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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
85/109

85〔カヨちゃん〕

明神男坂のぼりたい


85〔カヨちゃん〕 


      



 正直きつい、最初の山だと思う。


 なにがって? AKRと学校の両立。

 

 あたしは、アイドルになりたくってAKRに入ったわけやじゃない。なんというか、その場その場の「負けられるか!」って気持ちで、ここまで来てしまった。


 一週間たって、そのへんのオメデタイところがシンドサになって表れてきた。


 責任の半分はさつきのせい。


 知らない人のために解説。


 さつきとは神田明神の平将門さんの娘で五月姫のこと。


 この春から、あたしの心の中に居候してる、大きな声では言えないけども怨霊のカテゴリーに入る女の子。世間的には滝夜叉姫で通ってる。気まぐれなやつで、最近はだんご屋のバイトをやっていて何日も存在を感じないときと、ウザイほどにしゃしゃり出るときがある。AKRのオーディションの自由課題の時に出てきて、心の隙間から呟いて派手に東京音頭をやらせた。で、どうやら女子高生と東京音頭のギャップが決め手になったらしいんだよ。


 他の子は、アイドルまっしぐら。レッスンはきついけど、みんな嬉々としてやってる。やっぱりちがうんだよねえ……そう思ってるうちは、まだメンバーの友達はいなかった。


「鈴木明日香さん?」


 くたびれ果てて、中央通を南に歩いてるところを後ろから声をかけられた。


「はい……」

「ハハ、やっぱり、あたしのことは覚えてないか?」


 その子は、うちの後ろを自転車押しながら歩いてた。



「ごめん。物覚えの悪いたちで」

「白石佳代子。佐藤さんのあとだったのよオーディション。東京音頭のあとだったからやりにくかったわ」


 そう言いながら、顔は笑ってる。


「アスカって呼んでいいかしら? あたしのことはカヨでいいから」

「えと、じゃあ、カヨちゃんでいい?」

「え、あたしだけちゃん付け?」

「単なるゴロ。カヨちゃんの方が言いやすい。アスカはちゃん付けたら、微妙に長い」

「じゃ、アスカ」

「なにカヨちゃん?」


 女子高生のいいところは、呼び方がしっくりいっただけで、メッチャ距離が縮まるとこ。


「アスカは、おもしろいアイドルになると思うよ」

「ありがとう。あたし正直バテかけてるから」

「アスカは、負けん気あるけど欲がないからね」


「え?」


 カヨちゃんの的確な言葉にびっくりした。


「カヨちゃんて、どこの子?」

「中央通の西ひとつ入ったとこ」

「え、ジャンク通り? アキバの地元?」

「うん、ちっこい電子部品屋の娘。最近は、ネット通販とオタクに食われて客足ばったりだけどね」

「ネット販売はやってないの?」

「やってるよ。売り上げの半分はネット。だけど、先は見えてる。オタクに食われてんだったら、オタクを食ってやろうと思ってAKR受けたの。スタジオまで自転車で通えるし、ジャンク通りからアイドル出たら絶対ウケルし!」


 そこで思い出した。カヨちゃんは、あたしの後でお腹に響くようなゴスペル歌ってた子だ。


「そだ、思い出した。あのごっついゴスペル……カヨちゃんだったんだ!」

「アスカの東京音頭ほどじゃないけど」

「ううん、なんか憑物がついたみたいだった」

「ハハ……ほんとに憑いてるって言ったらびっくりする?」

「……それは」


 言葉に詰まった。なんせ、あたしがそうだから。


「あたし、出雲阿国いずものおくにが付いてんの。あんたは?」


「五月姫……」


「え?」


「あ、ちょっとマイナーっぽいかな。平将門の娘で滝夜叉姫って言うんだ(だんご屋のバイトは伏せた)」


「ちょっとググってみるね……ちょっと自転車お願い」


「え、あ、うん(^_^;)」


「え……別名滝夜叉姫……これって、怨霊(;'∀')?」


「えと、最後は浄化されてっから(^_^;)」


「ああ……なるほど、よさげな画像もあるねえ」


「ちょっとわがままなとこあるけどね」

「ああ、分かるう、いっしょいっしょ!」


 この飛躍した共感は、互いに憑物が憑いてる者同士の嗅覚からだと思う。


 プツン


 その時、あたしの靴の紐が切れた。


「あ、切れちゃった」


 その場にしゃがんで、切れた紐をつなぎ直し、カヨちゃんは自転車止めて付き合ってくれた。



 キキキーーーー!! ドン! ドドン!



 そのとき、後ろから来たRV車が、歩道に乗り上げて、あたしたちのすぐ前を通って、通行人を次々に跳ね飛ばしていった!

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