57〔フラレてしまった!!〕
明神男坂のぼりたい
57〔フラレてしまった!!〕
フラレてしまった!!
と、騒ぎ立てるのは早いかと思うけど。感覚的には、まさにフラレた(;゜Д゜)。
ちなみに、あたしは今日で17歳になる。平成17年5月2日、金曜日、午後3:05に、あたしは石神井の病院で呱々の声(産声を格好良う言うと、こないなる)をあげた。
なんで、こんなに詳しく生まれた曜日やら時間を知ってるかというと、頭がいいから……ではなく、折に触れてお父さんが言うから。
この日は、6時間目体育館で学年集会をやっていて、それが3:05分に終わって、教室で終礼しなくちゃならないから、トロトロ歩いてる生徒に「早く出ろ、はやく出て教室戻れ!」て怒鳴っていたから。
なんせ、終礼を早やくしないと掃除当番がフケてさっさと帰ってしまう。で……「早く出ろ!」と叫んでる時に、あたしはお母さんのお腹から出てきた。それが面白いのか、なにかにつけて、お父さんが言うので、覚えてしまった。
ほんとうは、今日の放課後でも関根先輩が「マクドでも行こうか?」と言って、ささやかにマックシェ-クかなんかで「誕生日おめでとう」と言ってくれたら、あたしは、それ以上のことは望まない。
誕生日は、こないだメールでさりげに教えてあるし。なんか言ってくるんだったら、夕べのうちだろうと日付がかわるまで、スマホ前に置いて待っていた。
だけど、電話はおろかメールもこない。
で、かねて用意のデートの申込みを送信した(#´艸`#)。
コースは決めていた。悔しいけど、かねがねお父さんに教えてももろてたデートコース。いくつも教えてもらったけど、静かにゆっくりをコンセプトに選んだ。
連休は、どこにいっても人いっぱい。それがめったに人がこない絶好のスポット……て、別に飛躍したやらしいことは考えてません。念のため。
どんなコースなんだ?
さつきが聞くけど教えません。ぜったい冷やかすもんね。
そんなことはないぞ(* ´艸`)。
「ほら、もう笑ってるし!」
コースの情報添付してメールを送った「もし良かったら、連休のいつでも」と、メッセ。遠慮してるようで、がっついてるかなあ……迷いはあったけど、エイっと送信ボタンを押す。
で、1分で返事が返ってきた。
―― ごめん、部活と美保との約束があって、一日も空いてない ――
これはないだろ。
断られるのは半分覚悟してた。だけど、わざわざ「美保との約束」……ヤケドに辛子塗るような答えしなくてもいいじゃんか。
鴨居に掛けといたデート用のスカートとカットソー(こないだアマゾンで買ったやつ)を仕舞って、布団被って寝た。どす黒い後悔が胸の中を蛇みたいにクネクネして、なかなか寝付けなかった。
「明日香、誕生日だな、おめでとう」
学校で、担任のガンダムに言われた。
嬉しいよりもキショクワルイ。
なんで何人もいてる女生徒の中で、あたしの誕生日覚えてんの!? それが表情に出たんだろ、ガンダムは付け足した。
「クラス持つときに調査書見たら、俺と誕生日いっしょだったから覚えてしまった」
「ほとですか!? で、なんかパーティーとか、奥さんとデートとか?」
「この歳なって、そんなものしてもらえると思うか? もしやりやがったら、なんか下心あるんじゃねえかと疑ってしまうぞ」
なんとも味気ない返事。
一日凹んだままで、帰りの外堀通り。
ポロンと音がしてメールが入った。
―― 誕生日おめでとう。学 ――
え? ええ!?
心臓が口から出そうだった。で、道の向かいに気配。
!!?
関根先輩が手を振ってくれてる!
あたしはジャンプして、思い切り手を振った!
すると――あっちあっち――と進行方向の横断歩道を指さす。
え? え?
急ぎ足で行くと、ちょうど青になって、先輩が渡って来る。
「地元のものでなんだけど、誕生祝」
そう言って、見覚えのあるナメクジ巴の包み紙『名代 明神団子』のロゴ。
「じゃな、学校戻るわ」
青信号が点滅して先輩は戻っていった。
こんなに明神団子を愛しく思ったことはない。
今度はさつきに食べられないように!
固く決心!
家に帰って開けてみると、明神さまの『開運』のお守りが入っていた。
『恋愛成就』のお守りだったら、もっと良かったのにね。
思ったら、さっそくお団子が一つ消えた。
明神さまの娘は油断がならない。




