一般の生徒には妊娠の事実は知られないようにする。体育は基本的には見学にする。修学旅行は不参加。妊娠の状態が顕著になる7か月目以降は、医師の診断書により休学とする。


 それに加えて、美枝の場合は、あたしとゆかり、それに麻友が知っているので、三人は秘密を守るとともに、出来うる限り美枝を見守ってやることが付け加わる。


「見守るって、どうすることですか?」


 相談室で、ガンダムに質問した。AMY三人娘と麻友がいっしょ。


「見守りは見守りだ。第一には他の生徒には分からないようにすること。積極的に触れまわったりしないが、美枝は心臓疾患ということにしておく。くれぐれも頼んだぞ」


 要は、あたしたちへの口止め。普通、生徒の妊娠は、友達にも言わない。それが、美枝は、あたしらに言ってしまったので、学校としては言わざるをえない。


 ガンダムには悪いけど、これは学校のアリバイ。


 学校としては事情を知ってる生徒には注意した。だから、万一他の生徒にバレても、学校の責任じゃない。元学校の先生を親に持つと、このへんの機微は分かりすぎるくらいに分かってしまう。


「まあ、こんなもんは想定内のことだから、よろしく頼むわ」


 と、昨日の美枝はお気楽だった。ゆかりと麻友は秘密を共有したパルチザンの同志みたいに興奮していた。あたしもできてしまったものはしかたないので、調子を合わせておく。


「安産祈願に行きたい!」


 帰り道の外堀通りで、美枝が立ち止まる。


「「「安産祈願!?」」」


 ゆかりと麻友と三人そろって驚く。


「うん、やっぱり、やるべきことはやっておきたいの!」


 ということで、神田明神に向かう。


 あたしの神さまだし、三人とも何度か連れて来たし、神頼みと言うことになると、ここになる。



 大鳥居が見えて、だんご屋の前までくると、美枝が立ち止まった。


「どうかした?」


「神田明神て、安産祈願……」


「うん、やってるよ。お願い事ならなんでもありだよ」


 子どものころから知ってるし、この界隈の人間は、お願い事は、全部明神さまで済ませている。


 おらが村っていうか、我が街の神さまって感じで、例えは悪いけど、買い物と言ったら、まず近所のスーパー。具合が悪いといってはかかりつけのお医者さん。そんな感じ。


「でも、専門じゃないんだよね」


「え……まあ」


「ちょっと待って……」


 美枝は、スマホを出してググり出した。


 団子屋の前なもんだから、店の中から視線を感じる。


 チラ見すると、おばちゃん、さつき、に、最近入った出雲阿国までが、こっち見てる。


 おばちゃんは、近所のあたしが友だちと仲良く喋ってる的に微笑ましく見てるけど、さつきと出雲阿国は神さまみたいなもんだから、会話の内容も分かってるみたいでニヤニヤしてる。


「あ、水天宮が専門だ!」


 クレープの専門店見つけたみたいなノリで美枝が指を立てる。


「日本橋だ、ここからならタクシーの方が安いよ」


 言うが早いか美枝は、立てた指を親指に換えて歩道に走る。


―― この浮気者めえ ――


 さつきのジト目を感じながら、スグに掴まったタクシーに乗って水天宮を目指した。



「うわあ、きれい!」



 始めてやってきた水天宮はでっかい神棚って感じ。


 数年前に造替工事ぞうたいこうじが終わったばかりで、白木の肌も初々しく、神田明神に慣れ親しんだわたしは、ちょっと意表を突かれる。


「こういうのもいいねえ!」


 お参りの目的も忘れて見とれてしまう。


 神田明神も、お社は古くない。関東大震災のあとに鉄筋コンクリートで立て直され、メンテも行き届いているので由緒の割には古さを感じさせない。


 だけど、新築同然みたいな水天宮の清々しさは、やっぱりいい。


「おお、免震構造だって!」


 近ごろ漢字にも強くなった麻友が感動(半分は読めた感動なんだけど)して指さす。


「なるほど……お社ごと免振装置の上に乗っかってるんだねえ」


「地震の時には、ここに来ればいいね!」


「なんか、いかにも安産に向いてますって感じ!」


 嬉しくなって、遠足か修学旅行かってノリになってしまう。


「あ、ご挨拶忘れてるよ!」


「「「ああ!?」」」


 もういちど鳥居の外に出てお辞儀のし直し。


 石畳は神さまの道なので、端っこを歩いて、手水舎で手を洗って拝殿で二礼二拍手一礼。


 明神さまのお参りで慣れているので、四人きちんとできました。


 子宝犬ってブロンズがある。


 母犬に子犬がじゃれてる周りに、十二支のお饅頭みたいなデッパリがあって、自分の干支を撫でておくと効くらしい。


 安産だけではなく『無事成長』ってのもあるんで、美枝以外の三人も自分の成長を祈ってスリスリ。


「ほんとうは御祈祷とかもしてもらいたいんだけどね……」


 サバサバした美枝だけど、やっぱ制服姿で安産祈願は腰が引けるらしく、安産のお守りだけをゲット。


 巫女さんは、ニコニコとお守りを渡してくれたけど、女子高生四人のお参り……どう思ったかな?


 いやいや、日本の神さまは懐が深い。安心しよう。



「おや、先ほどの……」



 タクシーに乗ったら、偶然来た時と同じタクシー。


 でも、運転手の小父さんは、それ以上余計なことを言わずに運転してくれる。


「はい、お待ちどうさま」


 降りる時に、運転手さんのプロフ(運転手席の後ろにあるやつ)を見ると。


 え?


 運転手の名前は『平将門』とあった。


 ま、まさかね(^_^;)。



 楽しい安産祈願になったけど、このままうまくいくだろうか……不安がよぎるけど、美枝の幸せそうな顔。


 取りあえずは、おめでとう!



 だけど、予感は、あくる日には現実になってしまった。


「親が秋からアメリカの高校に行けっていうの!」


 昨日とは打って変わって、泣きそうな顔で言ってきた。


「どういうことよ!?」


 ゆかりが、目を吊り上げる。


「それが……」

「それが、どうしたの!?」


「三人に言ってしまったって言ったら、それは漏れる可能性が高い。漏れてからでは逃げるみたいでゲンが悪い。幸いアメリカは9月から新学年。向こうは学校に託児所まである。卒業までは、そうしなさい」


 と、言われたまんまぶちまけた。


 言われたあたしたちは頭から信用されてないみたいで気分が悪い。麻友なんかはユデダコみたいになって怒って叫んだけど、スペイン語なのでよく分からない。


 ゆかりが、静かに言った。


「あたしたちのつきあいは、そんなもんじゃまいでしょ……そう言うご両親も情けないけど、それを、そのまま聞いてきて一言も言えないで、あたしたちに言う美枝も美枝だと思うよ」


「これは、新しい命を授かるための神様からの試練よ。美枝自身が決めなきゃ仕方がないわよ」


 深呼吸を十回くらいやった麻友は、やっと日本語でカトリックらしいことを言う。


 美枝は怒るし、麻友は神父さんみたいに浮世離れしてしまうし、AKRのレッスンの時間は迫ってくるし。


「分かった、あたしがお父さんとお母さんを説得してやる!」


 口先女の悪いクセが出てしまった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ