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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
78/109

とりあえずは……

明神男坂のぼりたい


78〔とりあえずは……〕 


        



 今日から水泳の授業が始まる( ゜Д゜)!


 ビックリマークが付いてんのは、あたしが忘れていて、昨日の終礼でガンダムが念押ししたので思い出したから。


 進路もそうだったけど、あたしは、どうも『その時その時少女』だ。先のこと考えて計画たてたり行動すんのが苦手。毎日毎日を精一杯生きてるんで、先のことを考える余裕がない。


 とうのは言い訳で、ただ計画性が無いだけと、ガンダムもお母さんも言う。お父さんは、そういうとこ含めて、明日香の面白さだと言ってくれる。だけどお母さんは「あんたも一緒だから、自己弁護の変化球に過ぎない」と手厳しい。


 で、昨夜は一騒ぎだった。


 水着なんかはすぐに見つかったんだけど、アンダーショーツが見つからない。


「もう、去年の最後の水泳が終わった後、ちゃんとしとかないからでしょ!」


 一時は、アンダーヘアーの処理まで考えたけど、さつきに笑われそうなので根性入れて探す。


 けっきょく二十分ほど探しまくって、Tシャツやらカットソーが入ってる衣装ケースの中から出てきた。で、後片付けが大変だった。父親譲りの始末の悪さって、お母さんが言うと、お父さんが抗議。


「おれは、どこになにがあるか、分かってる!」


 で、いらんところで夫婦喧嘩になりかけ。確かにお父さんは雑然としてるようで、モノを無くしたとは、あんまり言わない。しかし、お母さんは「後始末が悪い」というくくり方なので、お父さんの機能性のある雑然さは認めない。


 なんで、この二人が夫婦になったか、よく分からない。だけど、その結果あたしがいるわけで、この不条理はそのまま受け入れることにする(^_^;)。




 更衣室でびっくりした!




 女子同士でも着替える時は、できるだけ人に肌が見えないように着替える。


 ところが、ブラジルからの転校生新垣麻友は日ごろの清楚さからは想像もつかない着替え方。更衣室へいくと着てるものみんな脱いで素っ裸になってから、おもむろに水着を出し、それから鏡を見て、自分の体を点検しながら水着に着替える。


「みんなの方が変よ」


 と、麻友は言う。見かけは大和撫子だけど、この子の中身はラテン系だということがよく分かった。で、悔しいことに、プロポーションも肌の色艶も断然いい。


「背中に羽根飾りとか付けてリオのカーニバルなんか出たら、似合うだろうね」


「うん、今年の渋谷カーニバルには出るから、観に来てよ!」


 と、アッケラカ~ン。美枝が義理のお兄ちゃんと結婚したいというのにもびっくりだけど、麻友のぶっ飛び方も、なかなかのもんだ。


 あたしらが、ノロノロ着替えてるうちに、麻友はストレッチすまして、さっさとプールへ。ノソノソ着替えたころには派手にプールに飛び込む音が聞こえた。


「すごい……」


 麻友は、プールの半分ぐらいまで潜水で泳いで、見事なクロール。ターンしてバタフライ。


 そこにガンダムが来た。


「誰だあ、許可もなしに先に泳いでるやつは!?」

「あ、はい、あたしでーす(^▽^)/」


 水からジャンプして手を挙げて、まるで水着のCM、にっこり笑うところは歯磨きのCM。


 ちょっと説明。


 ほんとは、うちの体育は、宇賀先生が担当。でも、怪我がまだ治らないので、今週いっぱいはガンダムが代行。あたしらは平気だけど、中には嫌がってる子もいるんだ。


 この嫌がり方も二通りで、先生とはいえ水着姿を男の前で晒すのに抵抗がある子と、ガンダムのマッチョな体が耐えられないという子。


 今日は水泳の初日だったので、水に慣れることがテーマ。


 入念にストレッチやったあと、足からゆっくりと水につかって、上半身に十分水かけて心臓を慣らす。そして25メートル、プールの端から端までを歩いたあと、ゆっくりと平泳ぎやったとこで時間切れ。


 この授業では収穫があった。


 麻友のラテンぶりに帰国子女の南ラファが好感持ってお友達になったんだ。ラファは小学校のころに日本に来たので、日本のやり方になじんでるけど、自分の感性に近い子を見つけられてうれしいみたい。


 ラファは副委員長もやってて、お仲間も多い。あたしたちだけじゃなくて、友達が増えたらいいと思ってたからね。


 見上げた空は梅雨の中休み。早くも積乱雲がムックムク。なかなかのプール開きではありましたぞ。

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