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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
91/109

91〔金の心〕

明神男坂のぼりたい


91〔金の心〕 




 こんな夢を見た。



 どういうわけか、学校のプールサイドをグルグル歩いている。


 プールサイドにもプールの中にも誰も居ない。だけど学校の水着を着てるから授業なのかもしれない。


 何周か歩いていると、かすかにみんなの声やら宇賀先生の声が聞こえ始める。


 やっぱり授業中。あたしってば授業中に、ひとりウロウロしてるんだ。


 あたしが一人勝手にウロウロしていても、だれもなんにも言わない。


 シカト……とじゃない。


 みんな、あたしの存在に気づこうともしない。



 そのうち、胸がモゾモゾ(ドキドキじゃない)してきて、あろうことか、水着を通して自分の心がヌメヌメと出てくる。


 え……ええ?


 受け止めた手の上でプルンプルン。プルンプルンなんだけど、金色に輝いてる。だからうろたえながらも、なんか凄いと思った。


「うわあ、あたしの心は金でできてる!」


 ひとりで喜んでいたら、その金の心が手を滑って落ちてしまった。


 ポチャン


「あっ!?」


 金の心は、どんどんプールの底に落ちていって見えなくなってしまう。


 なぜかプールのそこだけが深くなっていて、暗く見える。


「先生、心を落としました!」


 そう言っても、先生はチラ見しただけでシカト。クラスのみんなは見向きもしない。


「ああ、心が、あたしの心が……」


 いつもだったら平気で飛び込めるプールなんだけど、プールのそこには大きな穴が開いていて底が見えない。心は、その穴の中に潜り込んでしまったみたい。


「ああ……どうしよう、どうしよう……」


 オロオロしてるうちに、プールの穴の中からヴィーナスみたいな女神さまが現れた。


「明日香さん。いま、このプールに心を落としたでしょう? 明日香さんが落としたのは、鉄の心? 銀の心? それとも金…………メッキの心?」


 これって、なんかに似てるんだけど、ちょっとちがう。金は金で、金メッキなんかじゃない。だから、あたしは正直に答えた。


「三つとも違います。落としたのは金の心です!」


「あら、そう?」


「はい、生まれたての赤ちゃんみたいにグニャグニャなんだけど、ピカピカ金色に輝く心です」


「困ったわね。落ちてきたのは、この三つしかないのよ」


「だけど、ちがいます」


「でもね……」



「あたし、自分で探します!」



 そう言って、水に飛び込もうとしたら止められた。



「そのままの格好で飛び込んでも、ここは、ただのプールよ。あの底の穴にはたどりつけない」


「どうしたらいいんですか?」


「裸になりなさい」


「……裸みたいなもんですけど」


「ダメ、水着を着ていてはたどり着けないわ。それ脱がなくっちゃ」


 そう言えば、女神様はスッポンポン。微妙なところは、ごく自然に手で隠してる。


 ……うう、どうせみんなシカトしてるんだ!


 そう思って、あたしは裸になった。


「え!、あすかスッポンポン!」

「ヘアヌードだ!」

「鈴木さん、裸になっちゃダメでしょ!」


 そんな声が聞こえてきたけど、あたしは構わずにプールに飛び込んだ。


 ドボーン!


 いったん顔を出して精一杯肺に空気を溜めると、穴を目指して潜り込む。


 ムグググ……


 もう少しで穴の中というところで、なんだか怖なってきて、なかなか進めない。


 く、くそ……!


 やっとの思いで穴に入ろうとすると、妙な抵抗感。それも、なんとか突き破って中に入ると、真っ暗で先が見えない。だんだん息が苦しくなってくる。


――だめだ、もう、もたない!――



 そこで目が覚めた。



 気づくと、お饅頭の入ったビニール袋を握っている。


 ああ……さつきが試供品とか言って持って帰ったんだっけ。


 振り返ると、もう、さつきの姿は無かった。


 そうなんだ、この頃は、仕込みの段階からやってるって言ってた。


 出雲阿国が加わって、なんだか近ごろ、さらに生き生きしてる。


 そういやあ、見事なスッポンポンに目を奪われてたけど、あの女神様、さつきに似ていたかも。



 ゆかりからメールが来ていた。



―― 美枝のことは、心配いりません。なんとかまとまりつつあります。アスカは自分のことに集中して ――



 カーテンを開けると、台風一過の上天気、ちょっと寂しい心は押し殺して、AKRの鬼のレッスンに出かけた。

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