41〔離婚旅行随伴記・6〕
明神男坂のぼりたい
41〔離婚旅行随伴記・6〕
パーーーーーーーン
え また銃声?
旅行になんか、めったにいかないので、いっぺんに目が覚めてしまった。
殺人事件やら、明菜のお父さんが逮捕されたりで、興奮していたこともある。
明菜は、寝床に入っても悶々としていたが、明け方にようやく寝息を立ててグッスリ寝ている。
やっぱり、あたしは野次馬だ。
顔も洗わずにGパンとフリースに着替えて、音のした方へ行ってみた。
パーーーーーーーン
旅館の玄関を出ると、また鉄砲の音がした。
「やあ、すんません。起こしてしまいましたか」
旅館の駐車場で、番頭さんらが煙突みたいなものを立てて鉄砲の音をさせている。
「いえ、旅慣れてないから、早く目が覚めて……何してるんですか?」
「カラス追ってるんです。ゴミはキチンと管理してるんですが、やっぱり観光客の人たちが捨てていかれたたものやら、こぼれたゴミなんかを狙って来ますからね」
「番頭さん、カースケの巣が空だよ」
スタッフのオニイサンが指差す。
「ほんとか!? カースケは、これにも慣れてしまって効き目なかったんだぞ」
「きっと、他の餌場に行ってるんですよ。昨日の事件のあと、旅館の周りは徹底的に掃除しましたからね」
「カースケって、カラスのボスかなんかですか?」
単なる旅行者であるあたしは気楽に聞いた。
「ハグレモノなんだけど、ここらのカラスの中では一番のアクタレでしてね。行動半径も広いし、好奇心も旺盛で、こんな旅館の傍にに巣をつくるんですよ」
スタッフが、長い脚立を持ってきた。
「カースケが居ないうちに撤去しましょ。顔見られたら、逆襲されますからね」
「ほなら、野口君上ってくれるか」
「はい」
若いスタッフが脚立を木に掛け、棒きれでカースケの巣をたたき落とした。
バサ
落ちてきた巣はバラバラになって散らばった。木の枝やハンガー、ポリエチレンのひも、ビニール袋、ポテトチップの残骸……それに混じって大小様々な輪ゴムみたいな物が混じっていた。
輪ゴムは、濃いエンジ色が付いて……ピンと来た。
これは手術用のゴム手袋をギッチョンギッチョンに切ったもの……それも、事件で犯人が使ったもの。
「ちょっと触らないでくれます。これ、殺人事件の証拠だと思います!」
あたしは知っていた。殺人にゴム手袋を使って、そのあと捨てても、内側に指紋が残る。お父さんが、それをネタに本を書いていた。
やった!
幸いなことに、指先が三本ほど残っている。
番頭さんに言うと、直ぐに警察を呼んで、お客さんたちのチェックアウトが始まる頃には、見事に鑑識が指紋を採取した。
「出ました、椎野淳二、前があります!」
今の警察はすごい。指紋が分かると、直ぐに情報が入って現場でプリントアウトされる。写真が沢山コピーされて、近隣の警察に配られ、何百人という刑事さんが駅やら観光施設を回り始めた。
そして、容疑者は箱根湯本の駅でスピード逮捕された。
椎野淳二……杉下の仮名を使っていた。そう、明菜のお父さんの弾着の仕掛けをしたエフェクトの人。表は映画会社のエフェクト係りだけど、裏では、そのテクニックを活かして、その道のプロでもあったらしい。
明菜のお父さんは、お昼には釈放され、ニュースにもデカデカと出た。
たった一日で、娘と父が殺人の容疑をかけられ、明くる日には劇的な解決。
この事件がきっかけで、仮面家族だった明菜の両親と明菜の結束は元に……いや、それ以上に固いものになった。
春休み一番のメデタシメデタシ、明神さまのご利益……え、まだあるかも?
あったら嬉しいなあ!
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
明菜 中学時代の友だち 千代田高校




