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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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54〔ミスドの誓い団子の迷い〕

明神男坂のぼりたい


54〔ミスドの誓い団子の迷い〕 


       


 連休初日、図書館に行った。


 千代田区の図書館は三つあるんだけども、それとは別にまちかど図書館というのがある。学校の図書館と併設になっていて、規模は小さいんだけど利用しやすい。蔵書になくっても、他の大きい図書館から取り寄せてもらえるので、子どものころから利用している。


 この連休は、特別に出かける予定もなかったから、図書館で本を借りることにしたんだ。ま、タダで借りられるし、なんか飛び込みで予定入ったら、それはそれ。


 で、思いもしなかったものに遭遇してしまった。


 本ではなくて。


 田辺美保……あたしの恋敵。気がついたのは向こうの方から。



「あ、明日香じゃん」



 新刊書のコーナー見ていたら、声がかかった。



 美保先輩は、美人でスタイルもよくってファッションの感覚も良くって、セミロングの髪をフワーっとさせて、ナニゲニ掻き上げると、いい匂いがして、同性のあたしでも、クラっとくる。



「本借りにきたの?」

「う、うん。久々に」

「いっしょね。この連休特に予定ないから」



 同じようなことを言う。



「この本面白いよ。ちょうど返すとこ、あんた借りてみない?」


 差し出された本のタイトルは『ループ少女』


「ちょっとホラーなんだけど、始業式に教室から講堂に行く途中で、気を失って、気がついたら石で囲まれた部屋で寝かされてて、ドアに張り紙。数式が書いてあって。それが謎でね、それができたら……アハハ、解説したらネタバレしちゃうよね。ま、よかったら借りてみて」


 美保先輩のお勧めが面白いこともあったけど、あたしは、どこかで美保先輩とは決着つけなくっちゃと思ってたから『ループ少女』と、あと二冊借りた。


「ちょっと話そうか」


 カウンターで手続き終わったら、意外なほどの近さで美保先輩が言う。なんのテライも敵愾心もない顔だったので付いてて行く。


「あ、こんなところに神社」


 もうちょっとで本郷通というところで小さな神社に出くわす。


「知らなかった?」


「あ、うん。ここいらは図書館の他には来ないから」


 なんせ、神田明神の足元に住んでる。神社というと、もう神田明神と同義で、他の神社に寄ることってめったにない。


 それに、生活圏からも微妙に外れてるしね。


 ガラガラ振って手を合わせる。



「……なんの、お願いしたの?」

「なるようになりますように……」

「アハ、へんなお願いね(^o^)」



 ちょっとバカにされたような気がした。だけど美保先輩の顔には、相変わらずクッタクがない。



「あたしがフラレても、先輩が……その」

「フラレても?」

「ええ、まあ……だれも傷つきませんように」

「……ちょっと虫がよすぎるなあ」

「あ、すんません」

「さっきの本ね。扉は無数にあってね。生徒も無数に居てるの。で、数式はA-B=1……つまり、みんなで殺し合いやって、最後の一人になれたら助かるいう話」

「なんか、バトルロワイヤルですね」

「結末は意外だけど、言わないね。ただ、だれも傷つかないのは、無理だと思う。明日香、自分が学にフラレて平気でおれる?」

「分からないけど……だけど、美保先輩だったら負けても納得はいくと思います」

「ありがと。だけど、それは明日香の『負けてもともと』と言う弱気からだと思うよ。傷つくの覚悟でかかっておいで」

「うん……お神籤ひきませんか?」

「ようし、いいお神籤引いたほうが、マクドかミスド奢る。これでどう!?」

「セットメニュー除外言うことで!」


 で、引いてみたら、二人仲良く中吉。ワリカンでミスドに行った。


「学に夜這いかけたんだって?」

「え、知ってるんですか!?」

「学は、言ってないよ。あのときたまたまチャリで近く通ったから。正直、あの状況だけでは確信もてなかったけど、今の返事でビンゴ」

「あ、あれは(さつきのせいとは言えない)……」

「あれは未遂だった?」

「う、うん……」

「だよね。だけど、いいライバルだと思った。あたしも諦めたわけやないから、まあ、せいぜいがんばろっか」

「うん!」

「いい返事。ついでに言っとくけど、この連休は学との予定は無し。あいつも悩んでる。この連休はそっとしとこ。抜け駆けなしね。ほれ、指切り」


「ハ、ハイ」


 明るく指切り。


 どんな結果になっても、美保先輩とは、いい友達でいたいと思った。



 ちょっと美保先輩のペースに流された? いい友だちでいたいなんて?



 帰り道、一人で歩いていると、微妙に『してやられた感』に攻め苛まれる。


 感覚的には二三歩リードした感じでいたのに、なんだか五分五分に引き戻された感じ。


 ううん、美保先輩の方が、勢いとしてリードしてる。


 それに、よその神社でお願いなんかして。なんだか、神田明神さまにも浮気したみたいな。


 久々に、お団子を買って帰る。


「あら、元気ないわねえ」


 おばちゃんに顔色よまれて「ううん、なんでも(^_^;)」と、両手をワイパーにしたら三個入りのをオマケしてくれた。


 バイト募集の張り紙に気を引かれるけど、こんな時の決心は後悔するかもと、ため息ついて店を後にする。


 ゲン直しに鳥居を潜って、二礼二拍手一礼。


 お団子を寄進。そんな衝動が湧いてきたけど、大きい方でも六個入り。


 それに、時々、お賽銭は入れてるけど、寄進なんて大仰なことはしたことがない。



 すると、巫女さんが目に留まった。



 ちょうど、掃き掃除が終わって、社務所に戻るところ。


「あら、明日香ちゃん」


「あの、よかったら食べてください。おまけにもらったからおすそ分け」


「あら、いいの?」


「はい、いつも笑顔もらってますから」


 あ、なんか、気障な言い回し。


「ありがとう、ちょうど当番三人だから、みんなでいただくわね(^▽^)」


「ありがとうございます」


「ううん、こちらこそ」


 巫女さんは、社務所に入る時に、もう一度笑顔を向けてくれる。


 その、自然な心遣いが嬉しくって、ちょっと涙ぐんでしまった。



「お、団子ではないか!?」



 巫女さんよりずっと偉いはずのさつきは、団子を見るなり、断りもなくパクつく。


「明日香も食べろよ。神さまといっしょに食べるって、目出度いことなんだぞ」


「う、うん」


 こいつは将門さまの娘ではあるけど、神さまという感じは丸でない。


「だんご屋でバイト募集してるんだな」


「なんで、知ってんの?」


「明日香の顔に書いてある」


「え?」


「いま消えた……いろいろ悩ましい年ごろだよなあ」


「あ、ちょ、それ四つ目!」


「グズグズしてると、全部食っちゃうぞ」


 食われてたまるか!


 慌てて、もう一個口に入れると喉が詰まって死にそうになった。


 

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