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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
29/109

29〔月曜はつまらない〕

明神男坂のぼりたい


29〔月曜はつまらない〕 




 月曜はつまらない。


 

 理由は、学校がおもしろくないから。


 言わなくても分かってる?

 


 みんなもそうだもんね。


 あたしは、このつまらない月曜を、大学を入れたら六年も辛抱しなくちゃならない。


 え、働いたらもっと……ごもっとも。


 そこいくと、うちの親は羨ましい。


 お父さんも、お母さんも早く退職して、このつまらない月曜からは、とっくに解放されている。


 だから、月曜の「いってきまーす」「いってらっしゃーい」は複雑な心境。


 お父さんなんか、自称作家だから、時に曜日感覚が飛んでしまってる。


 今朝の「いってらっしゃーい」は、完全に愛娘が痛々しくも悲劇の月曜を迎えたいうシンパシーが無かった。



 お父さんが仕事してたころはちがった。


 保育所の年長さんになったころには分かってた。


 お父さんは、あたしを保育所に送ってから仕事場に行っていた。仕事場がたいがいだというのも分かっていた。都立高校でも有数のシンドイ学校。子供心にも大変だなあって思てた。


 小学校に行くようになってから、お父さんが先に出ることになった。


 七時過ぎには家を出ていた。仕事熱心だということもあったけど、半分は通勤途中に生徒と出くわさないため。


 登校途中の生徒といっしょになるとろくな事がない。タバコ見つけたり、近所の人とトラブってるとこに出くわしたり。だから、そのころのお父さんは可哀想だと思ってた。


 それが、あたしが中学に入ると同時に退職。


 可哀想は逆転した。


 お父さんは、早やくから起きて「仕事」。


 で、あたしは小学校よりもつまらない中学校に登校。そして、いまは高校。



 今日は、いつもより数分早く出た。



 いつものように男坂を駆けあがる。


 ほんとはね、いつかは友だちと駆け上がるようになりたかった。


 だって、男坂は四五人が横に手をつないだまま上がれそうなくらい幅が広いし、朝日が上から降って来るし、一人じゃもったいない。


『明神男坂のぼりたい』の『のぼりたい』には上り隊の意味もある。


 ほら、むかしアイドルグループで流行りだったじゃん。


『雨上がり決死隊』とか『渡り廊下走り隊』とかさ。


 でも、その夢はいまだにかなわずに、今朝も一人で駆けあがる。



 パンパン



 時間に余裕があるので、二発だけだけど小さく手を打ってお辞儀をする。


―― 今朝は、いろいろ人に会えるよ ――


 明神さまの声が聞こえたような気がした。



 よし!



 小さくガッツポーズして、随神門から出ることにする。


 巫女さんと笑顔の交換して、だんご屋のおばちゃんに手を振って、外堀通りを目指すべく湯島の聖堂を左に見ながら本郷通を南下。


 横断歩道を渡ってビックリした。


 向こうの歩道を関根先輩と美保先輩が私服姿で御茶ノ水の駅を目指してる。


 二人ともなんだか落ち着きがない。そして、あきらかに一泊二日程度の旅行の荷物と姿。



 卒業旅行? 



 だけど二人は学校が違う……こういうバージョンの卒業旅行は特別……バッグの中味が妄想される。コンドーさんに勝負パンツ……うう、鼻血が出る!


「どうぞ、楽しんできてください!」


 バカの明日香は外堀通りに下りる階段のところで声を掛ける。 


 キャ!


 美保先輩が可愛く悲鳴。


 これは、もう確実……挨拶も交わさないで階段を駆け下りる。


 医科歯科大を過ぎて郵便局が見えてくると、隣接してる地下鉄の地上出口から美咲先輩が出てくるのが見えた。


 なんか髪の毛いじって、右手で制服伸ばしてる……スカートが、真ん中へんで横に線が入ってる。今の今までたたんでましたという感じ。


 で、紙袋から、私服らしきものが覗いてる。


 気づかれないようにように距離を詰めると、明らかに朝シャンやった匂いがした。


 美咲先輩お泊まりか……慌てて距離をとると、また、頭の中で妄想劇場の幕が上がる。



 しょ しょ 処女じゃない 


 処女じゃない証拠には 


 つんつん 月のモノが三月も ないないない♪



 父親譲りの春歌が思わず口をついて出てくる。


 春歌で調子づいたので、いろいろ歌いながら学校を目指す。


 主にアニソン……なんだかやけくそ。


「こら、アスカ!」


「キャ!」


 こんどは、後ろ歩いてた東風先生におこられて飛び上がる。


「ボーっと歩いてんじゃないわよ、信号赤だぞ」


「すみません」


 先生は、そんなにセカセカしてたら早死にしますよってぐらいの速足で、わたしを抜かしていく。



 なんで、今日はこんな人らに会うんだろ。


 明神さまのお蔭?


 いらないお世話。


 いっしゅん思って打ち消す。


 神さまに文句を言ってはバチが当たります(^_^;)


 教室についたら、一番だった。



 で……違和感。



 直ぐに気づいた。


 金曜日まで花が載っていた佐渡君の席が机ごと無くなっていた。


 朝からのつまらないことが、いっぺんに吹き飛んだ。


 閉じかけていた心の傷が開いて血が滲み出してきた……。





※ 主な登場人物


 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生

 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問

 香里奈          部活の仲間

 お父さん

 お母さん         今日子

 関根先輩         中学の先輩

 美保先輩         田辺美保

 馬場先輩         イケメンの美術部

 佐渡くん         不登校ぎみの同級生

 巫女さん

 だんご屋のおばちゃん

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