44〔御茶ノ水幻想・3〕
明神男坂のぼりたい
44〔御茶ノ水幻想・3〕
将門……って、明神さまの?
「神田明神は、大黒、少彦名、と、この儂、平将門三人の共同経営だ」
「え?」
「すまん、思い浮かべただけで、明日香の考えは分かってしまう。ここからは、人同士の会話ということにしよう」
「え、あ、はあ……」
「五歳の時に越してきて以来、明日香の事は、よく知っておる」
「えと、越してきたのは四歳なんですけど」
あ、チェック細かすぎた(;'∀')?
「つい、数え年で言ってしまった。生身の人間と喋るのは何十年もやっておらぬのでな。許せ」
「あ、いや、そんな(^_^;)」
思わず両手をパーにしてワタワタと振ってしまう。
「神田明神と称してしまうと、共同経営の大黒、少彦名まで、含んでしまうのでな。最初に明らかにしておく。平将門として話をしておる。ここまでは、よいか?」
「あ、はい」
「ここはな、明日香風に申すと異世界だ」
「えと、勇者とか魔導士とか出てくる?」
「少し違うが、おおよそは、そうだ」
「わたし、ここから冒険とかするんですか?」
どうしようRPGとか苦手だよ。魔法とか技とか錬金術とか、なかなか覚えられなくて、トロコンどころか、最後までいったゲーム少ないし、ドンクサイからオフラインのしかやったことないし……
「早まるな……すまん、またフライングしてしまった」
「いえ、いいんです。話、早いし(^_^;)」
「そうか、ここはな、儂のセカンドハウスなんだ」
「セカンドハウス?」
「調子がいい、横文字が出て来たな」
「神田明神以外に家を……あ、ひょっとして御旅所ですか?」
「おお、明日香は御旅所を知っているんだ」
「お祭りの時に、小さな神社みたいなとこで、お神輿置いて休むじゃないですか。お祖父ちゃんが『御旅所っていうんだ』って教えてくれました」
「うん、その一つだよ。祭り以外でも、時々やってきては、休憩したり散歩したり、けっこう自由にやってるんだよ」
「周囲は、なんだか時代劇がかってますけど(^_^;)」
「ああ、武蔵野という感じが好きなんでな……なんせ、本性は平安時代の田舎武士だからね」
「でも、オープンワールドかってぐらいに広いんですね」
「ああ、太田道灌と共用してるんでね、チャンスがあれば、あちこち案内してあげるんだが」
「あ、はい……」
「ここに呼んだのは、頼みがあるからなんだ」
「頼みですか?」
「娘を預かってほしいのだ」
「将門さまの娘さんですか?」
「ああ、さつきっていうんだ」
「さつき……いいお名前ですね」
「うん、五月生まれだからつけたんだけどね、『となりのトコロ』のさつきと同じだから、父親としても気に入ってるんだ」
なんだか、利発で家族思いの女の子って感じ。
「ああ、親思いのいい子なんだけどね、儂と違って、めったに外にも出なくてね」
「引きこもり……」
「親思いで、いい娘なんだ。ずいぶん苦労を掛けたからね、引き取って、ここに住まわせている」
そか、その娘さんが心配で、ちょくちょく寄ってるんだ……親子の情なんだねえ。
「あれから千年……しかし、このまま、ここに籠らせておくのも不憫でね。明神のひざ元、男坂でもあるし、明日香の世話になりたい」
「ひょっとして、わたしの従姉妹とかって設定になって、いっしょに暮して、学校とかもいっしょになるパターン?」
「そこまでは考えていない。明日香以外の人間には見えないし、声も聞こえない。一緒に暮らすことで明日香を煩わせることはない。明日香に付いて回ることで、さつきの世界を広げてやりたいだけなんだ。そういう刺激があれば、あれも、鬼になることはなくなるだろう。そうすれば、さつきは、また儂の所に戻って来る」
「え、あ、そか」
「頼まれてくれるか?」
「まあ、そういうことであれば……で、さつきさんは?」
『ここに居るよ、よろしくな、明日香』
「え!?」
驚いて振り返るけど、人の姿は無い。
『ここよ、ここ』
「え?」
「すまんな、さつきは、もう明日香の中に居る」
『アハハハ、そういうことだ、よろしく頼むぞ!』
「ちょ、あんたが笑うと、体がガクガクするんだけど!」
『それだけ相性がいいということだ、さ、それでは行くぞ!』
「あ、ちょっと!」
自分の意思とは無関係に体が動き出して、板橋のおじさんに連れてこられた道を逆に走り出した!
いっしゅん振り返ると、将門さまが気楽に手を振っているのが見えた……




