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明神男坂のぼりたい  作者: 大橋むつお01
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22〔お祖母ちゃんの骨折〕

明神男坂のぼりたい


22〔お祖母ちゃんの骨折〕  



       


 お祖母ちゃんのお見舞いに行った。


 お風呂場でこけて右肩を骨折。いつもは元気なお祖母ちゃんがしょんぼりしている。


「もう一人暮らしは無理ねえ……今日子、どこか施設探してくれないかい」


 ベッドに腰掛けて、腕吊って、情けなさそうに言うお祖母ちゃんは、かわいそうと言うよりは可笑しい。


 まあ、今年で八十五歳。で、人生初めての骨折。弱気になるのは分かるけど、今回の落ち込みは重傷。


「あんな落ち込んだら、一気に……弱ってしまうなあ」


 インフルエンザが流行ってるので、十分しか面会できなかった。


 で、帰りにお祖母ちゃんの家に寄る途中で、お父さんがポツンと言った。


「そうだ、冷蔵庫整理してやらなきゃ」


 お母さんは現実的。


 入院は二か月と宣告された。やっぱり冷蔵庫の整理からだろうね。


 昼からは、伯母ちゃん夫婦も来た。もう病院の面会はできなかったみたい。



「ババンツ、いっぱい野菜買って……」



 伯母ちゃんとお母さんは、お祖母ちゃんのことババンツと言う。


 乱暴とかわいそうの真ん中の呼び方。


「あたしも、大きくなったら、お母さんのことババンツて呼ぶの?」


 小さい頃、そう言ったらお母さんは怖い顔した。


「そうだ、パーっとすき焼きしよう!」


 伯母ちゃんの一言で、にわかにすき焼きパーティーになった!



 なるほど、肉と糸コンニャク買ってきたら、すき焼きができるぐらいの材料だった。



 お祖母ちゃん苦しんでるのに大丈夫って言うくらい盛り上がった。


「しんどいことは、楽しくやらなきゃね」


 お母さんと伯母ちゃんの言うこともわかるけど、あたしは、若干罪悪感。それが分かったのか、こう返してくる。


「明日香は、ババンツのいいとこしか見てないからなあ。そんなカイラシイ心配の仕方できんのよ」


 そうかなあ……そう思ったけど、すき焼き食べてるうちに、あたしもお祖母ちゃんのこと忘れてしまって、二階でマリオのゲームをみんなでやってるうちに、お祖母ちゃんのこと、それほどには思わなくなった。


 明日香は情が薄いと思う自分も居たけど、伯母ちゃんとお母さんの影響か、コレデイイノダと思うようになった。


 帰りは、掃除して、ファブリーズして、おじさんの自動車に乗せてもらって家まで帰った。



 途中、信号待ちでクラスのS君を見た。



 ほら、十日戎のとき、あたしがお祖母ちゃんのために買った破魔矢をあげて、それから学校に来るようになったS君。


 歩道をボンヤリ歩いていた。一目見て目的のある歩き方じゃないのが分かった。


 そう言えば、先週は学校で見かけなかった。


 あたしってば気にも留めてなてなかった。


 破魔矢あげたのも親切からじゃない。間がもたないから、おためごかしに、あげただけ。S君は、それでも嬉しかったんだ。その明くる日からは、しばらく来てた。それから、あたしはS君のことほったらかし。


 ヤサグレに見えるけど、S君は、あたしなんかよりもピュア。


 おじさんの車は、あっという間にS君を置き去りにして走り出した。


 当たり前だ。あたし以外はS君のこと知らないもん。


「ちょっと、車停めて!」


 その一言が言えなかった。


 あたしは偽善者だなあ……なんだか、S君の視線が追いかけてくるような気がした……。




※ 主な登場人物


 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生

 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問

 香里奈          部活の仲間

 お父さん

 お母さん         今日子

 関根先輩         中学の先輩

 美保先輩         田辺美保

 馬場先輩         イケメンの美術部

 佐渡くん         不登校ぎみの同級生

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