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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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81〔麻衣とあたしの意外な展開〕

明神男坂のぼりたい


81〔麻衣とあたしの意外な展開〕 


      



「あたし、テレビ局」


 麻衣が涼しい顔で言う。


 まるで、ユニクロのバーゲンで、お目当てのバーゲン品掴んだみたいな気楽さだった。


 この土日は、みんなオープンキャンパスとかの下見に行った子が多いようで、朝から「どこいった?」いうような話題に花が咲いてた。しかし、所詮は二年の一学期。そんな切迫感はないけど、その分新しいテーマパークに行ってきたような無邪気な興奮があった。


 美枝とゆかりは同じ大学の経営学部。これは手堅いOL志向……と言っていいのか、適当に余白を持ちながら実質フリーハンドで二十代を生きていこという、手堅いともお気楽とも言える進路選択。


 だいたいが学校や自宅から歩いて行けたり、定期で行ける範囲。とりあえずは、オープンキャンパスが珍しくって行ったというのが多い。一見意識高い系に見えるけど、学校の進路指導の成果だろうね。学校のミドルネームのグローバルは伊達じゃないってとこかな。


 そんな中で、あたしと麻友だけが毛色が違う。むろんAKRのオーディションに行ったなんて言わない。成り行きで受けたオーディションだし、そのときは「負けるか!」いう気持ち満々だったけど、思い返せば、その場の空気。行列があったら、とりあえず並んでみようというJKの好奇心。並んで間に合ったら、とりあえず、それで満足。バーゲンなんかでは、このノリで、いらないものを買って後悔することが多い。


 それに特技でやった東京音頭はウケたけど、アイドルの特性からはズレてる。ファッションショーで、円周率を、とめどなく言いながら歩いたようなもので、人はおかしがったり珍しがったりはするけど、ファッションの評価にならないのといっしょ。それに、あれをやらせたのは、だんご屋のバイト休んで付いてきたさつき。それもただのイチビリ。とても人には言えないよ。だから人には「どこにも行ってないよ」と答える。


 麻友も同様。テレビ局というのは学校じゃないからオープンキャンパスはやってない。大学生向けの就職見学に紛れて遊んでいたらしいし。


 例外は、他にもいた。ワールドカップをずっと見続けてた男子。もうサムライジャパンは負けたんだからと思うんだけど、当人同士は真剣で、外国同士の試合でも熱が入って、とうとうケンカになった(^_^;)。

 高二にもなってガキっぽいと思っていたら、手が出始めた。委員長の安室くんが止めようと立ち上がりかけたところに、麻友がすごい剣幕で二人の男子を罵りはじめた。どのくらいの剣幕かというと、日本語とちがってスペイン語で、身振りも完全なラテン系、最後は仕上げに二人をはり倒して教室を出ていった。


「どうしちゃったの、麻友?」


 麻友は水飲み場で頭から水を被っていた。アニメだったら猛烈な湯気のエフェクト入れるところだろうと思うぐらいに凄かった。


 誰かが職員室に言いに行ったので、ガンダムが飛んできた。


「いったい、何があったんだ!?」


「なんにもありません。ただ、サッカーのことぐらいでケンカしてる男子のバカさかげんが我慢できなかっただけです」


 水浸しになった麻友はブラウスまで水びちゃで、ブラジャーが透けて見える状態だった。南ラファがバスタオル持ってきて、やっと自分の姿に気がついたみたいで、女の子らしく顔を赤くしていた。


 麻友は、ただのイチビリや隠れヤンチャクレとはちがう。なにか心に傷を持ってるんだと感じた。だけど、軽々しく聞けるものでもないと思った。


 麻衣の展開でびっくりして、その日の学校は終わったけど、家に帰ったらあたしの番だった。



 AKRのオーディションに合格してしまった……!

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