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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
44/109

44〔御茶ノ水幻想・3〕

明神男坂のぼりたい


44〔御茶ノ水幻想・3〕 





 将門……って、明神さまの?



「神田明神は、大黒、少彦名、と、この儂、平将門三人の共同経営だ」


「え?」


「すまん、思い浮かべただけで、明日香の考えは分かってしまう。ここからは、人同士の会話ということにしよう」


「え、あ、はあ……」


「五歳の時に越してきて以来、明日香の事は、よく知っておる」


「えと、越してきたのは四歳なんですけど」


 あ、チェック細かすぎた(;'∀')?


「つい、数え年で言ってしまった。生身の人間と喋るのは何十年もやっておらぬのでな。許せ」


「あ、いや、そんな(^_^;)」


 思わず両手をパーにしてワタワタと振ってしまう。


「神田明神と称してしまうと、共同経営の大黒、少彦名まで、含んでしまうのでな。最初に明らかにしておく。平将門として話をしておる。ここまでは、よいか?」


「あ、はい」


「ここはな、明日香風に申すと異世界だ」


「えと、勇者とか魔導士とか出てくる?」


「少し違うが、おおよそは、そうだ」


「わたし、ここから冒険とかするんですか?」


 どうしようRPGとか苦手だよ。魔法とか技とか錬金術とか、なかなか覚えられなくて、トロコンどころか、最後までいったゲーム少ないし、ドンクサイからオフラインのしかやったことないし……


「早まるな……すまん、またフライングしてしまった」


「いえ、いいんです。話、早いし(^_^;)」


「そうか、ここはな、儂のセカンドハウスなんだ」


「セカンドハウス?」


「調子がいい、横文字が出て来たな」


「神田明神以外に家を……あ、ひょっとして御旅所ですか?」


「おお、明日香は御旅所を知っているんだ」


「お祭りの時に、小さな神社みたいなとこで、お神輿置いて休むじゃないですか。お祖父ちゃんが『御旅所っていうんだ』って教えてくれました」


「うん、その一つだよ。祭り以外でも、時々やってきては、休憩したり散歩したり、けっこう自由にやってるんだよ」


「周囲は、なんだか時代劇がかってますけど(^_^;)」


「ああ、武蔵野という感じが好きなんでな……なんせ、本性は平安時代の田舎武士だからね」


「でも、オープンワールドかってぐらいに広いんですね」


「ああ、太田道灌と共用してるんでね、チャンスがあれば、あちこち案内してあげるんだが」


「あ、はい……」


「ここに呼んだのは、頼みがあるからなんだ」


「頼みですか?」


「娘を預かってほしいのだ」


「将門さまの娘さんですか?」


「ああ、さつきっていうんだ」


「さつき……いいお名前ですね」


「うん、五月生まれだからつけたんだけどね、『となりのトコロ』のさつきと同じだから、父親としても気に入ってるんだ」


 なんだか、利発で家族思いの女の子って感じ。


「ああ、親思いのいい子なんだけどね、儂と違って、めったに外にも出なくてね」


「引きこもり……」


「親思いで、いい娘なんだ。ずいぶん苦労を掛けたからね、引き取って、ここに住まわせている」


 そか、その娘さんが心配で、ちょくちょく寄ってるんだ……親子の情なんだねえ。


「あれから千年……しかし、このまま、ここに籠らせておくのも不憫でね。明神のひざ元、男坂でもあるし、明日香の世話になりたい」


「ひょっとして、わたしの従姉妹とかって設定になって、いっしょに暮して、学校とかもいっしょになるパターン?」


「そこまでは考えていない。明日香以外の人間には見えないし、声も聞こえない。一緒に暮らすことで明日香を煩わせることはない。明日香に付いて回ることで、さつきの世界を広げてやりたいだけなんだ。そういう刺激があれば、あれも、鬼になることはなくなるだろう。そうすれば、さつきは、また儂の所に戻って来る」


「え、あ、そか」


「頼まれてくれるか?」


「まあ、そういうことであれば……で、さつきさんは?」


『ここに居るよ、よろしくな、明日香』


「え!?」


 驚いて振り返るけど、人の姿は無い。


『ここよ、ここ』


「え?」


「すまんな、さつきは、もう明日香の中に居る」


『アハハハ、そういうことだ、よろしく頼むぞ!』


「ちょ、あんたが笑うと、体がガクガクするんだけど!」


『それだけ相性がいいということだ、さ、それでは行くぞ!』


「あ、ちょっと!」


 自分の意思とは無関係に体が動き出して、板橋のおじさんに連れてこられた道を逆に走り出した!


 いっしゅん振り返ると、将門さまが気楽に手を振っているのが見えた……




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