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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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80〔オーディション〕

明神男坂のぼりたい


80〔オーディション〕 


        

    


 100人ほども居る!


 AKR47のレッスン室前の廊下から、突き当りの階段の踊り場までちっこい折り畳みの椅子が並んでて、その椅子と同じ数だけの女の子が、お喋りもしないで行儀よく座っているのは奇観だった。


 ざっと見渡して、あたしより年上は、ほとんど居ない。中には、どう見ても小学生という子もいて、ティーンの女の子の見本市。


 これは三つ前の77の話を読んでもらったら分かるんだけど、お父さんとお母さんがガンダムに言われてやった、オープンキャンパスの申し込みに紛れてた一つ。


 今はパソコン一つでなんでもできる。「高校生進路」で検索して、あっちこっちに申し込んだ中の一つ。犯人はお父さん。進路希望を「演劇関係」と書いたもんだから、AKRだったら手っ取り早いし、書類選考に残るかどうかで、可能性も分かるという、オッサンらしい浅はかさ。


 けれど、書類選考に残ったということは、書類上とは言え、勝負に勝ったいうこと。応募は2800人もいたと言う話だから、2700人は蹴倒したことになる。あたしの頭脳回路では、これを受けなかったら「もったいない」という七文字の単語に行きつく。



 で、後先も考えないで実技選考オーディションに来たというわけ。



 自分で見えるとこを見渡しても、絶世の美少女から、吉本受けたほうがいいのにという子まで居て、見ばの点では、あたしは平均どころ? この中から最高でも20人しか合格できない。あたしは、その倍率だけで燃えてきた。


 AKRのオーディションは「動きやすい服装」とあるだけで、なんにも書いてない。チノパンにTシャツいう子が多かったけど、中には宝塚と間違ってレオタードいう子もいる。あたしは学校のジャージとTシャツ。なんせ家から15分のとこだから、近所をジョギングするようなナリになる。


 課題は「当日会場で発表」とあるだけで、なんにも書いてなかった。さすがに東京屈指のアイドルグループだけのことはある。


 五人ずつが会場に呼ばれる。あたしは八番目の席にいるから、第二グループになる。


「これって、なんの順番ですか?」


 つい、いらんことを聞いてしまう。


「コンピューターが無作為に選んだだけ。先着順いうのも面白くないからね」


 担当のおにいさんは、いいかげんな返事をして、最初の5人を中に入れた。二十分ほどしてその子らが出てきて入れ違いにあたしらが呼ばれる。



 八番だから、てっきり三番目かと思ってたら、のっけに呼ばれた。



「志望理由はなんですか?」


 いきなり聞かれた。


 相手に気持ちの準備をさせずに、生の姿を見ようという、この業界らしい対応の仕方。だから考えずに応えた。


「負けたくないからです」


「何に負けたくないのかな?」


「全てです。オーディション受けてる仲間にも、オーディションの先生たちにも、周りの期待からも、日本中のアイドルグループにも……そしてで自分にも」


 あたしは、演劇部のエチュードで課題をふられたノリになっていた。難しくは役の肉体化という。あたしは典型的なオーディション受験者という役を与えられて、それを即興でやってる感じ。なんだか自分の一生が、この一瞬にかかってるような気になっていた。あたしは世界で一番のオーディション受験者!


「じゃ、課題の歌唱テストいきます。どうぞ」


 質問は、この一つで、すぐに一曲歌わされた。条件はAKRグループの曲であること。これはチョロかった……けど、後になったら、なに歌ったのか忘れてしまった。


 次が戸惑った。


「なにか得意なことを一分間で見せてください」


「あ、えと……」


 この一瞬の戸惑いの隙を狙ったようにさつきがしゃしゃり出て、勝手に「東京音頭!」と言わせる。


「東京音頭!やります」の「ます」では、もう体がリズムを取っている。


 は~あ~ 踊り踊るな~ら ちょいと東京音頭 よいよい♪


 石神井の盆踊りで憶えたフリが自然に出てくるんだけど、オーディションで東京音頭はあり得ねえ!


 さつき、だんご屋のバイトはどうした!?


 花の都~の 花の都の真ん中で や~っとな それ よいよいよい(^^♪


 オーディションの先生たちも、すぐにノッて手拍子。ギターとパーカッションのニイチャンが合わせてくれて、なんと3分もやってしまった!

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