55〔ガンダム式遠足〕
明神男坂のぼりたい
55〔ガンダム式遠足〕
学校の連休はカレンダー通り。
だから、今日みたいな日曜と昭和の日の間の月曜も学校がある。
こんなのテンション下がって勉強にならない。学年の始めは思ったけど。今日は遠足……もとい、校外学習。
一年の時はバスを連ねて奥多摩で飯ごう炊さんだった。あれはダルイ。240人でやってもおもしろくない。ああいうのは気の合ったもの同士で個人的にやるから面白い。
しかし、たいていの学校は集団行動訓練ということで、昔の軍隊みたいなことを平気でやらせる。
民主教育はどこに行ったんだ! ちょっと屁理屈。
屁理屈言ってみたくなるくらいにつまらない。作るものは、最初からカレーライスと決まっていて、材料も炊飯用具もみんな貸してもらえる。これって手間かからないようで邪魔くさい。今はレトルトでいいのが、いくらでもある。ご飯用意して、かけたらしまいなんだけど、タマネギ刻んで炒めるとこからやらくちゃならない。目にはしみるし、手についたタマネギの臭いは抜けないし、鍋と飯盒の後始末大変だったし。
ところが二年になると、クラス毎に好きなところに行ける!
やったー(^▽^)/
だけど、うちのクラスはガンダムが勝手に決めちまった。
一応決はとるけど、こんな感じ。
「……ということで、異議のある者は居ないな。では、これで決定!」
で、あたしらは、桜木町の駅で降りて山手を目指す。隣の二組は港を目指して山下公園。
「あんなものは中学生までだ。高校生らしいコースでいこう!」
ガンダムの指揮で、あたしは横浜異人館街を目指す。山下公園とどないちゃうねん……そう思ったけど、ガンダムの目論見は違った。
「ホー」
「イヤー」
「すごいね!」
と呟きながら、あたしらは途中の道でヒソヒソと歓声をあげた。
歓声いうのは、大きな声で言うもんだけど、ここではヒソヒソになる。
なぜって、周りは……ラブホで一杯!
ガンダムは、黙々と先頭を歩いている。
「これは、実地教育だね」
中尾美枝が言う。
「できたら、中も見学したいね」
顔に似合わん伊藤ゆかりが大胆なことを言う。
異人館街に着いたら、ガンダムが短く注意。
「おまえら三年もしたら大人だ。だから大人のデートコースを選んだ。特に何を見ろとは言わん。これから各館共通のチケットと昼食代渡す。好きなところを回って好きなもん食べてこい。じゃあな、せいぜい勉強してこい!」
副担任の福井先生と二人で手際よく配る。これから二時まで自由行動。
あたしらイチビリ三人娘は、さっきのラブホ街に行って、社会見学。美枝は休憩とお泊まりの値段をチェック。
「やっぱり、横浜のラブホはオシャレだねえ」
「わ、ここお泊まりで二万円もするよ!」
「きっとスゥイートなんだろうねえ」
そこにクラスの男子が四人やって来た。
「惜しいなあ、三人だったら、ちょうど人数合ったのに!」
美枝が大きな声で言うと、男子はきまり悪そうに行ってしまった。
外観をみてるだけやから二十分ほどでおしまい。あたしらも異人館に入った。
異人館には、それぞれエピソードがある。
ある異人館は、ドイツのお医者さんが住んでいて、戦争中も留まって、空襲で怪我をした人らの手当をしてた。だけど、二十年の五月にドイツが降伏すると、日本は、このドイツ人のお医者さんを家族ぐるみ軟禁した。ちょっと日本人の嫌なとこを見た気がした。
「あ、この話って『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で、はるかのお母さんがエッセーにした内容だと思うわ」
ゆかりが、そう言ってアマゾンの書籍をチェック。
「840円……中古だと1円」
お昼食べて集合したら、みんなで港の見える丘公園に行った。
螺旋階段付きの歩道橋がある。ここに来るのはちょっとしたハイキングだったけど、着いたらロケーションはバッチリやった。
「ここは、夜景がすばらしい」
ガンダムが短い解説。
「ちょっと前までは、ここの手すりに愛のあかしに鍵かけるのが流行った。今は、向こうに専用の鍵かけがあるからな。マナーは守らなくっちゃならない」
「先生、なにか思い出あるんじゃないですか?」
美枝が言う前に、あたしが聞いてやった。
「ああ、カミサン口説いたんがここだ」
「ウワー!」と、三人娘。
いつか関根先輩と来てみたいと思ったぞ。




