48〔ガンダムの怒り〕
明神男坂のぼりたい
48〔ガンダムの怒り〕
新学年の始まりにはいろいろある。
一年のときに書いた健康調査とか住所・電話とか、変更があってもなくても、全員に配られる書類。
たいていの者は変更がないから、新しいクラスと出席番号。あと、簡単な健康上のアンケートをチェックしておしまい。
一年のとき、佐渡君が、この健康アンケートのとこに「ビタミン不足」と書いたのを思い出した。一応健康問題なので、佐渡君は、保健室に呼び出されて詳しく聞かれた。
「佐渡君、君は、なにのビタミンが足りないのかな?」
保健室の先生に聞かれて、佐渡君は、こう答えた。
「はい、ビタミンIです……」
頭の回転の鈍い藤田先生(一年のときの担任)は「ビタミンIって……?」やったけど、保健の先生はすぐに分かった。
「アハハ、佐渡くんは、オチャメな子ねえ(^▽^)」
Iは愛にひっかけていた。気が付いた藤田先生はクラスで言って、みんな明るく笑った。
佐渡君も笑ってたけど、ほんとうは切実だったんだ。
あんなに寂しい死に方をして……。
それから、進路に関する説明会と、早手回しの修学旅行の説明が一時間。「二年は、一番ダレル学年だから、締めてかかれ」と、まだ生活指導部長の名残が消えないガンダムの長話。その間に一年生が発育測定。
で、今日は、あたしたち二年が発育測定。
身長、体重、座高、胸囲、聴力、視力と計る。
クラス毎に最初に計る項目が決まっていて、あとは空いたところを適当に見つけて周っていく。ここで暫定委員長、副委員長の力が試される。空いたとこを要領よく回るのは、この二人の目端にかかっている。
南ララアも安室並平も目端が利くとみえて、わがガンダムクラスは、いちばん早く終わったぞ。
当たり前だったら、教室に戻って、担任が待っていて視力検査やっておしまい。で、チャッチャとやったクラスから早く帰れる。
ところが、教室に戻ると肝心のガンダムが居ない。
まあ、先生も測定係りやってるから、仕方がない。
で、教室のあっちこっちで、スマホをいじりだした。
仲よくなった者同士が番号の交換やったり写真を撮ったり、動画を見たり。
あたしは、ネットで『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読む。この本は、この5月には改訂されて、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で出版される。799円と女子高生の心をくすぐるような値段。買って読もうと思てるんで、比較のためにチョビチョビ読み直してる。
「鈴木さん、あなたラインしないの?」
「え……あれって、ヤギさんの手紙みたいにキリ無くなるから、ちょっとね(^_^;)」
「えらいね!」
ララアが誉めてくれた。
ほんとうは、やりたい相手は居てる……関根先輩。
こないだは、さつきに告白させられてしまったけど、さつきはスマホを知らないから、先輩の番号は聞き損ねた。ララアに誉められるほどイイ子ではないよ。
だけどさ、人の特徴を美点から見ていこいうララアの自然な対応には好感が持てたよ。
それから5分ほどして、校内放送が入った。
ピンポンパ~ン
「ただ今より、臨時の全校集会をやります。生徒は、至急体育館に集合しなさい」
体育館にいくと、明日は3年の発育測定だいうのに、測定機材は隅に片づけられていた。
「黙って、チャチャッと座れ!」
まだ生活指導部長の名残が抜けないガンダムが仕切りはじめた。新しい生指部長は黙ってる。ガンダムはなんか怖い顔してるぞ。
みんなが静まったとこで、教頭先生がマイクの前に立った。
「ちょっと事情があって、校長先生がしばらくお休みになられます。その間は、わたしが校長の代理を務めます。いま君たちに言えるのは、そこまでです。なんだか、よく分からんかもしれませんが、先生たちも、いや、その。で……」
あとは、事務的な話。奨学金やら、各種証明書の発行が今日明日はできないような……。
ガンダムの顔が、いよいよ厳しく、大魔神のようになってきた……。




