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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
45/109

45〔御茶ノ水幻想・4〕

明神男坂のぼりたい


45〔御茶ノ水幻想・4〕 


        



「ただいまあ」


「おかえり……」



 めずらしい、お父さんが二階のリビングに居る。


 と、思ったら、もうお昼。


「明日香。生協来たとこだから、パスタの新製品あるよ」

「あ、食べる!」


 あたしは、自分の意志じゃないのに応えてしまった。どうやらさつきがお腹を空かしているらしい。



 レンジでチンして、和風キノコバターとペペロンチーネを二つも食べてしまう。


「ああ! メチャクチャおいしい!」


「明日香が、そんなに美味しそうに食べるのん久々だなあ」

「ああ、育ち盛りだから。アハハ(^_^;)」


 まさか、自分の中でさつきが美味しがってるとは言えない。


「ごちそうさま!」



 自分の部屋に戻ってから、どうしょうかと思った。



「さつき、ずっと、こうしてあたしの中に居る気?」


『仕方ないでしょ。どうやら、この時代では、明日香の中からは出られないみたい』


「だけどねえ……」


『狭いけど、いろいろある部屋ねえ。おお、あの生き写しみたいな絵は明日香ね!』


 馬場先輩に描いてもらった絵に興味。


『うわあ、この絵にはタマシイ籠もってる! ううん……残念なことに、これ描いた男は、明日香のことを絵の対象としか見てない。いや……しかし……まあ、大事にしなさい。何かにつけて明日香の助けになってくれるわよ』


 それは、もう分かってる。


『そこの仕舞そこねた雛人形も大事にしなさいよ。もう少し、この部屋に居たいらしいから。その明日香の絵とも相性良さそうよ』


「分かってる。それより、少しでもいいから、あたしの心から離れてない。落ち着かないよ」


『明日香は依り代だからね……うん? その日本史いう本はなに?』


「ああ、教科書。日本でいちばん難しい日本史の本」


『おもろそうねえ……しかし、日本史という言い方はおかしくない? まるで日本という異国の歴史みたい。日本国の歴史だったら国史でしょうに……』


 さつきが呟くと、心が軽くなったような気がした。


「さつき、さつき姫……」


―― なに? ――


 なんと、山川の詳説日本史の中から声がした。


「さつき、いま教科書の中に居るの!?」


―― あ、そうみたい ――


「大発見。本の中にも入れるじゃん! 本だったら、けっこうあるから、本の中に居てよ!」


―― うん、わたしも興味津々だしね ――


 一安心、のべつ幕なしで心の中におられてはかなわない。


 ベッドにひっくり返ると、スマホを取り出してググってみる。



 さつきひめ ⇒ 五月姫



 おお。


 椿の苗木の名前で出てきた。


 大振りのキッパリした赤い花。


 シャッキリしてて感じがいい。ちょっと好感度があがった。


 スクロールすると、すごい名前が出てきた。



 滝夜叉姫



 え、なにこれ?


 ……平将門の娘、父の無念を晴らすため、毎夜、白装束で鞍馬の貴船神社に通いった。頭にロウソクを括り付け、藁人形を五寸釘で打ち付けて、父を陥れた者たちを呪い続け、ついには、呪力を身に着け、滝夜叉姫となって様々に人を呪い殺し、害をなした。


 え……? 


 丑の刻参りの元祖と言われる。


 ええ!?


 聞いてないんですけど!



『明日香、おまえ、なかなかええ体してるわねえ』


 次に声が聞こえたのは、お風呂に入ってるとき!


「ちょ、教科書の中にいるんじゃないの!?」


『風呂は、さつきも好きだから』


「て、あなた、実は丑の時参りの滝夜叉姫なんでしょ!?」


『あ、もうバレた?』


「妖術とか呪術とかで、鬼みたくなって、最後は大宅中将光圀てのに退治されたんでしょ!」


『アハハ、昔の話だよ、気にするな』


「いや、だって……」


『しかし、明日香、おまえ、まだおぼこ(処女)だったんだね』


「グ(# ゜゜#)」



 顔のニキビを発見したほどの気楽さで言われたが、言われた本人は、真っ赤になった……。

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